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帰宅 その154

 俺は、辻堂駅の方角に歩いていた。

後ろから桜木と栃原先輩が付いて来ている。

 一月の冬の夜中は寒い。朝の登校時の格好なので、学生服にコートを来ているだけだ。


「どうして、付いてくるのだよ?」


俺は、桜木に抗議する。


「俺たちも帰るんだよ」


桜木が抗議して来る。


「こっちに来ても、もう電車がないぞ。終電は出てしまったしな」


「お前はどうするんだよ? 電車が無いんだぞ」


「俺は、自分で帰られる。放っていてくれ」


「俺達も連れて行けよ。友達じゃ無いか?」


「友達じゃねぇーし、あの時、ここに来たら困る事になると忠告したのに、聞かなかったのはお前達だ」


「あの時って?」


「お前が、栃原先輩に除霊して貰ってる時だよ」


「知ってたのか?」


「当たり前だ。あの時点で、十時半を回っていたじゃ無いか」


「でも、あんな女性に一晩付きまとわれるのは御免だよ」


「知るか! 俺には関係無い」

「だから、あの時にピカッーっと退治して貰えば良かったんだよ」


「結局、解決したのだから良いじゃ無い?」


栃原先輩が、二人の会話の間に入ってなだめて来た。


「それで、藤波君は、これからどうするのかな?」


「あなた達と別れて、家に帰るのです」


「どうやって? もう、電車無いわよ」


「放っておいてください。俺は、勝手に帰りますから」


「そう、私達を置いていくのね。良いわよ。明日、瀬戸山と少し話さないとね」


 栃原先輩が、これ以上は無いという素敵な笑顔で、最高に悪い笑いをしている。


「ああ、先輩、奇遇ですね。こんな所で、こんな時間に出逢うなんて」


俺は手のひらを返して、にこやかに挨拶をする。


「本当、奇遇ね。私達は今から帰る所なの。藤波君も一緒に帰る?」


 栃原先輩の脅迫に負けて、俺は三人で帰る事になった。


 俺達は、スマホで近くの児童公園を探して、やって来た。


「おい、藤波! ここは公園だぞ。どうして帰るんだよ?」


桜木が聞いてくる。言葉の端々に抗議の語気が気にかかる。


「だから、嫌なら付いてくるなよ」

「おい、カメラを止めろ。ここからは撮影禁止だ」


「ええぇ、どうしてだよ」


「いや、嫌なら良いんだ」

「ただ、今、帰りたいならカメラを止めろ。朝まで、ここに居たいなら、好きにしろ」


「チッ!」


 桜木は、舌鼓を打つと言うより、口に出して「チッ!」と言って、渋々カメラをカバンに収めた。


「お二人に言っておきますが、これから起こる事は他言無用です」

「それに、今後、最終電車に乗り遅れたからと言って、俺を頼らないで下さい」


「解ったわ。黙っているわね」


「解ったよ。喋らなければ良いのだろう」


「で、藤波君はどうするの?」


栃原先輩がニコニコして聞いてくる。

 右足に体重を乗せて、腰を少し捻って、胸の前で腕を組んで笑っている。

 全く、美人だし、スタイルも良い。だからと言って冷たい感じはない、いや、逆に温かみさえする良い女性だ。学校で人気が出るのも頷ける。桜木が羨ましい限りだ。


「空を飛んで帰りますよ」


俺は、背負っているカバンからウエストポーチを取り出して、そこからシャトルを取り出す。


「きゃっ!」

「うおっ!」


ウエストポーチから飛び出したシャトルに二人は驚いていた。


 シャトルは大きなコンテナぐらいはある。

アルミ製で、ボディーには「USS-1701D」と書いてある。


「おい!」

「どうしてこんな物が」


桜木が何か言ってるが、俺は無視してリアゲートを開ける。

 ゲート横の小さな蓋を開け、テンキーに暗証番号を打ち込むだけだ。

ドラマ内にはない設定だが、安全の為には仕方がない。勝手に使われても困るからだ。


「プシュー」と音がして、後面の壁が下に開いて、リアランプになる。

もちろん、この音はわざわざ付けてあるのだ。


「おい!」

「なんだ、これは?」


「煩い! 乗れ!」

「先輩も、乗って下さい」


 二人が恐る恐るランプドアを上って、暗いシャトル内に入っていく。


「ああ、どうぞ、その辺の椅子に座って下さい」

「一番前、左側の椅子は空けておいて下さい。俺が座りますから」


 俺は、床近くの壁のパネルを外した。中には、市販の発電機が設置してある。上部の燃料タンクとエンジン部分は取り外してある。代わりに、円筒形の容器が取り付けてある。


 短い呪文を唱えると、発電機が回り始める。「ブーン」と軽い振動と音がしている。

俺は、発電機が定速運転を始めたのを確認して、壁のパネルを閉じた。


 俺は、座っている桜木と栃原先輩の間を抜けて、一番前の左側の席に着いた。

座席前のパネルに手を当てて、短い呪文を唱える。


「ピポ」と音がして、最低限のパネルと室内の非常用照明が点いた。


「コンピューター、リアランプを閉じろ」


「はい。リアランプドアを閉めます」


俺が後部ハッチの扉をしめるように命じると、女性の声が返事をして、扉が閉まり出した。


 リアランプドアが閉まると、


「リアランプドアが閉まりました」


と声がする。


「コンピューター、室内の照明を点けろ」

「エアコンを起動。室温26度に調整」

「前部モニター起動」

「通常エンジン起動。300m上昇」


全ての命令に、女性の声で復唱し、命令が実行された。


「藤波! これは何だ!」


「シャトルポットだよ」


後ろの席から、桜木が聞いてきた。


 座席は前部に前向きに四脚設置されている。

後部には、折り畳み式の座席が内向きに壁際に四脚設置されている。ただし、これは今は壁に収納されている。


「藤波、お前、やっぱり、未来人だったのか?」


「まさか、さっきの発電機はホンダ製だし、エアコンはダイキンの天井埋め込み式業務用エアコンだ」

「このモニターは東芝製の液晶テレビを並べてあるんだよ」

「そして、この床の下には、パナソニック製のリチウムイオン電池が入ってるぜ」


「えっ? 本当だ。東芝だ。あはは、すげー!」


桜木が前部モニターに顔を近ずけて、感心したり、笑ったりしている。


「藤波君、これはどうして飛んでいるの?」


「単純に空飛ぶゴーレムですよ。格好はこんなのですけど」


「ああ、なるほどね」

「私、一回この、この、何? シャトルに来た事があるわよね」


「文化祭の時ですね。こいつが黒焦げになった時、まだ、サイドバイサイドの転送が出来なくて、一旦この船に収容したのです」


「あの頃から、こんな物が作って居たの?」


「もっと前ですよ。空飛ぶ箒は、これの製作の前実験だったのです」


「そんなに前から」


「コンピューター、高度を100mに落として、西進、東京農大を目指せ。時速150キロ」


「はい。高度を100m、時速150キロ、西進します」


 俺は、会話を止めて、シャトルに指示を出す。


「全て音声で命令するのか?」


「いや、タッチパネルでも出来るよ」

「音声じゃ、微妙な命令が伝わらないんだよ」

「二次元なら、直線なら方位、カーブなら半径を指定すればいいが、三次元になると仰角や左右のロールの角度も指定しなければならない」

「その時は、タッチパネルを使うんだ」

「しかし、今みたいな命令はファジー過ぎて、理解出来ないんだ」

「だから、何遍も実行して、許容範囲を教え込ませるんだ」


「はあ、お前、何言ってんだ?」

「まあ、タッチパネルを使うんだな」


桜木は、微妙な納得のいかない顔をしていた。


「でさぁ~、高度を上げた方が安全じゃ無いか?」


「ああ、空自のレーダーに映るだろ」

「厚木基地と横須賀の艦艇には確実にバレてるよ。ヘリコプターと思われてるかもしれないけどね」

「イーグルやF-2と戦えないだろう」

「魔法の攻撃って速度が遅いんだよ。銃弾や対空ミサイルに比べたら、止まってるようなものさ」

「光弾や火球って、飛んで行くのが目に見えるだろう。20mm機銃や対空ミサイルって音速超えてるからね。気付かないうちに撃墜されてるよ」

「それに、航空無線の無線機も免許もないしさ。警告されても分からんしな」


桜木は、スッキリしたコントロールパネルを見て頷いている。


「じゃあ、連絡は如何するのだ?」


「携帯が有るだろう。この高度に速度なら、十分圏内だよ」


「ああ」


 三人でモニターを見ながら、飛んでいた。普段、地上から見る景色を上空から見ると新鮮だ。桜木達は、少し興奮している。


「で、西に行って、どこに行くのだ」


「まさか、厚木基地の上を堂々とは飛べないだろう。山に隠れるのだよ」


「瀬戸山とこの様なデートを楽しんでいたのね」


「葉月は載せた事がないですよ」

「まだ、未完成ですからね。彼女を危険に晒す訳にはいきませんからね」


「俺たちは危険でも良いのかよ」


「特に問題ないし、断ったのに付いて来たのはお前達だろ」


「……。相変わらずストレートだな」


「ピッ、東京農大付近に到着です」


「コンピュータ、針路を北に変えろ」


シャトルに、進路変更の指示を出す。


「ふふふ、藤波君はそんな子よ」

「何を期待しているの?」


「先輩、そろそろ着きましたよ」

「これを付けて、後ろの円が描いてある所に立っていてください」


「このシャトルの事は誰にも言わないでくださいね。完成したら、俺から言うので」

「桜木、お前もな」


「ええ、解ったわ」


俺は、コミュニケーターを栃原先輩と桜木にわたす。


「位置の確定が難しいので、胸につけておいてください」

「慣性も殺さないといけないので。勢いを殺さないと、150km/hで壁に激突ですからね」

「桜木、お前が焼き餅焼くから、先輩から下ろすぞ」


「コンピューター、一名転送!」


栃原先輩が光の粒子に包まれて、体が光だし、消えて行った。


「コンピューター、R5kmで110度に転進」


俺はシャトルを東に向けて飛ばし、5分ほど経った時、桜木を下ろした。


「桜木、降りろ。時間だ」


「えっ、あそこの円に立てば……。」


「コンピューター、一名転送!」


転送用の魔法陣に移動しようとして、後ろの席から立とうと、腰を浮かせた桜木を転送してやった。

ブックマークと多分高評価をありがとうございます。



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