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152/215

行くのか? その152


 駅前ロータリーのベンチに移動させて、桜木を寝かせる。


桜木は、その間もカメラを止めていない。流石は桜木である。


 俺は、覗きレンズを覗きながら、まず、背中の猿を引っぺがす。


足を持って、歩道の色を塗られたアスファルトに、ゴンゴンと叩きつける。


「プハーッ!」

「そいつ重くてよ、息は出来ないし、手足は動かないし」

「藤波、助かったよ」


「あなた達、何してるの? どうして、はじめがこんなに憑かれてるの?」


栃原先輩が、また、俺に怒ってきた。



(俺が知るかよ。本人に聞いてくれよ)


 引っぺがした猿は、ブヨブヨのミズクラゲのようだ。それに、アスファルトに叩きつけても答えている様子がない。


俺は手を休めずに言った。



「その手の奴もこっちに貰おうか?」


「お前、素手で引き離せるのか?」


「別に、掴んだら、掴めるし」

「第一、向こうが掴めるのだから、こちらからだって掴めるだろう」


「じゃあ、なぜ? さっきから助けてくれなかったんだよ!」


「何も言わなかったじゃん。困ってるみたいだから、一応、先輩は呼んであげただろう」



「それが友達にすることか?」


「お前とは、友達では無い」


「ああ、そうだったよ」


 俺は、五組の手首も猿にまとめてまとめて、アスファルトにゴンゴンと叩きつけている。


「何してたの? ちゃんと答えなさい」


「いやあ、なんか、撮影してたらいっぱい寄って来たみたいで」


 俺はベンチ坐って、足でそれらをゴロゴロ転がして、奴等を丸めている。


「藤波君、止めてくれる? うるさくて仕方がないの」


「え? なにが?」


辺りは静かだし、俺も音を出していないし喋ってもいない。


「あなたがさっきから転がしているそれ、さっきから口々に悪態を突いて煩いの」

「落ち着いて、話も出来ないわ」

「それ、要るの?」


(要るの? と言われても、俺にはどうしようもないから転がしているのだけど)


それに、栃原先輩は相当イラついている様子だ。


「いえ、要りませんけど、野放しにも出来ないので」


「じゃあ、良いわね」


 栃原先輩は右手を上げて、呪文を唱え出した。俺も知ってる呪文だ。


ホーリーライトを唱えると、右手が光り出して、その手を俺の足元に向けた。


ただ、それだけだった。


ただそれだけで、足元の丸まった何かは消えていた。


「で、こっちは?」


栃原先輩が、桜木に憑いてくる女性の方を指して聞いてくる。


「そっちは何もしないのだけど、何かずっと付いて来るんだ」


「はじめ、見えているの?」


「カメラの液晶越しだけどね」


栃原先輩は、怪訝そうな顔をしてカメラを見て言った。


「それで寄って来るのね」

「何か約束したの?」


「いいや。声なんか聞こえないし」

「何も約束なんて出来ないよ」


「そうね」

「『家に、連れて帰って欲しい』と泣いて訴えてるわよ」


「え? 俺たちに?」


(桜木、お前にだよ。俺を仲間に入れるな)


俺は、そっぽを向いて、無言の抵抗をした。


「えぇ~と、『藤沢市辻堂』ってワードが出てくるの」

「そこじゃないかしら」



「先輩、さっきの光るやつで、パーッとやっつけてやって下さい」


俺は、話の流れをぶった切って、幽霊退治を提案してみる。


「何言ってんだよ。行くに決まってるだろう」


桜木が、俺を諌めて来る。


「いや、止めておけよ。いつの話かわからないだろう」

「そこに誰も住んでいないことだってさ有るし、行ったら更地になっている事もあるんだぞ」


「それを含めて納得して貰いたいのさ」

「そして、行くべきところに行って貰うのさ」


なぜか、桜木がドヤ顔で言ってきた。


「別に良いけどさ、じゃあ、また明日な」


俺は、二人に別れの挨拶をして帰ろうとした。


「どうして帰るんだよ」


「はぁ? もう遅いし、用事も終わったし」

「今日は塾に行けなかった分、勉強したいんだよ」


「いや、これからだろ」

「この先、どうなるのか気になるだろう?」


「全く」


「藤波君はブレないね。瀬戸山に聞いた通りだな」


栃原先輩が、口を挟んで来た。


「今日なら、付いて行ってあげても良いけど、藤波君は帰りたいようだし、一緒に行けないなら、明日にしようか?」


(だから、俺は関係ないって)


「今晩でも、明日でも構わないので、二人で行って下さい」

「俺はその人に興味が無いので」


「え? 行かないの? どうして?」


「聞いてました? 俺はその人に興味がないし、今晩は、早く帰って勉強したいのです」


「おい! 藤波、このまま、今晩行こうぜ。俺も、憑かれたままじゃ寝れないよ」


「あれ? 何故あなた達は、彼女が人だと理解してるの?」


「見たからです」


「見たんだよ。何が映ってるのか確認しなきゃ分かんないだろう」


栃原先輩の質問に、俺と桜木が返答していく。


「この覗きレンズを使って覗くと、ちゃんと見えるんだ」


桜木が、覗きレンズで自分の周りを見る動作をして、栃原先輩に渡した。


 栃原先輩は、桜木に渡された覗きレンズを覗いて、引いていた。


 地面の底に流れるマナの川、地上近くを流れているところから、噴水の様に吹き出すマナ。高さは、マンションを超えて、空にまで噴き上げている。

遠くの者は光点に、近くのものは金魚や昆虫になって空中を泳いでいる妖精達。


 霊視の能力が有る自分達が普段見ている光景より、より深く、よりハッキリと映像として見えていたからだ。

そして、桜木に憑いて来ている霊は、三、四十代の女性で、打撲跡と出血が酷い状態だ。


「な、何これ? こんな物聞いた事がない」


栃原先輩が、覗きレンズを覗いて驚いている。


(作った俺だって、今までに見た事も聞いた事もないよ)


「な、凄いだろ。魔法が使えない俺でも使えるんだぜ」


「どうして?」


(どうして? って、迷宮でこいつが使ってた武器は、全部そうだったろう)


「そこを藤波に作って貰ったんだよ」

「便利だろう。色々見えるんだぜ」


「そんな事してるから、色々憑いて来るのよ」

「私がいる時で無いと使っちゃダメよ」

「次は取り殺されちゃうわよ」


「ああああぁ~? どうかな? 全部の取材について来るの?」


「ついて行きます」


そう言う事になった。


「じゃあ、明日な」


俺は二人と別れて、駅への道を歩き出した。


「んん? どうして付いてくるんだよ。俺は帰るんだよ」


俺の後ろを桜木と栃原先輩が付いて歩いている。


「藤波! 製作者なのだから、最後まで責任持てよな。途中で壊れたらどうするんだよ」


「ははは、知るか。馬鹿」

「俺は、勉強が有るし、寒いから、もう帰るのだよ」


「馬鹿って、藤波くぅ~ん。馬鹿ってぇ」

桜木が遊び出している。



2021/10/05/19時以降に読まれた方は、大丈夫です。

2021/10/05/19時以前にに読まれた方は、これは新たに追加された話です。

スマホで投稿していたので、投稿を飛ばした話です。

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