オーブの説明 その149
一月八日、新学期が始まった。
毎度ながら、クラスを訪れる生徒が沢山いる。勿論、目的は蘇我さんだ。
隣の席の俺は、すでに居場所がなかった。蘇我さんの席が、黒山の人だかりだ。二年生、三年生もやって来ている。可愛い戦う魔女っ子なので、もう人気爆発だ。
その頃、魔法部の栃原部長代理と剣道部の高安さんの教室が同様の騒ぎになっていた。
全て、桜木が公開した迷宮の合宿同行動画が原因だ。
八日は始業式だけなので、クラブのない者はさっさと帰る事が出来る。
俺は、荷物をまとめて下校準備をしていた。
そこに桜木が走って来た。
「藤波! いるか?」
「キュッキュッ~」
「え? 何? いるか?」
「キュッキュッ~」
今度はモノマネも付けてやる。
イルカが尾で水面に立ち、後ろに進むモノマネをする。
「……。」
魔が差したというか、思いっきり滑ってしまった。
「あのなぁ、物は相談なのだが、幽霊が映るカメラって作れないのか?」
そのような物があれば、メーカーが作っているだろう。
「無理だ。あれらはこちらの世界に実在していない。」
「見ると言う行為は、太陽の光を反射した反射光を目のレンズが焦点を合わせて、眼球内の後ろ側の視神経に投影し、その視神経が興奮し、脳に電気を流して、脳内で映像として認識しているのだ」
「だから、幽霊が見えているのは、見た本人が過去の情報や映像から合成した虚像にしか過ぎない」
「そうか。でも、そこをサザンの力でどうにか出来ないか」
桜木がしつこく聞いてくる。
「無理だよ。文献にも一つ二つしか例がないんだ」
「え? 例はあるんだな?」
「有るけど、成功した話が載っていない」
「それよりか、心霊写真とかあるのだから、カメラの問題じゃないだろう」
「ああ、あんなのは偽物だよ」
「お前でも、嘘やフェイクに引っかかる事があるのだな」
って、桜木にオカルト事を全否定されてしまった。
「俺だって、興味が無い事と、受験に関係ない事は知らないぞ」
「それに、なぜフェイクなら誰も訂正しないのだ」
「楽しんでいるからね」
「嘘に騙される事を楽しんでいるんだよ」
「それに、儲かる人々もいるからな」
「藤波、人は黒い点が二つ並んでいたら顔と判断するのだよ」
「木々の中や滝の写真に霊が多いのはその為さ」
「ああ、シミュラクラ現象だな」
「知っていたのか?」
「まあ、心霊写真なんて、ほとんどがそれさ」
「オーブとか言ってる丸い光も有るじゃないか?」
「あはは、あれな」
「あれは、何処かの放送局と自称霊能力者が言い出したんだ」
「それまで、一度も言わなかったのにな」
「お前、自分のクラブ活動を全否定するのな」
「写真をやっていたらわかる事なんだ」
「否定じゃないよ」
「はあ」
(俺は、どうして桜木の解説を聞いているんだ?)
俺の気の無い返事を無視して、桜木が喋っている。
「虫眼鏡じゃ焦点が合わないんだ」
「プリズムってあるだろう。光を7つの色に分ける三角形のガラスの」
「ああ、理科の実験に使うやつな」
「レンズでも同じ事が起こるのだよ」
「色によって焦点距離が違うんだ」
「ああ、そりゃそうだな」
「だから、写った写真が滲むんだ」
「『写ルンです』って、レンズ付きフィルムって言うんだけど、いわゆる使い捨てカメラで撮った写真は、どことなーくちゃんと写っているような、なんとなーくピントが合っているような写真になっているだろう」
「ああ、お前の持っているようなカメラで撮った写真はそのようじゃないな」
「ああ、それはな」
「で、だから、絞りを絞って有るんだ」
「そうすると、ピントが合っている様に見える距離が伸びるんだ。被写界深度って言うんだけどな」「手前から、奥の方までピントが合ってるように見えるんだ」
「ふん」
「するとな、ああ、物の側を光が通ると曲がるんだ。これを覚えておいてくれ」
「光の回析だな」
「……知っているのか」
「当たり前だ」
「で、レンズの絞りは羽を動かして穴を小さくしたり、大きくしたりするんだ」
「そして、鋭角な角を作らない様に、丸くなる様に羽を増やすんだ」
「しかし、そうすると、構造が複雑で重く、高いレンズになるんだ」
「ああ、そりゃそうだな」
「で、妥当な数字が六枚とか八枚なんだ」
「ドラマで、朝日を映すと六角形のキラキラが映るだろう。漫画なら光の放射線に六角形のキラキラを描くだろう」
「あれはなぁ、実は絞りが写ってるんだ」
「焦点距離が違うレンズを何枚も重ねてな、凹レンズと凸レンズや材質を変えて屈折率を変えて、フィルム面に合焦した時に滲まないようにして有るんだ」
「そのレンズに強い光を当てるから、鏡筒、レンズな。の中で乱反射しているのが写っているんだ」
「ま、本当は写っちゃいけない物が写っている風景を、朝の演出に使っているんだ」
「ああ」
(俺は、さっきから何を聞かされているんだ?)
「でな、藤波、お前、写真屋に写真を撮りに行くと、傘の内側にストロボを付けたようなのを横で光らせて撮るだろう」
「正面に置くと、顔の陰影が潰れるからなのだけどな、安物のカメラはレンズの横にストロボが付いているんだ」
「でな、オーブの写真なんだけどな、普通に写真を撮ると、ピントが1.5m程から遠く、オートなら数m先の被写体にピントが合わされるんだ」
「暗いので、絞りを開いているしな」
「うん」
(いや、もういいよ。何を俺に語ってるんだ)
「でな、レンズの前に埃が飛んでいる時にストロボを光らせるとな、埃に光が反射して露出オーバーで写るんだ。ピントが合っていないまま」
「反射した強い光がレンズに入って、写るんだ。写ルンですや安物のカメラは絞りがプラスチックの丸い穴なんだ。だから、綺麗な丸いオーブが写るんだ」
「それを、ある自称霊能力者がオーブって言い出したんだよ」
「ああ」
(終わったのか? もう、オーブの解説は終わったのか?)
「だから、俺達オカ研もそんな写真をワザと撮りに行くんだよ」
「偽物と判っているのにか」
「ああ、人気が有るのだよ。これが」
「墓とか石碑や自殺現場にオーブが写っていると言ってな」
「これ、結構閲覧数が跳ね上がるんだぜ」
ブックマークしていただきました。
ありがとうございます。
ブックマークの数って、覗いた時の数が確認出来るので、ブックマークして頂いても、誰かが剥がしていると、数字上は同じに見えます。
なので、ブックマークをしたのに無視されたという人がいたらすいません。
評価も同じです。
その時の点数しか分かりません。
無視はしないつもりですが、気付かなかったら御免なさいね。