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初詣のおみくじ その148

寒いね。大丈夫?」と瀬戸山さんに聞いてみた。

返答によっては一旦中に入って、焚き木に温まっても良いと思っている。


「ううん、大丈夫よ」との返事だったので、このまま並んで待つことにした。


 龍山部長と山本と日向が、この場を盛り上げようと、何やら騒いでいる。


 オカ研の藤谷部長が寄って来た。桜木に用が有るようだ。


「この間の動画な、反響がすごいんだ。もう、大学から二件、映像データの提供依頼が来ているぞ」

「オークやゴブリンだけでなく、大蜘蛛やトロールにオーガロードだろう。本邦初映像も多いからな」


「ええ、いろいろ映っていますからね」


「その色々の部分が、話題でさ。カウンターが回りっぱなしさ」


「暗闇の洞窟で良く撮れていましたからね」


 勿論、編集作業は桜木も参加していたのだ。その画像を知らない訳は無かった。


 ただ、エンディングのおまけ映像の人気も凄かった。

参加者の入浴シーンが付いていたのだ。

女子も男子も湯船から立ち上がってポーズを取っていた。

大事なところは映らないようにしていたが、一部男子はボカシが必要だった。腹筋の割れているところを強調したり、鍛えた筋肉を自由にアピールしていたのだ。

最後に胡桃さんがフルヌードの後ろ姿で映っている。彼女がオカ研の男子が入っている湯船に入ろうとして、男供が慌てて湯船から逃げ出したところで終わっている。そして、映ってしまった男子の大事なところにはゾウさんマークのボカシが必要だった。


「多分、来年の部費は結構有るぞ!」


「本来の撮影ロケに、もっと行けますね」


「いやいや、魔法部を映研が狙っているんだ。文芸部も噂に上がって来ているし、魔法部コンテンツはやめられないよ」


「文芸部も?」


「密着して、エッセイやら、レポートを書くつもりらしいのだ。噂だけどな」


 俺は、横で聞いていて笑ってしまった。ただ、各クラブに密着レポートと言うのは良いんじゃないか? と思ってしまった。


「ジュウ!」


「キュウ!」


「ハチ!」


突然、前方の方でカウントダウンが始まった。


「ナナァ!」


「ロク!」


鳥居の下で待っていた若者達が、大きな声でカウントダウンを行なっている。


 カウントダウンが終われば列が動く出すので、俺は瀬戸山さんの手を握った。


「ゴー!」


「ヨン!」


「サン!」


「ニィー!」


「イチ!」


「あけましておめでとう!」

「おめでとう御座います!」



ブブブゥーーー!

ぴろぴろぴろぉーーん!

チャンチャカちゃんちゃんちゃんかちゃんかちゃん!


 あたりの人達が新年の挨拶をし出して、スマホにアケオメメールがガンガン入って来る。


 俺は、背を屈めて、瀬戸山さんに「あけましておめでとう」と言った途端に列が動き出した。


 境内まで進むと、中は混雑していない。本殿前が混んでいるだけだ。


 胡桃さんと桜木が、


「四人は集まっていて下さい」


と言いながら、撮影をしている。

どうやら、四人が同じフレームに入って拝んでいるところを撮りたいようだ。


 部長の藤谷と剣道部の高安さんは完全私用で、カメラなどは持って来ていないようだった。

どちらが正しいのか、悩むところだ。


 俺は、葉月とはぐれてしまったので、ぼっちでお参りだ。はぐれたと言っても、そこに居るのだが、四人の中には入れてもらえないのだ。

 お賽銭は、お正月なので奮発して百円にした。そして、二人して永遠の愛を神様に祈った。多分、きっと。ひょっとしたら、俺だけかもしれないが。


 お詣りが済むと、皆が社務所前に集まっているので、そちらに集合した。


「おみくじを引くぞぉー!」


山本が、場を盛り上げている。



凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、凶!、


物の見事に全員十五名が凶を引いた。

全員が同じ番号と言うことはない。同じ凶でも、何種類も有るのだ。

それらを見事に引いたのだ。


 それを桜木達が撮影している。


 俺以外の、メンバー達の空気感が重い。おみくじの各結果の割合が異常な値に偏っているからだ。


「じゃあ、ちゃんと占ってもらおうか?」


秋山さんが言い出した。

日向との仲を占ったら凶と出たのだ。付き合い出した女子にとって、こんな結果は受け入れられないのだ。


「そうだねぇ」


蘇我さんも同意して来た。


「じゃあ、何処にする?」


「三代目マダモアゼル星子の館は? 優子さんが良いらしいよ」


オカ研の富士見さんが提案する。


(三代目って何だよ! で、星子じゃなく優子って)


 そこに居た女子達と一部の男子は賛成する。


「時間は、八日の三時で良いか?」


「あ、俺達、倶楽部があるわ。無理!」


「じゃあ、十日は?」


「十日は大丈夫」


 元旦の早朝の神社なので、参拝客は多い。特に、この時間は若者が多いのだ。その為、あたりはガヤガヤと騒がしい。


 会話と言うのは、喋っているばかりではない。息継ぎもあれば、間も有るのだ。

その、数十、数百と言う会話の切れ目が重なった。

 一瞬、静寂が訪れた。

 そして、その奇跡の空気を読まない馬鹿がいた。


山本だ。


「じゃあ、十日の午後三時半、マダモアゼル星子の館な!」


その声は境内に響き渡った。


 一瞬を置いて、ガヤガヤとザワザワと話し声やガランガランと鈴を鳴らす音がやって来る。

雑踏の中、勿論、山本のそんな言葉を気にする者はいない。


「予約取るから、行く者は手を上げて」


あくまでもリーダーシップを取る山本だ。


 女性は全員が手を上げた。サッカー部の三人もオカ研の二人も手を上げている。

俺は、その様子を黙って見ていた。


「じゃあ、十四人だ、な?」


山本が疑問形になりながら、俺を見ている。


 俺は微笑んで、頷く。


 突然、左脇腹に痛みを感じた。

見下ろすと、蘇我さんが肘で俺を突いて来た。いわゆる、肘鉄と言うやつだ。


「ばっかじゃないの?」


「はい?」


「どうして行かないのよ」


蘇我さんが、俺を攻めて来る。


「十日と言ったら、大学入試共通試験直前じゃないか。授業があるのだよ」


俺は、端的に、わかりやすく予定が入って居ることを説明する。


「あなたの共通試験は二年後でしょ。今、すべき事をしておかないと後で後悔するわよ」


と、蘇我さんが葉月を目で指す。


 俺が振り向くと、悲しそうな顔で手を上げている。

(はて? 葉月の悲しそうな顔は俺が原因なのか?)


「先に後悔は出来ない……。」


今度は右脇腹を葉月に突かれた。

見ると首を横に振っている。


(何? 俺は今、何かを間違っているのか?)


「ああ、今の時期は受験直前模試とかあって、予想問題と対策が練りこまれた授業をやっているんだよ。今更、もう基礎を勉強しても遅いからね」


(どやっ! 正解の回答だったろう)


「だから馬鹿なのよ。今は試験と彼女とどちらが大事なの?」


「もちろん葉月だ」

「が、しかし、彼女との間は特に問題が起こっていない」

「再度占うと言う行為にも、疑問がある。好きな結果、希望する結果が出るまで占うと言うなら、占の意味がない」

「第一、大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶と6種類ある中で、各種16枚程度の種類があるみたいだ。」

「現に、我々は15人で一枚も同じ凶を引いていない。つまり、15種以上の凶が入っているわけだ。印刷業者に依頼を出しているのだろうから、各種、同程度の量が刷られているのだろう」

「それに、我々は一から百まで数字を書かれた棒を引くわけだ。ここでは、どの数字も出る確率は同じ」

「その数字を、あそこの巫女さんに告げると、あの小さな引き出しから占いを書かれた紙を出してくれる訳で」

「各占いが出る確率を操作しているとすると、あの引き出しの中身を変えれば、確率の操作が出来る。お正月なので、吉や大吉がよく出る様にはしてあるだろう」

「そして、我々が凶を引く確率は、一分の六の十五乗だ。

相当低いが出ない数字ではな……。」


その時、葉月が俺の右手を持って上げた。


「はい! 全員参加を頂きました!」


「え?」


 俺は自分の右手を見て、其の手を掲げている葉月の手を見て、その手が付いている葉月を見た。


「じゃあ、難しい確率の計算は家で出して、ちゃんと十日に来るのよ」


蘇我さんが、俺を上から目線で予定を入れて来る。

(いや、だから、試験直前の講義が)


 元旦の昼に、葉月と二人で明治神宮にお参りに行くことになった。

一旦帰って、少し仮眠を取る。

 一体、何回初詣をする気なのだろうと思うが、初デートだと思えばいい。

因みに、橋本から新宿まで京王線で乗り換えなしで、一時間程度で着くのだ。デートには持って来いの丁度いい距離なのだ。


 二日が川崎大師で、三日が鶴岡八幡宮だった。どうやら、葉月は俺に勉強をさせない作戦に出たのか、手を上げなかった当て付けだろうか、俺への復讐か?


 別に仲が悪い訳ではないので、楽しい三が日では有ったが、勉強が出来ずにストレスが溜まって行った。

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