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大晦日、二年参り その147


 俺は、橋本駅に急いでいた。

今日は、12月31日で、葉月と初詣の二年参りに行く事になっていた。

 二年参りとは、大晦日に神社に向かい、新年の元旦の午前零時に初詣を行うことを言う。年越し参りとか夜参りとか言う地方もある。


 年末の予備校は、年越しの受験勉強と、新年の挨拶、受験合格祈願、そして「合格するぞー!」と奇声、失礼、気勢を上げて、朝まで勉強をするのだが。

 この時期は、体調管理に睡眠をしっかり取りたいので、俺は参加していなかった。

やはり、去年と言うか、まだ今年だが、受験の時に体調を崩したのがトラウマになっている事も有ったと思うが、夜は3時には寝ているようにしていたのだ。

それで、深夜の講義は受けていなかったのだ。


 いつも通り10時半ぐらいまで講義を受けて、帰路に着いた。

 橋本駅まで、電車に乗ると十数分の距離だ。大晦日の深夜の電車は、意外と乗客が多い。田舎に帰っている人が多い中、サラリーマンも居らず、閑散としているが、なぜか、乗客で座席は埋まっている。


 橋本駅は、横浜線、相模線、京王電鉄が乗り入れており、駅前に大手スーパーやショッピングセンター、映画館などが有り、賑やかな駅だ。


 俺達は、ショッピングセンターや大手スーパーのある側の改札で待ち合わせをしていた。JRだけでも横浜線と相模線が有り、待ち合わせ場所を決めておかないと、入れ違いになってしまう恐れがあるからだ。


 改札機にカードをかざして、改札を出ると、葉月達の姿が見えた。


(ん? 葉月達?)

 何故か、約束をした覚えのないクラスメイト達の姿もあった。


 葉月に、蘇我さん、秋山さん、靏見さん、桐崎、ここまではクラスメイトだ。別に居ても不思議じゃ無い。

日向に 山本に龍山のサッカー部の三名も居る。

いや、解るけど、俺たちに合流しなくてもいいよね。なぜ、自分達で行かない?

それに、桜木に栃原先輩。

だから、なぜ俺達と合流する?


それに、オカ研の富士見さんに胡桃さん、部長の藤谷に剣道部の高安さん。


 はぁあ、総勢十四名が改札前で俺を待って居た。思わず、このまま帰りたくなったよ。


「勇人! こっちぃ!」


瀬戸山さんが俺を見つけて手を振って居る。


 俺は、軽く手を上げて、葉月達の方へ歩いて行く。


「どうして皆がいるの?」


「みんな、待ってたのよ」

「えっ? 私が声をかけたからよ」


「呼んだんか~い!」

(勇人は、エセ関西弁で突っ込んでみた)


「何?」


「いや、いい」


「フージーナーミー!」

桜木が声をかけて来て、手を振っている。

横には、栃原部長代理が立っていた。


「おう!」

軽く手を上げて挨拶をしておく。


「さあ、全員揃ったので行きましょう」

蘇我さんが音頭を取って、出発となった。


 二年の先輩方が居るのにどうかと思うが、魔法の実力とカリスマを考えると、意を唱える者はいない。


 因みに、俺は遅れたわけでは無い。ここまで来る電車の都合で、集合時間の十分前に着く予定だったし、現実、そうなった。

そして、到着時間は前もって瀬戸山さんには伝えてあったのだ。


 橋本駅は田舎の駅という訳ではない。しかし、大都会と言う訳でもなく、典型的な地方都市だ。

駅前に大型ショッピングセンターが有るが、少し外れると、低い雑居ビルやマンションが立ち並ぶ。

その中を北西に向かって線路沿いの商店街を歩き出した。

 所在地は相模国と言う事になるが、冬は、上州では無いが、山を越えて吹き下す武蔵野の空っ風が吹き、寒く、空気が乾燥している。冬は降水量が少ないので、空は晴れているが街の明かりで星は見辛い。


夏の七夕祭りの時に歩いた商店街を、皆で歩いていく。

夏のお祭りと違い、大晦日の商店街は寂しい。開いている店は、寿司屋と蕎麦屋とバーかスナックぐらいだ。


「桜木ぃ、サッカー部は解るが、どうしてお前ところの部長や部員が居るんだ?」


俺は、神社への道を歩きながら、桜木に聞いた。


「皆んなで、改札前で集合してたら通ったんだ。二人で、部長が襟首掴まれて」


「え? 襟?」


「そう、何やらかしたのか、高安さんに襟首を掴まれて降りて来たんだ」

「笑うだろ」


「いや、別に笑わないけど、あの二人はいつから付き合ってるの? いや、ややこしそうなのでスルーだ」

「で、他の二人は?」


「magic girl」の四人が揃うって聞いて、やって来たんだよ」


「ああ、取材かぁ」

「じゃあ、桐崎と靏見さんは?」


「俺じゃ無いよ。俺達は連絡して居ないよ」

「クラスも違うしな」


「ああ、そうだな」

「初詣に刀担いでくるのは、五右衛門とあいつぐらいだろうしな」


俺は、桐崎が背中に担いでいる、いつも刀を入れている袋を指していった。


 桜木が後ろから回り込んで、瀬戸山さんと反対の手にDVDを渡してくる。


「んん、ああ」


俺は、瀬戸山さんに見つからないように、コートのポケットに入れて隠す。

もちろん、DVDには何も書かれていない。

しかし、それは、この前の合宿時の非公式DVDだと言うことがわかっている。


「また! 男子は何してるのよ。やらしいわね」


瀬戸山さんが怒って桜木を追い払っている。

(ふふふ、もうブツの取引は終わっているのさ。幾ら追い払ってもかまわないぜ!)


「なんでも無いよ。さあ、行こう」


俺は、瀬戸山さんの手を引いて歩みを早めた。


 橋本神明大神宮は、駅から10分程だ。この移動時間内に手を繋げるかどうかで、二人の親睦具合が分かるのだ。


 サッカー部の龍山部長と山本が、蘇我さんにアプローチしているが、素っ気なくされている。サッカー部と言えば、人気のクラブで、そこの部長といえば相当のもので、女子にも人気なのだ。

まさか、彼等も、一年に素っ気なくされるとは、思っていなかっただろう。


 橋本神明神社は、車道からの参道が長い。そこの奥に鳥居が有り、みんな並んで午前零時を待っていた。


 俺達が着いた頃には、表の入り口まで列が出来ていた。

 時間は、二十三時半になろうとしていた。境内では焚き火が焚かれて、甘酒も振舞われている。露店も夏ほどでは無いが並んでいる。しかし、皆一番にお参りしたいので、鳥居をくぐらずに、参道に並んでいるのだ。俺達は十五人でそこに並ぶ。


 気温は低く、シンシンと冷えているが、みんなテンションが上がって馬鹿騒ぎをしている。こんな時は、くだらぬジョークがツボにはまって妙に面白いものだ。


栃原先輩と瀬戸山さんとオカ研の富士見さんが、後ろを振り返って、何やらごそごそと話をしている。


「あの人、凄いね」


「凄いの付けてるね」


「神社に入れるのかしら」


「何?」


 俺は聞いて振り返るが、何の事か分からないでいた。


「肩に鬼、うーん、ガーゴイルの護法神? ガーディアンの方が解りやすいかな? を乗っけてるの」


「あっそう」


何度見ても、そのような物は俺には見えない。

と言うことは、つまりあっち系の事なのだろう。俺は、何も聞かずにスルーした。



ありがとうございます。

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