表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/215

日本人の心だ! その144


 ゴブリンは暗黒語で我々とは会話が出来ないし、第一、語彙も少ないのでは無いかと思われる。

その為、身振り手振りで意思疎通を図っているが、瀬戸山さんに懐いているようだ。


 ゴブリンは、腹も膨れたのか、横に寝かしていた赤子を抱いて乳をやり出した。

小さなゴブリンが母親の乳をまさぐって吸い出した。口を動かし吸っている姿は可愛らしい。

 可愛さで赤ん坊に勝てるものはいない。これは種族を超えた感情だ。


「勇人! 桜木君! 何を見てるの!」


 瀬戸山さんが、俺のフリースを、ゴブリン親子の前から掛けて怒っている。


「授乳中の姿を覗くなんていやらしいわね」


(え? 今まで、ゴブリンは裸でしたけど……。)


 俺と桜木は、慌てて後ろを向いた。


 ゴブリンの乳房は小さい。単なる授乳器官なのだ。猿と同じで、人間の様に性徴期に発達したりはしない。

成熟した証に、猿や一部の魚は顔や体表の色を変えたり、犬や猫の様にフェロモンを出したりする動物は多いが、乳房を膨らますのは人間だけだ。

他の動物が乳房が膨らんでいるのは授乳の為であって、セックスアピールでは無い。

 このゴブリンの母親の乳房が膨らんでいるのは、あくまでも授乳の為なのだ。

それを見て、いやらしい感情は湧かないのだ。それは種族が違うからとしか言いようが無い。


 そこを責められた俺と桜木は、やるせない気持ちで心が満たされていた。


 後ろを向かされて、立たされている俺たちを見て、栃原部長代理が笑っている。この場に残った魔法部の女子達も、ゴブリン親子達と楽しく過ごしている声が聞こえている。


「なあ、おい藤波」


「あ〜」


「俺たち、なんで立たされてるんだ」


「あ〜? しらねぇ」


「クラスメートが騒いでいてさ」


「おう」


「教師に怒られてさ」


「おう」


「全体責任で、関係ないのに立たされてる気分だよ」


「あ〜、まあな」


「後ろ、楽しそうだな」


「あ〜」


 天井が高い洞窟の部屋で、俺たち二人は立たされていた。



 結局、親ゴブリンの膝下ぐらいまである羊革のコートが出来上がった。

裏布は俺のフリースを使っている。

裾や袖の余った部分で、背中や肩、肘の部分は二重にして丈夫にし、フードまで付いている。

そして、余った生地で抱っこ紐を作っていた。肩からたすき掛けにハンモック状の物が付いている。こちらの裏布もフリースでお包みになって有る。

また、小さな肩掛けカバンも作られていた。


 俺は、ウエストポーチから、魔核を三つ出し、サザンに頼んで頑強と清浄の魔法を掛けて貰う。

ゴブリンの文化に、洗濯と天日干しが無いからだ。


 その後、二時間ぐらいで、チャームを解いて、カバンには非常食を詰めて、ゴブリン親子とは別れた。

元々灯りのない洞窟の中で有る。黒い革コートを来たゴブリンはすぐに見えなくなった。


「桜木ぃ〜」


「なんだぁ?」


「妖魔って、マナから生まれるんだよな」


「俺が知るかよ。お前が言ってたんじゃないか」


「そっか。お前なら詳しいのじゃなかったか?」


「そんな、本質な所まで知らないさ」


「そっか」


「で、なに? マナから産まれたらどうなんだよ」


 俺は、闇に消えて行くゴブリンを指差して、

「赤ん坊を抱いていたんだよ」

「遺伝子はどうなっているんだろう?」


「え? そっち?」


 本体が戻って来る前に、俺と桜木で、本道との扉のロックを解除しておいた。桜木を肩車で持ち上げて、落ちて来ている閂を上げて棒で固定する。

簡単な構造だ。


桜木は全てを撮影出来て満足しているし、女性陣達は女子トークに花を咲かせている。


 天井の高い洞窟で、 皆んなでお茶を飲んでいる。本隊が戻って来るのを待っているのだ。たぶん。女子達の様子を見ていると信じ難いが、本体を待っているのだ。決して小さなお茶会では無いのだ。

 俺には、葉月がモフモフのプリン奥様に見えて来た。


 桜木は、横にクロスボウを置き、弓は引いていないが矢を一緒にセットして置いてある。俺は、トリコーダを作動させたまま座っている。


 そうして暗闇の中で、お茶を飲んだりお菓子を食べたり、まったりとした時間が過ぎて行った。



 数時間後、本体が帰って来たので、俺は地下三階のベースキャンプに帰った。

作りかけの露天風呂を作るためだ。


 防水シートで4mx2mの大きさに湯船を作る。余った端は三角に折り、結束ベルトで止める。防水シートには予め必要な所にハトメを打って有る。

ハトメに結束ベルトを通して止めるだけだ。骨組みは、ホームセンターで売っていたスチールパイプだ。

床にはすのこをひいて有る。防水シートだけでは、破けたら困るからだ。


 4mの辺の手前に2m程の体を洗うスペースを取って、高さ2mの衝立を作る。

湯船の後ろと左右はこの衝立の壁になる。

脱衣所のスペースと廊下のスペースを作って、ブルーシートを張る。

これは目隠しだけなので、ただのブルーシートだ。

廊下は二回折り返して有るが、目隠しに暖簾もかける。


 あと、適当な石を削ってライオンの顔を作り、口から湯が出るようにした。洞窟内の気温が低いので、水温は42.5℃とした。

シャワーヘッドを二つ設置し、こちらは42℃とした。ヘッドだけでホースは繋がっていない。これは、ホームセンターで買った、市販のシャワーヘッドだ。ヘッドだけなら、安いのだ。

シャワーヘッドの下にカランを三脚ポッドを使って設置した。本来、この三脚ポットは地面に電灯とかを設置するものらしい。


 全て魔法の道具だが、湯は出っ放しで止めたりは出来ない。


 照明は、目隠しの壁から、数カ所S字フックを掛け、そこから反対方向に紐を渡し、オーク襲撃時に使ったロウソクカンデラをぶら下げて有る。

これだと、下方向の照度が足らないが、数をぶら下げて対処した。


 湯が8割ほど溜まった頃、狩りに行っていた部隊が、地下三階に帰って来た。


 ブルーシートで囲まれた所から湯気が立ち上っている。気温が低く、湿気が多い為に湯気が消えないのだ。本来なら気化し、消えてゆくのだが、ここでは湯けむりが立ち上っている。

水蒸気は肉眼では見えない。湯気は水蒸気が結露した水滴なのだ。

その湯けむりが、ろうそくの火に照らされて、遠くからでも見えている。


「「「「「「「「風呂かぁ!」」」」」」」」

「藤波ぃ! 何してるぅー!」


 どうも、俺が地下迷宮で露天風呂を楽しんでいると思っていたのか、洗面器を抱えてテントから出て来たら驚いていた。


「何? 俺、今から風呂に入るのだけど」


「藤波、お前、地下迷宮で露天風呂って奇抜過ぎるだろう」


「桜木ぃ、お前も入るか?」


「おう! 良いのか?」


「別に」

「良いも、悪いも、俺が作った風呂だし」


「勇人! どうしていつも貴方は」

瀬戸山さんが俺を責めている。いつもの事だが、理由が分からない。


「貴方、風呂を作ったの? ちょっと借りるわよ」

オカ研の胡桃洋子だ。


「誰だ?」

(確かに、オカ研の女子だったな。カメラを持って走り回っていたなぁ)


「え? 私、今まで一緒にいたじゃない」


「知らないし、今から風呂行くから」


「だから、藤波ぃ! 待ちなさい。あの風呂をちょっと貸しなさい!」


「桜木ぃ、お前の所の部員だろう。何とかしておけよ。じゃあ、風呂行くから」

俺は、洗面器に石鹸とシャンプーを入れて、着替えとタオルを持って、風呂に行くことにした。



ブックマークと高評価をありがとうございます。


この章は、もうそろ終わりますので、あと少しお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ