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142/215

あいつが助けてくれた その142

「それは、先にお前がゴブリンを殺しに行ったからだろ」


 俺は自分に「透視」の呪文をかけて言う。


「そっちから太腿を押さえておいてくれ」

「こっちで引っ張るから動かない様に注意してくれよ」


二人でゴブリンの足を引っ張り合い、ゴブリンの足を整復している。

ゴブリンにも下腿は骨が二本有り、それを牽引しながら位置を合わせるのだ。

骨を外部から繋がる様に位置を合わせるのだが、筋肉に引っ張られて、なかなか難しい作業だ。

そして、合った所で急速接合の呪文を使う。

反対の脚も同様に処置し、回復魔法を使った。こちらは、骨の大きな転移は見られなかったが、やはり、骨折はしていたのだ。


 治療が終わると、ゴブリンの赤ん坊を脇腹に抱く様に寝かせて、親子共々、俺のコートの中に来て居たフリースのジャケットを脱いで、これで二人を包んでやる。

洞窟内の気温の中で、この格好は、結構寒い。



 俺は山本に右手親指を立てて、治療が終わったことを知らせる。

山本も笑顔で親指を立てて、笑って去っていった。


(あいつ、なんか良い奴だなぁ)


 コートとフリースのポケットの中のものは、一応ウエストポーチに移しておいた。

歩ける様になるまで、約二時間は必要なので、俺はゴブリンの側に座り込んでいる。それにしても迷宮内の気温は低く、その間、俺は震えて居た。



 瀬戸山さんは興奮して居た。目の前で勇人が死んだからだ。

 慌てて人工呼吸を行なっていると、蘇我さんが来て、蘇生の魔法をかけてくれた。

そして、勇人の胸は大きく膨らんで、そして息を吐いた。


ドクン!


勇人の心臓が脈を打つ。


「大丈夫、生きてるから離れなさいよ」


「ダメ! ダメ! 死んじゃう。勇人!」


「葉月の方が大変だから、落ち着きなさい」


蘇我さんが、治療をしようとするが、興奮して話を聞けなくなっていた。


「落ち着きなさい」


「あっ」


蘇我さんが、葉月の肩を掴んでスリープの呪文を掛けて、葉月は眠りに落ちた。


 瀬戸山さんは夢の中に居た。

勇人が死んだので、蘇生を行なっているが目を覚まさないのだ。

救急車を呼びたいのだが、連絡方法も無く、手が離せないでいた。


 勇人の蘇生中に、突然、左半身が暖かく感じる。真里亞だ。真里亞の魔法の感じだ。

「優しさに包まれる」とはこの事を言うのだと実感出来る。


 その後、熱い感じがして、身体の組織が左側に寄って行く感じがする。

冷たくて、優しい魔法。サザンだ。勇人に憑依して居るスライムの魔法だ。以前に掛けられた事があるので、覚えている。これは、サザンだ。

ただ、サザンは魔法が使えないので、勇人が掛けてくれているのだろう。


「葉月」「葉月」「葉月」

「起きて、葉月」


どこかで勇人の声がする。


 ゆっくりと目を開けると、そこは地下迷宮で、真っ暗な空間が広がっていた。天井は高く、暗がりで見えず、仲間達は、各々がヘッドライトで照らしている。

 瀬戸山さんは、この時初めて、真里亞が膝枕をしてくれて、身体を抱えてさすっていてくれた事に気づいた。


「葉月、起きた?」


真里亞が優しく気遣ってくれる。

まるで、お母さんみたいだと思った。


「さっそくで悪いんだけど、あの障壁を解いてくれるかな?」

「あのゴブリンを助けたいんだ」


(勇人だ。ええ? 何いってるの?)

(何処にいるのだろう? 近くで声がする。「あのゴブリン」って、……。)

(ああ、怪我をしている、親子のゴブリンか?)

(そんなの簡単じゃない)


瀬戸山さんは、まだ、しっかりと覚醒していない頭で考えていた。

で、出た声が、

「ええ? ええぇ」

了承したのかどうか分かりにくい返事だった。


言われた通り、左手を少し動かして、障壁の魔法を解くと、また意識が遠くなった。体が重く、疲れているようだ。


 瀬戸山さんは、意識が戻ったり、また、遠くなったりを繰り返していた。意識が戻るといっても、耳は聞こえるが、まぶたは重く目が開かないし、手足は指先一つ動かなかった。


 何度目かの意識が戻ってきた時、真里亞が泣いていた。瀬戸山さんは、まだ理解出来ずにいたが、確かに真里亞は泣いていた。


「どうした? 葉月は助かったのじゃないのか?」

「私の性だから、何かしてあげたいのだけど」


(紅葉の声だ。別に紅葉が悪い訳じゃない。私が前に飛び出したからだ)

葉月は責任を感じていた。


「ううん、違うの。葉月は悪くないの」

「でもね、あいつ、葉月の事になると、自分の命を投げ出してまで助けに来るの」

「妬けちゃったなぁ。見てると悲しくなってきちゃって」


「え? 何言ってるの?」

(え? 何言ってるの?)


瀬戸山さんの思いは、秋山さんの思いと重なった。


「馬鹿! まだ言ってるのか? いい加減にしろ」

「葉月ともう付き合ってるじゃないか。もう、諦めろ! 吹っ切れ!」


「だって、好きなんだもん」

「私ね、葉月に何回も確かめられてたんだ。『付き合ってるのか?』って」

「その度に、付き合っていなかったから、『付き合っていないよ』って答えてたの」


(え?)

(真里亞、何言ってるの?)


「何? まだ言ってるの? もうクリスマスだよ」


「でも、だって、……」


(やっぱり、真里亞も勇人の事を好きだったの? 紅葉も知ってるし)


「だってじゃ無いわよ!」

「ずっと、葉月と付き合ってるじゃん。放っておいてやりなよ」


「真里亞、葉月や私なんかよりずっとかわいいじゃん」


(え? まぁ、そうだけど、別に言わなくったって)


「magic girls の時も一番人気だったじゃん」


「先輩の方が人気あったし、胸あるし」


「ああ、そりゃねぇ」

「じゃなくて、私たちの中では、妹キャラで大人気だったじゃん」

「いい男も選び放題じゃない」

「あんなクズ、放って置いてやりなよ」


(クズって、人の彼氏をクズって)

(あ、左手の指が動いた!)

瀬戸山さんは、左手の指が動き出した事に気が付いた。


「あ!」

「あ!」


「葉月が目覚めるよ。この話はもうお終い!」


「葉月、大丈夫?」

「大丈夫? 葉月!」


 瀬戸山さんは、二人が声を掛けて来て、起こされた。


「ううん、大丈夫」


 眼が覚めると、真里亞が鋭利な石の床の上に座って、葉月の頭を抱えて膝枕をしてくれていた事がわかった。


(……、ありがとう)

「ありがとう、もう、大丈夫」


「もう、心配したわよ。火球の前に飛び出すんだもの」


「あいつは、もう大丈夫よ。生き返ったら、貴女のゴブリンの治療をしているわよ」

「立てる?」


 瀬戸山さんは、立ち上がると、フラフラとゴブリンの方に歩き出した。

ゴブリンの横では、カッターシャツ一枚で、ゴブリンの横に座っている勇人がいる。

勇人は、指輪の魔法でライトを点けて参考書を読んでいる。見慣れたいつもの光景だ。

何を言っても「受験まで、もう後二年しかない」とか言い出すに決まっている。


振り向くと、真里亞が紅葉に背中を叩かれている。

栃原部長代理と倉田と龍山がパーティーをまとめようと走り回っている。

ブックマークをありがとうございます。


ちょっとずつ、増えています。


本当にありがとうございます。嬉しい限りです。

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