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ゴブリン その137

走りながら、右手で柄を掴み抜刀した。横一文字に水平に薙ぎ払うと切っ先がトロールの皮膚を傷つけた。

それが限界だった。

いくら彼女のステータスが強化されているとは言っても、女子高生が片手で持った日本刀で、トロールの足が切れるはずは無かったのだ。


グァン!


トロールの左膝付近が爆発して、膝関節が四散した。


 トロールは左に倒れたと同時に、左大腿を抱え込んだ。

栃原部長代理は、のたうちまわり掛けたトロールを振り返り、深々と背中に刀を突き刺した。


フガァン!


トロールの胸部が爆発して、血肉を撒き散らした。



 桜木は、残りの一体のトロールと対峙していた。

ライトサーベルを構えて、大きく振り回している。

 暗がりの中、緑色に光る刃体は良く目立つ。


 桜木は、刃を横に向けて光って見える面積を増やして、なにやら叫んでいる。

どうやら本人は、トロールを挑発しているつもりらしい。


 突然、桜木の頭上をロープが後方から飛び越えて行った。

ワンダーフォーゲル部とサッカー部の山本だ。彼らがロープの端を持ち、広がって走って行ったのだ。


「左手前は気を付けて! 無理に行かなくていいから」


と、指示を出してあった。

 左手前とは、トロールにとっての右前になる。ここは、棍棒の届く範囲なのだ。


 彼らは、ロープがトロールの膝に当たると、トロールを軸に背後を回り出した。


「予め、どちらが上になるのか上下を決めておいて」


桜木に言われたので、予め決めた様に、相手と交差するときはロープを上げ、或いは相手のロープをくぐり対処した。


 矢が三本、トロールの胸板に刺さる。続いて、槍が二本飛んで来て刺さる。矢よりは重量があるので、ダメージは大きいはずだが、しかし、そんな事ではダメージは微塵も感じていない様だ。


 そこに桜木のスピードライトが光る。今まで、緑色のライトサーベルを振っていたので、トロールもついつい見ていたが、突然光ったのだ。超強力なスピードライトが光ったのだ。

トロールは、目を覆い、数歩下がったが、足が後ろに引けなかった。足を、先程のロープがグルグルと纏わり付いて、括られていたのだ。


 運動部の男どもが走った。

左右から、反対の肩に向かってロープが投げられた。ワンダーフォーゲル部の部員がロープを投げたのだ。

その投げられたロープの端を、ラグビー部の部員が飛び上がって、掴んで引っ張っていく。

いわゆる、袈裟がけに左右から両肩にロープが飛んで来たのだ。


 ラグビー部の部員と言うと、がっしりとした大男を想像するが、守る場所によっては足が速いだけで良い。

「短距離なら陸上部より速い」と豪語する者までいる。ただ、その短距離は5m程だったりするが。(陸上部の短距離走の選手は、まだ体が起き上がっていない距離です。はい)

その為、小柄な選手も多いのだ。


 今、その俊足と高いジャンプ力を使って、ロープの端を空中で掴んで着地する。ラグビー部員にとっては、いつものパス回しだ。難しい事も何も無い。


 こちら側のロープの端は、サッカー部が応援に入って掴んでいる。


 応援が入り、左右から八人の男が、トロールを後ろに引き摺り倒す。脚は自由に動かせないので、堪らずトロールは後ろに仰向けに倒れた。


 倒れたトロールの棍棒を持った右手にロープが飛ぶ。手に引っ掛かって、グルグルと腕を軸に回り絡みついた。

それを、サッカー部の龍山部長が掴んでいる。

ワンダーフォーゲル部の部員と二人で、ロープが振り回されるの押さえ込んでいる。


 剣道部の一人が腕を切り出した。

「切断は難しくても、屈筋だけでも切ってくれ」と桜木が手首の内側を叩いていた。


 もう一人は上腕二頭筋を切りに行った。マンガのポパイがほうれん草を食べたら腕を上げて膨らます筋肉だ。

刀より斧か鉞の方が良くないか? と思うが、刀しか無いので仕方がない。


 そして、もう一人が腋を刺す。

ここは、人なら血管と神経が集中している場所だ。同じ様な構造なら、ここに血管と神経が通っている筈だ。


 ロープで抑えていると言っても、トロールを人の力で押さえ込むのは不可能だ。ただ、抵抗になって、体や手足を動かす速度が遅くなるのだ。そこに隙ができる。それを攻撃するのだ。


 倒れたトロールに、手の空いた者が攻撃をする。狙う所は、側頸部と側胸部だ。

側頸部は、浅い所に血管が走っているから。側胸部は、筋肉が薄く、肺を貫けば、気胸を起こすからである。


 アーチェリー部が、胸に矢をまた射った。


バスバスバス!


 陸上部が、投げ槍を手で持って刺している。


ドッ! ドッ!


 手の空いた者が首を切りつけている。胸を突き刺している。


 誰かが頚動脈を切った様だ。

血しぶきを上げている。噴き出す血流が強くて、シャァーと噴き出す音がする。

まっすぐに噴き出す訳では無いので、辺りに居た者達は、血のシャワーを浴びてしまった。


 現場にいたほぼ全員生暖かい、生臭い血を頭から被っていた。


 一方、トロールは、血を吹き出し、血圧が下がるとビタンビタンと痙攣を初めて、やがて動かなくなった。


 トロールを、ショートソードで横一文字に切れば倒せると言う訳では無い。映像にすれば、地上波なら自主規制のモザイクだらけになるだろう。

そんな悲惨な状況でないと死なないのだ。


「倉田、龍山君、体勢を立て直して、まだオークが居るわよ」


栃原部長代理が声を掛ける。大きな山を越えたところで、気を引き締めないと大怪我をする。

気合いを入れ直したのだ。


 確かに、ライトに照らされた壁の手前に、ウジャウジャとオークやゴブリンが群れている。

オークの数など数え様の無いぐらいに群れている。ゴブリンに至っては、もう、無数としか言いようがない。


 倉田が、

「隊形を整えろ! 女子を中心に、男子は外!」と叫んでいる。


 人間の方も緊張する場面だが、オークやゴブリンはもっと緊張していた。

トロールが七体も一瞬で倒されたのだ。確かに多人数のパーティだったが、所詮人間だった。一対一ならオークだって負ける事はない。それが、トロールである。負けるはずはなかったのだ。

それが、圧倒的な敗北を喫してしまったのだ。


 腕力の強いオークなどは、弱いゴブリンをおし分けて逃げ出していた。出て来た穴に、一目散で逃げ出した。

妖魔の世界に、義理も人情も師従関係も無い。力関係のみの厳しい掟なのだ。自分の利にならなければ、いつでも切り捨てる。


 前の者や小さなゴブリンをつまみ出して、自分達が我れ先に逃げようとしているのだ。


 蘇我さんが、照明に光球を打ち上げている。明かりの支援が有るか無いかで戦況が大きく変わる。


「弓隊、前へ!」


倉田が叫ぶ。弓隊と言ってもアーチェリー部は三名しかいないのだが。


 アーチェリー部と陸上部が並んでいる。陸上部は投げ槍を持っている。


シュッ! シュッ! シュッ!


と矢が放たれた。


ブン! と槍が投げられる。


 オークやゴブリンを目掛けて矢が射られ、槍が投げられる。

武装した者たちで、ゆっくりとライトで照らしながらオークやゴブリンを取り囲んでいく。

不意に、火球や光弾が乱れ飛んでいる。


 オーク達にしたら、暗がりの中をライトで照らされ、一番後ろに居たら矢で射られるのだ。助かる道は、仲間を盾にして群の中央部に紛れ、一刻も早くここから立ち去る事だ。

皆がそのように思っているので、お互いにパニックになって、我れ先に脱出口を目指している。



「どうしたの? 参加しないの?」


栃原部長代理が、瀬戸山さんに聞いて来た。

さっきから眺めているだけで、狩に参加して居なかったのだ。


「弱い者いじめは、勇人が嫌がるから」


「狩を弱い者いじめと言われてもね。トロールばかりを狩れないしね」


「う〜んうん、否定する気はないのだけど、勇人が『我々の感覚で生物じゃなくても、相手が生きていたら生物だろう』って」


瀬戸山さんは、オーク達の群れを見て話している。


「何それ?」


「『液体金属や光粒子の生命体が居ても、地球人には生物と認識出来ないだろう』って」


「液体金属って、水銀?」


「分かんないけど」

「『マナから生まれた妖魔を、生物じゃ無いと殺して良いのか?』って」

「『我々と理が違うから、理解できないからって殺して良いのか』って言われたの」

「あっ!」

ゴブリン達の方が気になるように、見ながら、話している。


「そんなこと言ったって、妖魔だしね。人を襲って来るしね」


「あいつ、『俺や俺が守るべき者を襲えば、妖魔や人に関わらず殺す』って。『差別はしない』って」


「そこは平等なんだ」

(栃原部長代理は、夏の合宿を思い出して居た)

勇人は、追い詰められたゴブリンを助けて、合同参加の他校の学生の腕を切り落として居たのだ。


「うん」


「で、襲って来ない妖魔は、あなたも倒さないのね」


「何にか違う気がして」


「分かったわ」


「あ! 部長! ごめんなさい!」


 瀬戸山さんは、ゴブリンに向かって、突然に走り出した。

走って行く先には、小さな赤子を抱いたゴブリンの雌が倒れていた。

お二人の方にブックマークして頂きました。

高評価もしていただきました。


ありがとうございます。



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