オーガロード その134
「悪いんだけど、全部食っちゃって。お前にとって、腹の足しにもならないだろうけど」
「それと、魔核を一個、桜木にあげて欲しいのだけど」
「良いですよ。勇人」
洞窟の中を八体のオーガロードが歩いて来る。小さな人間など気にも留めない様だ。
「では、行きますよ。勇人」
サザンは、俺の皮膚から染み出して、細い透明な糸になって紡ぎ出されている。まるで、風に流されているかの様に、空中をふわふわと漂っていった。
オーガロードが次々に倒れて終わった。サザンの糸が、赤い物を運んで来て、俺の手にくれた。
洞窟から出て行くと、二人が抱き合っていた。
「んんっ!」
俺は咳払いを一つして、オーガロードを指差し、
「邪魔して悪いんだけど、さっさとそいつから魔核を取り出して、大蜘蛛を解体しろよ」
「その魔核は記念に貰っていても良いんじゃ無い? どうせ、誰も怖くて、出せなんて言わないさ」
「ところで桜木、これ、オカ研の宝物にしろよ。福神漬けのツボにでも入れとけや! 後の七つは、サザンが食っちまったから、もう無いけど。一個だけ貰ってきたぞ」
そう言って、サザンに貰った魔核を投げて渡した。
俺は、瀬戸山さんが迎えに来てくれるまで、谷底に座っていた。
一応、カムを岩の割れ目に刺し、ザイルを通して、崖を登ろうとはしたのだが、使い方がわからず登れなかったのだ。やはり、登山など特殊な技能は経験が必要だったのだ。
「何してるの?」
瀬戸山さんが迎えに降りて来てくれた。
「俺、飛べないしさ、ロープでもよじ登れないからさ。誰かが来てくれるのを待ってたんだ」
「そう」
「楽しそうに降りて行くから、また悪い事してるのかと思った」
「そこまで悪い事はしていないよ」
俺は、瀬戸山さんの箒に乗せて貰って、谷を上がって来た。
桜木は、自分たちの倒したオーガロードから魔核を取り出すと、勇人が何をしていたか気になった。
「あいつ、ここで何をしていたんだ?」
洞窟の入り口まで来て、奥を覗いた。
「……。」
そこには、オーガロードが八体、変わり果てた姿で転がっていた。
「行きましょう。あの子は瀬戸山でないと御せないわよ」
いつの間にか側に来た栃原先輩が、肩を抱いてくれた。
「ああ、多分、俺たちを守ってくれてたんだろうな」
結局、桜木は、大蜘蛛の魔核を五つしか取り出せず、他のパーティーに先を越されてしまっていた。
俺がおにぎりを食っていると、桜木達は仲良く谷から上がってきた。
倉田や龍山部長達が集まっているテーブルに、バラバラと大蜘蛛の魔核を投げ出した。
誰もこんなに大きい魔核は見た事が無かった。今までは、せいぜいオークの米粒大の大きさまでだったのだ。
「あのさぁ、オーガロードの分は、二人の記念に欲しいのだけど。良いかなぁ?」
「決して、売って儲けようとしているんじゃなくて、記念にと思って」
「あんなの、もう二度と倒せないと思うんだ」
「ああ、うん、あのさぁ、えっと」
倉田が声にならない返事をして、何かを言いかけた。
(そりゃ、倒せないだろうよ。ここにいる全員が、倒した奴も含めてオーガロード自体を初めて見るんだから)
「で、大蜘蛛の方は、皆んなで分けろってか?」
龍山部長が、返事を要約した。
「いいぜ! お前が倒したんだから、お前の好きにしろ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、ミーティングを始めるわね」
ここで、桜木は関係ないので席を外している。
決まった事は、翌朝6時まで休憩、就寝。8時までに朝食を済ませて、9時に出発。
現在は、夜の10時ぐらいである。
全員、休憩後の出来事だった事もあり、体力的には疲れていないが、魔法使いには休憩が必要だったからである。
蘇我さんと秋山さん瀬戸山さんが、栃原部長代理の腰の傷を治療している。
内臓の傷ついた部分を治療して、外側の組織を治療するのだ。それを手分けして行っている。
栃原部長代理、桜木、瀬戸山さん、俺の四人で、コーヒーを飲んでいる。
テーブルに置かれた、ロウソクの明かりだけが頼りだ。チロチロと四人の影が揺れている。
「藤波、何故? オーガロードが焼けていたんだ?」
「ああ、なかなか厨二だったろ」
「俺の火球は、あいつに防がれただろ」
「俺さぁ、サザンの魔力のコントロールが出来ないんだよ。だから、いつも全開なのな」
「で、その手袋の六芒星な、中央の赤いのは赤色レーザーポインターな。で、上から、火球、次が火炎。これで、見た目が、尾を曳いた火球の演出をしているんだ」
「え? 演出?」
「まさか、マジで使うと思っていなかったから、漫画そっくりにな」
「ふふふ、馬鹿」
瀬戸山さんが笑っている。
栃原先輩は、俯いて、声を殺して笑っている。笑うと腹が痛いのだ。
「で、次が風、体が飛ばされそうだったろ。送風機さ。酸素がいるから。そして、アルミの粉末を大量に。で、銅の粉末とリチウムの粉末だ」
「銅とリチウムで緑と赤の色調整しているんだ。アルミは中央の白い炎な」
「あいつ、魔法防御しか張らなかったから、アルミの粉をもろに受けたみたいだったな。笑っちゃうぜ! だいたい、2000度になってたはずなんだ」
「アルミがか、燃えるんだ。ナトリウムやマグネシウムは、まあ、聴いたことがあるけど」
「お前、本当に馬鹿だな」
「でも、かめはめ波みたいだったろ。見た目が」
「まさか、本当に撃つとか思わなかったけどな」
「笑っちゃうぜ! 頭から、燃えてるアルミの粉を被ってやがるの」
「漆黒の紫電も、お前が使えないから、魔法をてんこ盛りにしておいたんだ」
「まさか、先輩に使われるとは思わなかったけどな」
「バッカン、バッカン、雷が落ちただろ」
「で、魔法協会の親父の意見を聞いて、ライトサーベルを作ったんだ。こっちが後な。ライトセーバー風だっただろ」
「で、防御用の手袋を作って、すると、もし、桜木に何かあった時に、回復魔法がかけられないので、回復の呪いがかかった鞘をつくっったんだ」
「手袋に瞬間防御の呪いを掛けて、物理防御か魔法防御を掛けるように呪いを掛けてあるんだ。すると、攻撃された時は良いが、回復呪文も防いでしまうんだ」
「そこで、回復の呪いを掛けた鞘を作ったのさ」
「それで、私の怪我が治ったのね」
「重傷を負ったはずなのに、可笑しいなと思っていたのよ」
「急速再生と全回復さ。中二病だろ」
「なかなか無いぜ。そんな呪い」
「お前がこの刀を振っても、普通にしか切れないんだよ。桐崎見たいには切れないのさ」
「そこで、俺が言うのさ、『その刀は、使う奴が使ったら凄いんだぞ』って。そしたら、先に凄い使われ方しちゃったんだよ」「あははは」
「お前、馬鹿だろ」
「そう言うなよ。これ、多分売ったら家が建つぞ。スキルだけじゃなく、肉体のステータスも上昇するんだぜ」
「勇人、馬鹿なの?」
瀬戸山さんが呆れている。
「だって、こいつのリクエストが、『桐崎見たいに切れる、見栄えの良い刀が欲しい』だったんだよ」
四人で、コーヒーを飲みながら、桜木の装備で、大いに盛り上がった。
ただ、「漆黒の紫電」は、まだ、先輩が腰に下げている。
この日は、四人ともバラバラに寝た。男女一緒に寝られると規律が乱れるからと言う事だった。
まあ、それは仕方のない事だ。
実時間は夕方だが、仮眠明けに襲撃で起こされた事もあり、まだ、この時間には寝れないものも多かった。
今、洞窟の外は夜中のはずだが、俺は眠れなかった。
俺は、弓を取り出して、的にした木の板を射って遊んでいた。
魔法も使わない普通の弓だったので、威力も無く、なかなか的に当たらなかった。
「藤波君、良いかなぁ?」
「はい?」
俺は振り向くと、アーチェリー部の部員が立っていた。
(誰だっけ? 覚えてねぇーや)
「それを見かけてね。気になって眠れないんだよ」
「ああ、すいません。すぐに辞めます」
「いや、違うんだ。持ち方が違うんだよ」
「持ち方?」
「その、「ノック」とか「矢筈」って言うんだが、そこを持たずに、弦に指を掛けて引くんだ」
「え? 矢尻を持たないんですか?」
「矢尻はポイント、えーっと、矢の先を言うんだよ」
「羽の付いた方はノック」
「ノックをつるの糸を巻いて太くなった所に刺して、弦を引くんだ」
「え? ええぇぇー?」
「弓もな、左手を伸ばして、左横で構えるんだ」
「女子は、頬や胸が擦れて痛いと言うぐらいなんだ」
「えええぇぇー! テレビで見たブッシュマンが前で構えていたけど」
「ブッシュマン?」
「ブッシュマン」
「なにそれ?」
俺は、正しい構えと弓の引き方を習った。
威力も桁違いにあるし、近距離なら的にも当たるようになった。
それに、今夜、彼はグッスリ眠れただろう。
「ありがとうございます」
「ええっと誰だっけ?」
礼を言ったが、気持ちよく立ち去る彼の名前が、やはり思い出せないのであった。
2021/10/05/19時以降に読まれた方は、大丈夫です。
2021/10/05/19時以前にに読まれた方は、これは新たに追加された話です。
スマホで投稿していたので、投稿を飛ばした話です。