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133/215

谷底で その133

 俺は走りながら、サザンを憑依させた。

「サザン、すまん、手伝ってくれ」


「勇人、良いですよ。いつでも言ってください」


「オーガロードが九体ほど来ているんだ」


 俺は、崖の淵に立って呼びかけた。


「上がれ! 早く逃げろ! 早く上がってこい!」


 危機を感じていない生徒達は、無視をしているし、桜木達は、こちらに笑顔で手を振っている。


「早く上がれ! 逃げろ!」


谷底の洞窟の入り口に、オーガロードの姿を認めた。


 俺は飛び降りた。

落ちながら、ウエストポーチから鉄刀を取り出した。

崖の壁面や溶岩の突起を足で壊しながら、速度を落として、落下して行く。


 騒ぎを聞きつけた蘇我さんが、索敵魔法をかけた。


「下よ! オーガロードが九体!」


オーガロードと言っても、上位種と言うだけで、騎士でも貴族でも無い。

小規模な群れを作って生活するところは同じだが、通常のオーガと違い、魔法を使う事が出来る種族なのだ。


「え?!」


 皆が一斉に、亀裂の淵に集まった。


「藤波君が何か言ってるわよ」


「優希、あれ」


桜木は、洞窟の入り口に立つオーガロードを見て言った。


「なに?……。」

 栃原部長代理は、振り返り、絶句した。

トロールより高い身長に、筋肉質の体、布の衣類を着ており、文化文明を持っていると感じる。そして、凶悪な目付きに、鋭い牙と角。

オーガだ。初めて見るが、話には聞いた事がある。


 多分誰も勝てない。

(でも、はじめだけでも逃さないと!)


「みんな逃げて、早く上がって」

「はじめ! 逃げて!」


 栃原部長代理は走って、オーガロードの前に飛び出して、斬りつけた。

右横から左上に、目の前を何かが動いた。オーガロードの剣だった。

 居合い抜きよろしく、抜刀と共に払われたのだ。

両手で握っている柄は胸に食い込み、刀の峰はひたいに食い込んだ。

多分、肋骨か胸骨と頭骸骨の悲鳴が聞こえた。


 体は後方に回転し、次第に横向きに回り出したが、腰につけた鞘が邪魔になり、高く跳ね上げられて、落ちた。

その時、岩の突起が腰部に刺さり、腹に達していた。右脚は違う方向に曲がり、左上腕か鎖骨が折れている。

息も出来ないので、やはり、肋骨も折れているのだろう。


(ああ、3秒程度しか、逃げる時間を作れなかったなぁ。はじめ! ごめん)

(暗がりの中、体が痛いが、身動きが取れない)

(ここはどこだ……。)


「優希!」


桜木は、一瞬の事で動けなかったが、吹き飛んだ栃原部長代理の前に立ち、オーガロードに断ちはだかった。


オーガロードは、桜木の方へ歩んで来て、振りかぶって剣を降ろして来た。

 思わず、桜木は左手をあげて剣を避けた。


ガキィィィーーン


桜木の左手の皮一枚外側で剣が弾かれた。


ガキィィィーーン

ガンゥーーン

キンィィーーン


何度斬りつけても同じだった。いや、何度斬りつけられても同じだった。


「桜木ぃ〜、そいつ、魔法を使うから、お前の体を先輩の何処かに付けとけよ」


振り向くと、藤波が、魔刃で鉄刀を真っ赤にして、洞窟の入り口を睨んでいた。


「ああ、こうか?」

桜木は、右足の踵が栃原部長代理の大腿に当たるまで後ろに下げた。


(え? なんでそっち見てるの? 助けてくれないのかよ!)



ギュワガガキンキュワガァァーーン!

20〜30合は斬りつけられたころ、オーガロードはイラついた表情を見せた。


 桜木は生きた心地がしなかった。そして、息も止まって気張っていた。

(死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、うぉおーー、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ)


 オーガロードは、左手をあげて、火球を五発ほど撃ってきた。


 ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッと頭の周りに火の玉が発生し、飛んできた。


「終わった」と桜木は思った。


 飛んで来た火球は、左手の直前で砕け弾かれて行く。

まるで、ガラスのドームがそこにあるように。

ただ、すごい熱量で、顔の皮膚は火傷を負っているかもしれない。



 栃原部長代理は目を覚ました。

どうやら、今まで寝ていたようだ。

寝ている私の前に、背中を向けてはじめが立っていて、その外が火炎の渦だ。

何やら腹から腰が温かい。


(どこだ? ここは? はじめがなにをしているんだ? 危ない事をしていないといいが)


(腰が痛い! ああ、岩が刺さっている。これは抜かないといけないな)


 体を左に捻って、腰に刺さった岩を抜くと脚まで激痛が走った。

(ぎゃあぁ〜! 死ぬぅ。せっかく助かったのに、死んじゃう)


(あら? 何から助かったのかしら?)


(ああ、そう、そう、オーガロードの攻撃を受けて、飛ばされて)


(はじめ!)


 栃原部長代理は意識がしっかりと覚醒してきた。

体を起こそうとしても、腰と腹の奥が痛くて動けない。

ただ、右脚は動くし、息は出来ている。

傷ついた腕や胸、腰や足が温かい。


 自分の前に立って、桜木がオーガロードの剣を受けていた。

オーガロードは、一瞬にして10合、20合の剣を打ち出して来る。

「はじめ、逃げなさい」

(なぜ? 逃げないの?)

(この子、素手で受けている。でもどうやって?)


「桜木ぃ〜。早く倒せよ。出ないと、本体が来るぞ」


「ああぁ? どうやって倒すんだよ。この状況で」


「ああ、それ、手を出してる必要は全然無いから」


「でぇ?」


「両手をバンと叩いて、強く念じるんだよ。すると、エネルギーがたまり出すと、あとはカメハメハー! だ」


 桜木はゆっくりと手を降ろして行く。確かに攻撃は防がれたままだ。


 ライトサーベルを右腰のホルダーに直し、両手をバンと合わせて見る。

両の手のひらの間に、何やらボールのようなエネルギーの塊を感じて、徐々にそれが大きくなっていった。力を入れて押さえないと、手が弾かれてしまいそうだった。

そのボールがソフトボールぐらいになった時、手をぐっと右腰のところまで下げた。


「カァ〜メェーカァ〜メェー……」

赤色レーザーが現れて、標的をロックオンしている。


(桜木ぃ、肝心なところで噛んでるよ)


「……ハァァーー!!」


 伸ばした桜木の両の手を合わせて開いたところから、真っ赤な火の玉が飛び出した。


 オーガロードは余裕の顔で、剣を持った右手を、体の前で振った。

桜木の撃った火球は、オーガロードの前で四散し、跳ね返った。その後の炎も、まるでガラスのドームがあるかの様に広がって、オーガロードを包み隠した。


 栃原部長代理は、大地に倒れて見ていたが、火球が防がれた様を見て落胆した。

どうやって、火球を撃ったかはわからないが、魔法の使えないはじめが、オーガロードに勝てるはずがなかった。


「グウワッ! ゴーぐわっ!」


 炎が消えると、そこには焼け爛れたオーガロードの苦しむ姿があった。

すかさず、桜木は腰のライトサーベルを抜きスイッチを入れた。緑色に光る刀身が伸びて行く。

そして、スピードライトのスイッチを入れる。


バシュッ!

チュィィィィン


グサッ!


身長差があるので、刀身が刺さったのはオーガロードの下腹部の下の方だった。そこに、緑色に光る刀身が伸びて行く。そう、緑色に光る刀身は、ただの演出なので、既に刃は形成されているのだ。


グサッ!


その横に、艶消しの黒い刃が刺さった。


 栃原部長代理は、焼け爛れたオーガロードの姿を見て走り出したはじめを見て、慌てて起き上がって追いかけて来た。その数mに脚や腰の痛みを感じる事はなかった。


「サンダーストライク!」


バッ!

バキッ!

辺りが紫色に光った。


今、立っていたオーガロードが紫色の光に包まれて、その後、体から煙を上げて倒れていった。


 それを見て俺は、洞窟の入り口の方に歩いて行き、サザンにお願いした。

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