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宝物拾い その132

 桜木は、大蜘蛛の顔に向けて突きの体制をとった。

その時、左の視界の隅に、走って来る栃原部長代理の姿を確認した。


(どうして、こっちに来るんだよ? こんな巨大な大蜘蛛なんて、藤波案件だよ。人がどうこう出来る物じゃない)


「優希! 来るな! 逃げろ!」


 桜木は攻撃のタイミングを計っていた。が、前に優希が居るので、攻撃が出来なくなってしまったのだ。


 栃原部長代理は右手で抜刀した『漆黒の紫電』を握りしめて走っていた。

ほぼ、インターハイ選手並みの速度が出ている。


 栃原部長代理には正面に大蜘蛛の姿が、その右側に振られている緑色のライトサーベルが見える。あれが桜木だ。まだ生きて戦っている。大丈夫だ。やれる! と、自分に言い聞かせて走っていた。


 彼女は、真後ろに回り込んで、腹の下の入った。

両手で刀の柄を握りしめ、大蜘蛛の右足四本を切りながら走って行く。

 もちろん、足を切断などは出来ないが、それで十分だった。


「エクスプロージョン!」

ババババァーーン!


 桜木には、栃原部長代理が大蜘蛛の腹の下に潜って、走って来るのが見えた。


「え?」


栃原部長代理が通った後に、大蜘蛛の足が爆発している。

体本体は無事だが、脚は粉々に吹き飛んでいる。後ろの方の足から順番に。


「はじめ!」


「優希、下がって!」


 栃原部長代理は勢い余って、桜木の横を通過して止まった。


バシュッ!

チュィィィィン


 桜木のライトサーベルのスピードライト攻撃だ。

大蜘蛛の顔が白く残像で焼け付いていて見難いが、そのまま桜木は突きを繰り出して、口の中を突いた。


 大蜘蛛に瞼はない。照射される光の量を調整出来ないのだ。暗がりの中、強烈な光を照射されて、脳へのダメージは計り知れない。

 映画なら、ここで大蜘蛛が「ぎゃぁぁーー!」と悲鳴を上げるのだが、蜘蛛に発声器官はない。

残っていた左足で顔を抑えただけだった。


ザクッ!


大蜘蛛の口の中にライトサーベルの刀身が消えている。


「サンダーストライク!」


桜木の右肩越しに、黒い刀身が振られた。


バッ!

バキッ!

辺りが紫色に光った。


バギッィィーー!

ガァァーーン!

ドォーーン!


栃原部長代理が傷つけた大蜘蛛の顔付近に、幅4mほどの紫色の稲妻が落ちて、雷鳴が反響している。


大蜘蛛の頭部から背中がぱっくりと割れて、煙だか水蒸気だか白い煙が登っている。

落雷によって、大蜘蛛の体内の水分が沸騰し、キチン質の外骨格を破壊して出て来たのだ。


(ションベンちびるかと思った)

「優希! 大丈夫だったか? なぜ来たんだ?」

(絶対違うよな。助けられたのは俺だし)

桜木は、振り返り叫んでいた。


「私は、何処からでも駆けつけるのよ」

栃原部長代理は、ニコリと笑い首を傾げた。

長い髪がパラリと揺れた。


「さあ、来るわよ!」


「何が?」


「大蜘蛛が、十数匹ぐらいはいたわよ」


 桜木が見ると、亀裂の谷間から、大蜘蛛達が次々に顔を出していた。


「優希、逃げろ! これは藤波でも無理だ」


「それはどうかしら?」


「馬鹿! 早く逃げろ!」


桜木は、ライトサーベルを構え直した。


 その横を箒に乗った栃原部長代理が飛んで行く。


「おい、優希!」


栃原部長代理は、谷上空の中央まで来ると、ぐるっと一周して、刀を振り下ろした。

「サンダークラウド!」


ババババババババババババババッ!

ババババババババババババババキッ!


まるで夕立雲の様な真っ黒な雲が発生し、十数本の紫色の稲妻が大蜘蛛に落ちた。

使った本人すら、雷鳴で意識が遠くなりかけた。


 大蜘蛛達は、胸や背中が割れており、崖下に落ちて行った。そして、脚を縮めて動かなくなった。


「優希」

桜木は、ストンと箒から降りた栃原部長代理を抱いた。


「人が見ているから、キスは一回だけよ」


「優希、大丈夫か? 無事でよかった」


「しっ」

栃原部長代理の方から、泣いている桜木の唇を吸った。


「おお、スゲー。これを見ろよ」

振り向くと、先ほど倒した大蜘蛛から魔核を取り出している奴がいる。

普通は、人が倒した妖魔からは許可無く取り出すことはない。

彼は、余程の恥知らずだと思われるが

このサイズの妖魔の魔核は相当な値段になることは確かだ。


「あら、取られちゃったね」


「俺には優希が居るから大丈夫」



「倉田! 全員の無事を確認して!」

「あと、救護所を作って、怪我の治療を優先して」


「よし! 相模原商業の生徒は一旦集まって!」

「魔法部よし!」

「サッカー部よし!」

「ラグビー部よし!」

「アーチェリー部よし!」

「陸上部よし!」

「剣道部よし!」

「ワンダーフォーゲル部よし!」

「オカ研よし!」

「藤波、よし!」


「報告、全員生きています」


「龍山部長を呼んで、三人でミーティングするわよ」

「魔法部女子は、回復優先で救護に当てさせて」


栃原部長代理がテキパキと指示を出して行く。


「降りろー、行け! 行け!」


 亀裂の谷の方が騒がしい。

普段の狩のパティーでも、多くは小さな魔核しか手に入らないのに、目の前に大きな魔核が大量に転がって居るとなって、みんな浮き足立って居るのだった。

ただし、高校生が、飛行の魔法など持って居るわけもなく、ロープで崖を降り始めたのだった。

崖は垂直の一枚岩などではなく、足場になる突起は幾らでもあり、ロープが有れば、降りる事は可能だった。


「なんか騒がしいな」

桜木は、栃原部長代理に囁いた。


「私達も取りに行く?」

彼女は悪い笑顔で囁いた。

「折角、私達が倒したのに、勿体無いでしょ?」


「行こうか?」


「ええ」


 二人は、箒に乗って進み出した。


「部長ぉー! ミーティングは?」


「15分で戻るわ」


 二人は、箒に乗って、ゆっくり降下する。毎秒1m以下の速度でゆっくりと、ゆっくりと降下して、大地に降り立った。

ここは、人の来ない所なので、平には整地されていないが、妖魔が闊歩するので、溶岩が崩れ、風化して居る。崩れた岩や砂で、岩がゴロゴロしている砂漠の様だ。


 まだ誰も降りて来ていないので、一番乗りだ。早速、二体の大蜘蛛を解体し、魔核を回収した。

解体と言っても、裂けている部分からライトサーベルを突っ込み、ジョリジョリと心臓の方に切り分けて行くだけだ。


 見た事も無い大きさの魔核だが、桜木自身は、魔核を見るのも初めてだった。

オークの魔核は米粒程だったが、大蜘蛛になると、小指の爪ぐらいの大きさがある。


 俺、藤波はパンケーキを焼いていた。

蜂蜜とバターと小麦粉と砂糖。今、皆が必要としている食材だった。

これを、サッカー部のマネージャー達に混ざって焼いていたのだ。


「んん? 何の騒ぎ?」


「谷の底の大蜘蛛の死体から、魔核が取り放題なのですって」


「ふーん」


 俺は、トリコーダーをウエストポーチから取り出して、辺りを確認した。

谷底の向かって右の方に、底に繋がっている洞窟がある。そこを九体のオーガロードが歩いている。

(しまった! 大蜘蛛はこれから逃げて居たのか? ミスった。未確認だった)

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