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大蜘蛛退治 その131


 目を抑え、仰け反るオークの心臓を緑に光る剣が貫いていた。

暴れ、倒れるオークに押されて、端にいたゴブリン達が橋から落ちて行く。

 前に居て視力を奪われた 、他のオークやゴブリンも前衛の剣士に斬られている。


「優希、直ぐ終わる。一旦下がって!」


「は、はい」


 俺は、コーヒーを淹れに、テントの方に歩き出した。


「杖が折れたんだろ。これを代わりに使ったらいいから」

桜木は、自分の腰から『漆黒の紫電』を外し、栃原先輩の腰に付けた。装着用の革ベルトを巻くだけだが。


「ありがとう。来てくれたのね」


「何処からでも駆け付けるよ」


(いや、そこに居たじゃん)

女剣士さんは、さっきまで桜木がいた場所を見た。


「じゃあ、俺は戻るけど、大丈夫?」

「額、痛く無い?」


「大丈夫よ。もう血も止まったわ」


「じゃあ、行くよ」

桜木は、走って、元いた場所に戻って行った。


 栃原部長代理は、橋の袂に戻って行った。

 彼女は、左手で鞘を掴み、右手で柄を掴んだ時に異変を感じた。

『力が漲っている』と感じている。

正確に言うと、体のステータスが上がっているのだ。筋力、敏捷力、持久力、知覚などが上がっている。それも、オリンピック選手並みに。これらは、両手剣の素質を構成する基本ステータスだ。

つまり、両手剣の素質も上がっていることは間違いない。


「この刀は、多分、藤波君の物だわ」

まさか、桜木が使えないのを分かっていて、冗談で作った厨二仕様とは思わなかった様だ。


 栃原部長代理は、スタスタと走り、仲間の盾持ち剣士たちを軽く飛び越えて着地した。


「ウオォー!」


突然の事で、前衛の剣士達から悲鳴が上がる。


シャァー。

鞘から刀を抜く音が響き渡る。


「エクスプロージョン!」


現実には、「シャァー」と言った音がしたが、見ていた者は、「ヒラリ」と聞こえただろう。


 居合抜きだ。

横一文字にオークやゴブリンを薙ぎ払った。

「え?」

栃原部長代理は、自ら勝手に呪文を唱えたことに、自分で驚いた。


ドドドドォーーン!!!!


 漆黒の紫電の切っ先が届いて、少しでも切れたオークやゴブリンは爆発した。それも、多分頭や手が辛うじて分かる程度までに木っ端微塵に。


 栃原部長代理の前に、物理障壁が張られ、爆風や肉片は当たらなかったが、妖魔側は酷かった。

200kgの肉片が音速まで加速されて飛び散ったのだ。当たったゴブリン達も即死だし、死なないまでも、橋から落ちて行った。


「え?」

「何?」

「うっ、わっ!」


「ギャァ」

「グギュ!」


「優希!」


「先輩、派手だねぇ」


 人もオークも、本人も驚いた。桜木は、何が有ったのかと心配し、俺は、コーヒーを一口飲んだ。


ドドドドドドーーーン!!!!!!


ドドドドォーーン!!!!


ドドドォーー!!!


 爆音が3回ほど響いた時、形勢は逆転していた。

人も妖魔も浮き足立っていたのだ。


「に、にげろぉー!」

前線の剣士のは逃げ出す奴まで現れた。

もちろん、敵対している妖魔達はとうの昔に逃げ出した。


 栃原部長代理の前に、巨大オークが立ちはだかった。

 彼女は、数歩踏み込んで、下から上に袈裟懸けに切った。


「サンダーボルト!」


バッ!

バキッ!

辺りが紫色に光った。

 直径4m程度の稲光が落ちて来た。

つまり、橋の端から端までの大きさがある。

その色は紫色で、「magic girl」の長姉のイメージカラーだ。

そこにいた栃原部長代理は、刀を持ったシルエットの影で現れたのだ。

長い髪が、稲光の放電で持ち上がっている。静電気か雷鳴の爆風かはわからない。


 雷鳴は、近過ぎてゴロゴロとは聞こえない。

「バキッ!」である。


 流石の剣士も、この異常事態に逃げ出すものが続出で有る。


「ふウゥー」


 大きな息を吐き、振り返ると、崖を大蜘蛛が登って来ていた。ここは、40mほどの深さがある。そこを十数匹の大蜘蛛が登って来ているのだ。


 彼女は、前を向き直り、オーク達を蹴散らし始めた。


「エクスプロージョン!」


 切り裂けば爆烈するので、オークもゴブリンも無かった。前にある者はドンドンと切り裂いて行った。


 ほぼ、橋上の妖魔達を鎮圧し、向こう岸に渡った頃、対岸に眼をやると、緑色に光るライトサーベルが動いているのが見える。あんな物を持っているのは、彼一人だ。

(大丈夫! まだ生きている)


しかし、大蜘蛛が一匹、亀裂の谷間から顔を出して来ている。

(あと少しだ。あと少しで、先程からゴブリン達を投げている大型のオークに届く。はじめ、それまで耐えていて)

栃原部長代理は、桜木を心配しながら、ここから離れられない責任感に苦しんでいた。


 3、4合切り結ぶと言うか、一方的に切り散らかすと、大型のオークに正対した。視線をめぐらすと、大蜘蛛がもう上がり切っていた。


 大型オークは右手で刀を振り下ろして来た。

それを受け流して、一歩前に避けながら、刀を左から右に水平に切り流す。


「サンダーボルト!」


紫の稲妻が大型オークを打ち据える。

紫色の放電の中で、大型オークは焼け切れる。

バキッ! キョーーン

 ちょうど、迷宮の入り口の前で雷鳴がなった為、穴の奥の方まで共鳴している。

 地下三階大広間中に雷鳴が響く中、大型オークのからだから、煙とも水蒸気ともつかないものが上がっている。


 キッと顔を上げると、上がって来た大蜘蛛の顔の辺りで、緑のライトサーベルが振られている。


「はじめぇー!」


 栃原部長代理は一旦戻って、橋を渡って、桜木のもとに駆け出した。


 桜木は、戸惑った。逃げるべきか、戦うべきか?

目の前に有る亀裂の谷間から大蜘蛛が上がって来たので有る。

流石に、魔法の使えない俺が居たって役には立たない。しかし、逃げるってどこに?

それに後ろにはオカ研の胡桃洋子が居るし、相模川の生徒や八王子南の非戦闘員の生徒もいる。

大蜘蛛は全長8〜10mぐらいはありそうだ。


(藤波! 藤波ならこれぐらい倒せるのじゃないのか!)


 振り返って、藤波を探すと、居た! 自分のテントの前のテーブルで、コーヒーを飲みながら、こちらに手を振っている。


(馬鹿だ! あいつは馬鹿だ! あいつは役に立たない! どうする? どうする俺!)


 深呼吸一つして、桜木はライトサーベルを握り直した。


「さあ、来い!」


 大蜘蛛は、四対有る足のうち、一番前の足で攻撃して来た。

蜘蛛というと、粘着質の糸を吐くと思われるが、蜘蛛の糸を吐く器官は腹部に有り、糸吐き攻撃というものはない。

ただし、他の昆虫が対応出来ないような素早さと力で襲い、粘着質の糸で動けなくするモノは多い。綺麗な蜘蛛の巣を張って、待ち伏せの罠を作る種類は、意外と少ないのだ。

ただ、この大蜘蛛は女郎蜘蛛のように巣を張るタイプのようだ。そしてデカイ。

攻撃触手が長いと、いくら速度が出ていても、動き始めから標的に当たるまで時間がかかるのだ。ビューン、ビューンと大振りに見える。攻撃触手の先端の速度は相当出ているのだが、大きいので緩慢に見える。


 桜木は、ライトサーベルで避けながら後ずさりして行った。巨大蜘蛛の攻撃は、二本一対で、木っ端微塵にされて殺されるには十分な速さと回数だったからだ。

腹の下に目はなくて死角になっているのは解っているのだが、そこに行くまでが難しすぎた。八つも目があると、死角がないのだ。


「逃げろ! 早く! 遠くに逃げろ!」


 なんとも情けない。「俺に任せろ!」なんて言えねぇよ。俺には逃げるだけの時間稼ぎしかできない。そう思いながら、無茶はしなかった。



ブックマークと高評価をありがとうございます。


うひゃ、うひゃ、うひゃ。

連続してもらえると嬉しいね。

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