表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/215

大蜘蛛 その130

 蘇我さんは小さな氷柱を飛ばしている。魔力消費を減らして、持久戦に備えているのだ。

秋山さんは火球だが、これも小さい火球だ。


 栃原部長代理と瀬戸山さんは、橋の袂でバトルスタッフの先を光らせて

槍の様に攻撃している。飛ばない光弾の様なものだ。


 一進一退で、橋を攻略出来ないオークが苛立って来て、付近のゴブリンを投げて来た。

 大広間は、元々溶岩の流れた後の空洞風穴で、床は凸凹で岩は硬い。いや、柔らかいと言われている御影石でも怪我をするには十分だが、それがここでは溶岩なのだ。より一層硬いのだ。Pタイルの床なら滑って転がるだろうが、溶岩では擦り下ろされ、怪我をするのだ。


 オークに投げられて、無傷じゃ無いゴブリンが亀裂を渡って来た。


 撮影どころでは無くなった桜木が、カメラを捨てて、と行ってもバックに入れただけだが、オカ研の女子を守りに行った。


 桜木が右の腰に下げたライトサーベルを点けた。

「ブゥゥゥゥーン」

唸りを上げて、緑の刃が伸びて行く。


「え?」

 オカ研の女子部員の洋子は驚いた。

ライトサーベルなんて物が実在すると思ってもいなかったからだ。


「桜木君?」


「珍しいだろ。あいつトレッキーなのにな」


「はぁ?」


 嬉々として、桜木は飛んで来るゴブリンを叩き斬っていた。



 栃原部長代理は、八王子南高校やサッカー部やラグビー部の盾持ちの隙間からバトルスタッフで攻撃していた。

杖の先に魔力を乗せて突くのだ。

ホブゴブリンなら兎も角、小型のゴブリンなら即死もあり得る威力だ。


 そこへ、オークが剣を叩きつけて来た。2m越えの体重が200〜300kgも有るオークが剣を振り下ろして来たのだ。盾の上を越して、小賢しい魔法使いを攻撃して来たのだ。

 小錦か武蔵丸が剣を振り下ろした様なものだ。女子高生が耐えられる様なものでは無い。

やっと出来たのが、バトルスタッフを横にして、両手で受けた事だった。


 バトルスタッフの中央部は木で出来ているため、簡単に折れ千切れた。しかし、体を仰け反らせ、辛うじて直撃は避けることができた。


ガン!


すごい衝撃と金属音がして、意識が無くなった。その前後の記憶がなく、暗がりの中で、頭と背中を痛がっている記憶しかなく、それも、後で作られたものかどうかも分からない。


オークの刀の切っ先が額を擦ったのだ。


 側にいた八王子南の剣士が後ろに引きずり出してくれたらしい。

どこかの女性剣士が、ハンカチ? を頭に巻いてくれていた。見た事がない人なので、多分、八王子南の生徒だろう。


暗い天井が見えている。

(ここはどこだ? 私は何をしているの?)


「大丈夫だから? もう少し休んでいてね」

優しい声がする。さっきの女剣士さんだ。


ハッと我に返り、橋の方を見ると、オークがまた剣を振り上げている。


 短絡詠唱で物理障壁の魔法を張る。

魔法が間に合わず、剣が振り落とされた辺りから血飛沫が上がる。


キラッと物理障壁が張られた。


「遅い!」


栃原部長代理は、自分で自分の無能ぶりを悔やんだ。


 俺は、戦っている桜木の側に寄って行った。右手には、コーヒーの入ったマグカップを持っている。

「桜木ぎぃ〜」


「なんだ? って、コーヒー、お前だけ飲んでるの? この事態に」


「ここ寒いじゃん」


「戦えよ。直ぐ熱くなるぞ!」


「これ、相模川の性だよね。俺は、あそこに関わらないことを決めたんだ」


「そうか。まあ、好きにしろや」


「ああ」


「で?」


「んん?」


「用があるから来たのだろ?」


「ああ、まあ、どうでもいい事なんだけどさ」


「なんだ? 言えよ。借金以外なら話してみろ」


「お前、今、『漆黒の』方は使っていないだろう」


「ああ、今はライトサーベルだけだけど」


「栃原先輩がさぁ、杖折られちゃって、素手で戦ってんだよ。額も切られちゃってるしさ。使ってな……」


「なにぃー! 早く言えよボケーッ!」


「ないなら貸してやれよ」

「今言っただろう」


 桜木が、血相変えて走っていった。


「おい、ここの守りはどうするんだよ」

「って、そりゃ聞いてないよな」


ゴクリ。

俺は、一口、コーヒーを飲んだ。



「優希! 大丈夫か?」


「頭がクラクラするけど大丈夫」

額に巻いたハンカチは血で真っ赤に染まっていた。


「取り敢えず、ちょっと下がって」


「今は無理」


「いいから下がって」


「駄目よ。今下がったら、みんなやられちゃうもの」

先ほどのオークが、栃原部長代理が張った物理障壁をガンガン叩いている。


「桜木ぎぃ〜」


「なんだ? 来たのか?」


「お前が倒して来てやれよ」


「え? ……?」

桜木が固まった。


「無理だ。下がってろ!」

誰かが言った。どうやら、遊んでいると思って怒っている様だ。


「よし、優希、危ないから下がってろ!」


「馬鹿やめなさい! はじめ!無理よ!」


「キャァ〜。桜木君カッコいい。」

俺は、冷やかしておいた。これはお約束だろう。


「はじめ! 下がりなさい」

桜木が、ライトサーベル片手に、じゃなく両手で持って、剣士達をかき分け前に進んだ。


「あーあ 何ということだ。

その女の子は悪い魔法使いの力を信じるのに、ドロボーの力を信じようとはしなかった。

 その子が信じてくれたなら、ドロボーは 空を飛ぶことだって、湖の水を飲み干すことだって 出来るのに…。」

俺は、感情を込めて、劇団員風に言って見た。


「ボケが! 誰がルパンだ。で、なんでお前が言うんだよ!」

桜木は、ライトサーベルで突きの体勢に入った。


「スピードライトな。そこ、スピードライトを使う所だから」


「お、おう!」


バシュッ!

チュィィィィン


 辺りは暗い洞窟内だ。各自が付けたヘッドライトだけで戦っていた。

そこに白い強烈な光が灯った。

天井が、白く、影が黒く、壁や床が白く光った様に見えた。


ギャァーー!


オークは痛みすら感じたかもしれない。

離れている俺も、白いオークの残像が目に焼き付いている。オークやゴブリンは、完全に視界が奪われただろう。


 そこに桜木がライトサーベルで突いて来たのだ。栃原部長代理の物理障壁を突き破って。

 桜木のライトサーベルは、魔法の物理障壁で出来ている。厳密に言うと、厚みの無い透明なガラスの三角柱の様なもので、その中にスモークを焚いて、ライトで照らしているだけだ。

サザンの魔法に比べたら、栃原部長代理の魔法など紙の様なものなので、簡単に突き破る事が出来るのだ。

ブックマークして頂きました。

それに感想も頂きました。


有難うございます。


頑張って、新作書いています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ