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地下三階ベースキャンプ その127

 俺は扉に向かって、右側の壁際に移動して右足に魔刃を発生させる。

体を右回りに回転させて、壁を蹴り上げた。所謂、プロレス技のローリングソバットだ。回し蹴りだが膝は曲がっていて、足底で蹴っている。


ドグワンッ!


壁が崩れて、大きな穴が空いている。


 宙に浮いている箒を掴んで中に入る。左の隅に居るはずなのでそちらを見ると、トロールと目が合った。


 横たわって居る粟田を見て納得がいった。部屋の隅に頭を抱えて縮こまっていたのだ。トロールの持つ棍棒じゃ隅に届かなかった様だ。それで潰されずに一時間も生きていたのだ。

(お前の頭はルンバか?)


 俺はトロールに走り近づき、魔刃を張ったままの右足でトロールの左太腿を蹴り切る。

ゆっくりと倒れるトロールを避けて、頭を踏み潰した。背が高いので、ゆっくりと見えるだけで、自然の法則通りの速度は出ている。


 粟田の方を見ると、両足が潰されて居て、意識がないようだった。

膝の上辺りで、足がペラペラに叩き潰されて居た。ケブラーのズボンが平らに圧着されていた。これで、大量の出血が防がれたのだろう。が、ケブラーのズボンの中は、肉片と血液の溜まり場だろう。


 俺は、左手で胸ぐらを掴んで引っ張り上げて、引きずって帰った。


「おい! 助けたぞ! 連れて帰ってやれよ。多分クラッシュ症候群になってるぞ」

俺は、相模川の連中に粟田を投げ捨てた。

残りの二匹のトロールが迫って来たからだが、その粟田に微塵もの同情すら無いからだった。


 俺は向かって右のトロールの方へゆっくり走って、丁度良い間合いで左足で踏み切って、魔刃を纏った右足で顎を蹴り上げる。

隣でよろけて倒れて行くトロールが見える。鼻から後頭部に氷の氷柱が刺さっている。

 口をパクパクさせながら、喉を掻きむしっていたら、氷柱が飛んで来て鼻に刺さったのだ。

こんな事する奴は一人しか知らない。あの時はドラゴンだったが、


 俺が蹴り上げた方のトロールの顔が宙に舞い、頭半分が付いた体が倒れて行く。


 振り向いて、

「終わったぞ! 帰るぞ!」と宣言する。


 蘇我さんと秋山さんが粟田の回復治療を行っている。先ずは、止血して傷を治さないと失血性ショックで死ぬかもしれないからだ。


 瀬戸山さんは何も言わないで、クルッと振り向いて、入口の方に立ち去った。


「あいつ、鉄刀持っている事忘れてるんじゃ無いか?」


「それだけ怒っているの?」


「たぶん」


桜木と栃原部長代理が囁き合っている。


 粟田の治療は、蘇我さんと秋山さんと瀬戸山さんの三人で処置しても15分ほどかかった。傷口と内科の治療だけである。潰れた足が生えて来たわけでは無い。潰れて消失した脚は無くなったままだ。

本人はまだ寝かせていた方が良いだろうという事で、魔法で寝かせている。


 俺は、箒を廊下に出して、先頭を歩いて帰り出す。

後に続く者たちが喋ることもなく、非常に悪い雰囲気だ。


 帰路は、当然、相模川高校の生徒が背負っている。背負子も担架も持って来ておらず、普通に背負っている。

この方法は、意識のない成人を背負うには、非常に重く疲れるので、あと二人がサポートしている。運動会の騎馬戦の様に後ろから支えているのだ。


 相当上の方まで来た頃、緑川高校の者達が、ある部屋を覗いていいか聞いて来た。もちろん、問題ない旨を伝えると、とある部屋に入って行った。


数時間前に、自分達が逃げ出した所だ。

その中から、仲間の遺体を救出したいと言って来たのだ。


 中には、ゴブリンの山が二つほどあった。箒を掴んで、部屋の中に入れると、ゴブリンの山が二つほど見えた。

一斉にこちらを見るゴブリンの目。まだ子供達が多かったが、慌てて逃げ出して行く。手に人の足と思しきものを持って逃げる奴もいる。


 突然、緑川高校の生徒が悲鳴を上げながら、剣を振り回して追い払い始めた。


「うわっー!」

「グハッわっー!」

すでに日本語でもなく、聞き取ることは困難な言葉だ。


 ゴブリンの居なくなった所には、遺体が転がって居た。

内臓や片足や前腕がなく、頬の筋肉もこ削ぎ落とされていた。

そんな遺体が二体転がっていた。


「部長!」


「先輩!」


それぞれにそれぞれがしがみ付いて泣いている。

(それにしても、よく判別がつくものだ)

俺は、いろいろ思っているが、ただ眺めているだけだった。


 辺りは、血と生肉のひどい匂いがしている。気温が低いのと、内臓が食われてしまったので、腐敗は始まっていないが、それでも相当臭い。


「彼らを連れて帰りたいのですが、良いですか?」


「別に構わないけど、自分達で運べよ」

(俺、リーダーじゃ無いけどな)


 緑川高校の生徒が、遺体を背負って帰るようだし、形見の装備も、メンバーが集めている。

(遺体を背負っている生徒は、あれはトラウマになるだろうな)

やはり、俺は余計なことを考えて、ボーッと準備を眺めていた。


 結局、5時間かけて帰って来た。

緩やかとは言え登り坂だし、重傷者や遺体を背負って歩いては、どうしても歩みが遅くなるからだ。


 道中、桜木が緑川高校の生徒にインタビューをしたりと緊迫感がなく歩いていた。

一体二体のゴブリンはサッカー部が対応して倒していた。


 緑川高校の生徒達が、

「部長達は俺たちを逃がすために、『ここは任せて、先に逃げろ』て言って、あの時皆で戦えば……。」

と言って、桜木のカメラに向かって泣いていた。

皆、それを聞いていたが、さすがに本人の遺体を前にかけてやれる言葉がなかった。


「お前達が全員生きて帰れたんだ。部長達も命をかけた甲斐が有ったと言うものだ」

俺は呟いた。

重い空気が迷宮内に流れて行く。

誰も反論できないし、肯定もできない。


 地下三階大広間と呼ばれている所に戻って来たときは、全員クタクタだった。


 倉田が、ちゃんと留守番を守っていて、用事の無い者から仮眠を取らせているし、見張りも最小限にしていた。


 流石に、昨日から起きていて、重労働に戦闘と体力的にも精神的にも限界だったので、栃原部長代理は、捜索隊を解散後に、軽い食事と水分補給後、すぐに休むように言って解散した。


 可哀想に、部長の遺体を運んでいる生徒は、何回か部長の声を聞いてしまっていた。

襲われる恐怖と部長を見殺しにした懺悔と長時間にわたる重労働で参ってしまったようだ。一番のストレスは、背負っている部長の遺体だっただろうけど。


 全員で、倉田が用意しておいてくれた食事をとっていると、相模川高校の方が騒がしい。

一部の生徒達で、粟田を地上の施設に運び出すそうで、数人が挨拶に来ていた。

 緑川高校の方も、食事後、帰るそうで、撤収準備をしていた。


 おにぎりとインスタントの味噌汁とハムサラダだ。火を極力使わないメニューだ。

栃原部長代理は、忙しくて、それも食べていられないようだったが、俺は遠慮なく頂いた。


 俺と瀬戸山さんは、食事中に会話どころか目を合すこともなく過ごした。

雰囲気が悪い為に、誰も俺に話しかけて来ないが、元からボッチなので気にならないでいる。


 栃原部長代理が、皆の食事が終わると、自分の食事がまだなのに、合宿開始の挨拶と、まずは寝るように指示を出している。


「みなさん、取り敢えずはよく寝てください。最低6時間以上を目安にしてください。

見張りは倉田副部長に人選は任せますが、ベースキャンプの前でしてください。裂け目を渡る事は禁止します」

「では、各自解散! 速やかに休養を取ってください」

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