栗田と その122
俺は避難者達、緑川高校の連中に話しかけた。
「早く傷を消毒した方がいいですよ。こんな所です。傷が化膿したり、破傷風になりますよ」
辺りがパッと明るくなった。相模川高校の誰かが光弾を撃ったのだ。
俺は、蘇我さん、秋山さん、瀬戸山さんの順に礼を述べた。
そして、瀬戸山さんと少し話した。
「葉月、ありがとう、すごい霧だったね。おかげで大分倒せたよ」
「今日は、もう寝るね。おやすみ」
「どうして、一人で危険な真似をするの?」
「んん、桜木が付いて来てくれていたよ」
「違うわよ!」
眠いのに、女は分からない。
とりあえず、自分のテントに入って横になった。
迷宮内は、岩がゴツゴツしていて、テントで寝るには適さない。その為、床に発泡スチロールのマットを二重に敷いて床にし、寝袋に潜り込んだ。
「サザン、今日はありがとうな」
サザンの返事を聞く前に、意識が遠くなった。
次、目覚めた時は、葉月がいなかった。
バコッ!
グゴ
キン!
バン!
倉田と龍山部長は、さすがに終わらない相模川高校の戦闘を気にしていた。
八王子南高校も同じで、鎧を着た数人が、こちらにやって来て話し合いになった。
内容は簡単で、助けに行くかどうかと言う単純な話だった。
こう言う場合、見殺しという選択肢はない。お互い様だし、強い者が弱い者を庇うのがアドベンチャーシップだ。
「行くぞ!」
「おう!」
という訳で、急遽救援隊が編成されて救援に向かった。
「応援に来たぞ!」
「すまん」
アーチェリー部がレゴラスかっ?ってぐらいの活躍をしている。
相模川高校の生徒がオークと斬り合っている肩越しにオークを射抜いていたり、弓を引いたままオークの前に飛び出して射抜いたりしている。
活躍の場が無かった剣道部が無双を楽しんでいる。
勿論、相模川高校の生徒がオークと正面から敵対しているから出来ることなのだが。
結局、オークも数匹増えていたが、圧倒的多数でこれを撃退した。
栃原先輩が瀬戸山さんを呼んでいる。
「おい、瀬戸山。ちょっと、そこで迷宮の奥を見張っていて欲しい」
「敵が来たら、さっさと逃げて来ていいからな」
瀬戸山さんは、
「本当ですか? 逃げていきますよ」
と言いながら哨戒に立った。
瀬戸山さんは疲れて居た。寝ずに歩かされて、魔法を使わされたのだ。
肉体的にも精神的にもクタクタだった。そこに見張りの役目をいい使ったので有る。
まだ、ろうそくがチロチロと燃えており、迷宮の壁の影を揺らしている。
これで、完全に緑川高校がトレインして引き連れていた妖魔達は退治出来た。
一応、全学校の代表が集まって、協議することになった。
我が校からは、栃原部長に倉田が話し合いに行った。
残りの者達は、まずは仮眠する事になった。疲れを取らなければ始まらないからだ。各自、自分のテントに潜り込んで、乾パンなどで食事を済ませて寝てしまったのだ。
相模川高校のテントも似た様な物である。多くの者が疲れていた。
白本さんが長身の剣士に喋っている。
「ねえ、粟田くん、貴方も迷宮の入り口を見張って来なさいよ」
「どうしてだよ?」
「相模原商業の女子が一人で見張りに立ってるわよ。貴方彼女いないんでしょ」
「え? 本当だな。ラインぐらい交換できるかもしれないな」
粟田は、長身でイケメンである。両手用剣を使う剣士だ。全身ケブラー繊維の防具にポリカーボネートの鎧を着ている。
ヘッドランプを点けているが、大型の照明は持っていない。
本道の入り口に立つと、瀬戸山さんに声をかけてきた。暗い迷宮内でコミュニケーションを図るのは普通だし、不思議なことでは無い。
「そちらも見張りですか? 俺もなんだ。仲良くしような」
「ええ、こちらこそ」
「こんな時間に、お互い貧乏くじですね」
「本当だぜ。もうみんな寝てるんだろうな」
「そちらは、魔法使いさんですか?」
瀬戸山さんは、ケブラー繊維の防具にブレストチェストガード、上からローブを被っている。、手にはバトルスタッフと魔法使いのテンプレのような格好をしている。
「ええ、戦闘は得意じゃ無いのだけど、クラブで合宿って」
「へえぇ、そうですか? ここは有名だから、合宿に来るのに前もって予約しておかないと来れないって聞いたけどね。来たく無い人もいるんだ」
「寒くて、ジメジメしていて、真っ暗で、来たい人が居るの?」
「あはは、そりゃそうだ。来たく無いよなぁ」
瀬戸山さんと粟田は、小一時間もたわいの無い話をしていた。
「あそこの陰で何か動いた。ちょっと見て来るわ」
粟田は、背中の刀を抜いて構えた。
両手用剣は長く、片手では抜けないのだ。一旦、床に落とすか、さやを抜いて落とす必要がある。
その昔、ヨーロッパでは、ロングソードを抜くのに従者が手伝ったらしい。そのぶん威力は絶大だったが、取り回しが難しいのだ。
走って行った粟田が戻ってきて言う。
「何か居たけど分からないなぁ。暗がりの中を逃げて行った」
「ちょっと様子を見に行こうと思うのだけど、手伝って貰えないかな?」
瀬戸山さんは、男と言うのはややこしい動物だと思った。逃げて行ったのなら、害がないので放っておけばいいじゃないと思うのだが、後を追いかけるといい出した。本当、困ったものだ。
「追いかけるなら、みんなに言って、パーティを組んだ方が良くないですか?」
(この人、勇人のように強そうじゃないけど、大丈夫なのかしら?)
「ちょっとそこまでだから、大丈夫だよ。皆に知らせた方が大袈裟だと怒られちゃうよ」
「で、お願いがあるんだけど、支援してくれない。後ろに居て、照らすだけでいいんだ」
「俺、両手が塞がってて、ライトが持てないんだよ」
(確かにそうだが、不器用な人。じゃあ、いつ両手で戦うのよ)
(誰か居ないと戦えないじゃん)
「いいけど、少しだけね。奥まで行かないわよ」
渋々返事をした事を匂わせて返事をして置く。
「じゃあ、後ろから照らしてくれ」
粟田は、それなりの腕らしく、ゴブリンを見つけては、切り倒していた。
この時期の男子は、心の成長が遅い。しかし、女子にはモテたいので、必死にトンチンカンなアピールをするものだ。
ゴブリンを倒して「俺、TUEEEEEeeー!」と必死になっていた。
それを見て、「かわいい」とニコニコと笑っていると、何か勘違いしたようで、余計にテンションが上がってしまったようだ。
また、ブックマークをいただきました。
ありがとうございます。
高評価もいただきまして、本当にありがとうございます。
まあ、それでも底辺なのですが、絵立っていないだけましだと思っています。