ワンダバが鳴り響く! その12
「目を狙え!」と言っているのに、フローラは大きな目標に当てに行こうとする。勿論、鎧の上からダメージが行くことはない。
シュパッ! 気が緩んでいた様だ。首の辺りを剣で横に払われた。
危うくドュラハンになる所だった。
三歩下がって間合いを取り、深呼吸をして、気合いを入れ直す。
戦いの事だけを考えて、精神を統一をする。
その5秒程の間に3回は切りに来られたが、鉄刀で受け流す。まともに受け止めたら、さすがにステンレスの棒でも折れてしまうだろう。
相手の刀の力を止めるのではなく、右に左にと力の向きを、安全な方に少し変えるのだ。
敵の刀を受け流すと鉄刀から火花が出て鉄の匂いがする。
息を吐き、大きく息を吸う。心が落ち着いて来て、周りの音が聞こえる。目や耳の感覚が研ぎ澄まされて、大地に伸びていく感じがする。
相手の動きや、周りの仲間たちの動きが手に取るようにわかる。
「新人類の覚醒」とか言う奴か? 最近なら、「ゾーンに入る」と表現されるあの感覚か?
「私の感覚を勇人の知覚に共有しています」
とサザンが喋り出した。
所謂、「頭に直接」と言う会話方法なので周りには聞こえない。
(ああ、成る程、彼等は、こんなに良く見えていたのか? って、目や耳はどこだよ!)
持っていた鉄刀に細い赤い線が鍔から切っ先に向かって伸びていく。
何だろう? この鉄刀の仕様なのかな? サザンの力なのか? 不思議と気にならない。
オーガロードの剣の動きが良く見える。よく見えるどころか、この先の動きまでもわかる。「先読み」の能力か。
簡単にオーガロードの剣を避けて行く。動きが解るので難しいことではない。未来が見えるというほどの事もないが、「刹那の先が見える」のだ。
身長差が有るので、踏み切って飛びかかる。
飛んでしまえば放物線を描いて落ちるだけだ。誰にもどうにも出来ない。ここを狙われたら防ぎようがないのだが、オーガロードは倍ぐらい身長が有る ので仕方がない。
俺の鉄刀が、オーガロードの右肩、首の付け根辺りに命中した。が、心臓から左わき腹にかけて鉄刀が切り裂く。
「へっ?」
まったく間抜けな声が出てしまった。
鉄刀は刀の字が付いてるが、刃は付いていない。模擬刀見たいな形もしていない。どちらかというと木刀を鉄で作ったような形だ。俺のはステンレス製だが。
江戸時代、相手を殺さずに捕まえる武器だったらしい。って、これで殴られたら腕の一本や二本は折れただろうけど。
そう、切れるはずがないのだ。しかし、袈裟がけに切れてしまった。それも、金属鎧ごと。
不思議なことも有るものだ。でも、この赤い線が関係しているのだろう。とか考えていると、「魔刃よ」とフローラが教えてくれる。
って、お前まだ居たのかよ。危ないから下がっててくれ。
「魔法の刃、魔力の刃」見たいな感じのやつらしい。普通は、魔刃単体で空間には存在できず、何かに沿わせて発生させる。そして、名剣や聖剣をより切れるようにする魔法なのだそうだ。
「フローラ、お前が使ってくれたのか?」
「違うわ、妖精はそんな魔法使わないもの。刃物は嫌いなの」
と否定される。
じゃあ、この鉄刀の仕様なのか? こんなギミックを入れておいてくれたのか。さすがは関市の刀工である。
でも、柄を握る手に力を入れても変化なく、スイッチを探しても見つからない。
操作の仕方が全くわからない。
二度と赤い線が光らないのだ。
「私の力が強くなって、君たちの言うレベルが上がっているからだろう」
とサザンが説明してくれた。
後に、精神が統一されていると出る事が解った。そして妖精は魔刃が嫌いで、周りの妖精が逃げていく。フローラも居なくなるのだ。
鉄刀を強く振ると、先からかまいたちが出ることがわかった。三日月形の魔刃が飛び、後ろに真空な状態が飛んでいくのだ。単体で存在できない魔刃は、すぐに消えてしまい、真空状態のかまいたちだけが飛んでいくのだ。
それでも、ゴブリンなど生身な者は切り裂いてしまう。三日月の魔刃の両端には空気の渦が出来ているらしく、一度は妖精たちを巻き込んで切り裂いてしまった。
幸い、その妖精達は、その時はまだ生きていたが、運ばれていってその後はわからない。
11月、鉄刀に現れる魔刃は大きくなって、赤い線が枝分かれして、太くなって、まるで炎のようになっている。また、前腕や足に発生して、空気を蹴れる様になっ てきた。
跳躍して、敵の刀を避ける為に、何もない空中を蹴って移動できるのだ。
強烈に空気を圧縮して打ち出しているんだろうか? サザンによると、魔刃は魔力の塊なので、魔力の噴出だろうと言っている。
この頃には、サザンが良く喋るようになってきたし、オーガやトロールをも細い触手で吸収するようになってきた。
12月のクリスマスも終わった頃、北の空が黒くなってきた。今までと濃さが全然違う黒さだ。稲光も見える。
そして、今までと大きさが全然違う。
丘に登ってみると、遠くの大地に妖魔達の群れが見える。トロールやオーガが小さく見える。グールやオークは小さくて見えないが、黒くうごめいているのがそうなのだろう。
ただ、今すぐに攻め入って来る様子はない。まだ、隊列を整えているようだ。
全長100メートルを超えるドラゴンに50メートル超えのドラゴンが二匹。ワイバーンが100匹ぐらい空を舞っている。
ゴジラじゃないか。後ろ足で立って見ろ、まんまゴジラだぜ。
幅は2キロ、奥行き4キロの方形陣を取っている。
丘の上から見ると、黒い四角い絨毯がゆらゆらとうごめいている。時々、そこに稲光が落ちていく。
落ち着け! 落ち着け! 落ち着け、俺! 深呼吸をして、俺は対策を考える。オークやドラゴンやゴブリンの顔が浮かんでは消える。何か弱点はないのか?
胸の奥ではワンダバが鳴り響く。
エルフやドワーフは助けに来ないのか? ここは、今助けに来るところだろう。
「誰か、助けは来ないのか? エルフとか、ドワーフとか?」
とフローラに聞いてみる。
「だれも助けになんか来ませんよ。あなたがその助けですから。勇者様」
「おお、じーざす!」
って、今つかう言葉だよなぁ。
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