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地下三階大広間 その119

 山本は、ゆっくりと意識が遠くなって、再び寝てしまった。

次に目覚めた時は、テントの中だった。オレンジ色の薄い布地の天井が見えた。テント内に電池式のランタンが置いてあったのだが、それにも気付かなかった。




 相模川高校の行進速度が上がったので、白本さんは、渋々離れていった。


 すると、隊列を乱してまで瀬戸山さんがやって来た。正確に言うと、遅れてそばにやって来たのだ。


「何を楽しそうに話してたの?」


「何も。何も話してい無いよ」


「ウソ、楽しそうだったじゃ無い」


「いや。そんな話をした覚えはないよ」


「楽しく無くても、どうして話すの?」


「向こうが、勝手に話しかけて来ていたんだよ」

意味が分からないし、女の占有物宣言が怖い。他の女が近づいて来ると、野生の勘で追い払うのだ。


「これは私のだから、誰も手を出すな」とアピールしているのだ。

リアカーに乗っている女生徒は、それには触れないし、俺にちょっかいを出さないので、瀬戸山さんもスルーしている。


 やがて、瀬戸山さんは不服そうに速度を上げて、自分の列に戻って行った。


 それから小一時間ほどで、地下三階大広間と呼ばれている所に着いた。

200mから300mぐらいのいびつな円形をした空間だ。中央部に何本かの柱があり、天井を支えている。

 噴火時の溶岩の中のガス溜まりの跡だと言われているが、それにしても大きいし、人工的だ。


 本道と呼ばれる道が、幅が5m程に細くなり、続いている。

枝道も何本か合流しており、各冒険者のベースキャンプ地になっている。


 床は、歴代の冒険者と魔法使いによって削り取られて平らになっている。

何故削られたかは、テントを張った時に理解出来る。現在は、アスファルト程度まで平らになっている。


 相模原商業は、空いている壁をバックにベースキャンプ地を決め、テントを張り出した。

ワンダーフォーゲル部の指導の下、各自が自分のテントを張り、隣のテントとロープで繋ぐ。

テントはロッドを繋ぎ、テントに通し持ち上げるだけで簡単に出来る。が、ペグを打つ事が出来ないので、固定ができず、隣のテントと繋ぎ固定しているのだ。

洞窟内なので、雨も風もないので、これで十分なのだ。


 俺は、自分のテントを設営し終わると、トリコーダを使って、索敵を掛けた。15人ほどが、100匹程の妖魔に追われて、本道を逃げ上がってくる。

今の速度で逃げ続ければ、20分程で逃げ帰ってくる見込みだ。


 地下三階大広間から下に降りる本道は一本で、正面にある。枝道は多数有り、上に上がって居たり下に降って居たり、行き止まりだったりしている。

 元は、大広間と繋がっていたのだろうが、壁から5mほど床が続いたら、幅が10m程の地割れが左右の壁まで続いている。つまり、左右に伸びる地割れで、三階以下には床が直接繋がって居ないのだ。深い深い地割れで隔離されているのだ。


 その地割れには、向かって左端の方に幅が4m程のクランク状の橋がかかっている。橋には欄干の様なものはない。勿論、そんな物、地割れの崖の端にも無いが。


 俺は、倉田に救援の協力を仰いだ。


「倉田! 誰かがトレインしながら逃げて来るぞ! 手伝ってくれ」


「何か?」


「そこの本道を、誰かが妖魔を100匹程連れて、トレインして逃げて来ている。迎え撃つから手伝ってくれ」


「え? 大変だなぁ。怪我人じゃ済まなくなるぞ」

何か、呑気な返答が帰って来たが、その通りだ。


「みんなを集めてくれ。早く対処しないと間に合わなくなる」


 俺は適当に指示を出していく。

「蘇我さん、秋山さん、瀬戸山さんは、ここに濃霧を出し続けて。」

「運動部は、ここで挑発し続けて」

アーチェリー部と魔法部はこちらから攻撃して」

「何もできない人はこの花火を撃って」


 俺は、本道から出た所の地割れの手前側、本道の入り口からしたら、対岸に防衛陣をひいた。


 俺は、ずっと迂回して、クランク上の橋を渡って本道の出口に来た。

手伝いを一人頼んで来てもらったら、桜木も付いて来た。


 俺は、カムと言う装置を岩の隙間に差し込み、テンションをかけると抜けなくなった。それにカラビナを付けて細いザイルを通す。


 ザイルの先に重石を付けて、対岸に投げる。そちらをワンダーフォーゲル部に引っ張ってもらう。

この時に手製ランタンを括り付けておいた。


 細い針金を4本ほどをクロスさせて交点で編んで底にする。提灯型に上方に回して、5cm程の上でまた編む。余った針金を上方にぐるぐると捻って、20cm程上に輪っかを作ってランタンを作ってあった。これに100均のロウソクを入れればランタンになる。

あとは、クリーニング屋の針金のハンガーをほどき、20cm程に切る。

それをラジオペンチで曲げたらs字フックの出来上がりだ。

 これを迷宮内で使おうと大量に作ってあった。捨てて来ても惜しく無い様に、安価に出来る様に工夫がしてあるのだ。

これをザイルに引っ掛けて、ラジオペンチでギュッとかしめて固定する。(カシメ、ナットの固定ではなく、釣りのおもりのカシメ。金属で挟んで固定するの意)


 10m程の地割れなので、5個程ぶら下げた。それをもう一本作って、二本を橋の欄干の照明の様にする。


 本道から出た所の道にもロウソクを並べて、まるで道の様に、まるで橋の様に見える様にした。


 手伝いに来た者に、避難者が逃げて来たら本物の橋へ誘導して、自分も逃げる様に言っておいた。


 俺と桜木は、本道を下って行った。

 10m程降っては右に、10m程降っては左にとロウソクを設置し、それに点火してくだって行く。

100均のアロマセラピー用のロウソクは3、4時間ぐらいは燃えているので特に問題は無い。



 五分ほど降ると、逃げて来ている避難者に会った。


「後少しです。急いで! 救援に来ました」


「助かる!」


 前の方の者は怪我人を支えているし、後方の者は、盾となって、前を逃げる者達を庇っている。


 ロウソクの灯りは暗い。が、点々と道を示す灯りは、心強く、勇気が湧いて来て生きる力となる。


「しっかりしろ。もう少しだ!」

なんともテンプレな励ましだが、時と場所によったら、こんな力の湧く励まし方も無い。


「おう、悪い。急ごうぜ」

足を引きずり、傷の痛みに耐えても逃げる力が出るものだ。


パパパパパパーン!

シュシュシュシュシュパパパンン!


 全員が立ち止まって、大道の床を見た。勿論、妖魔達もだ。

そして、俺の顔をまざまざと見ている。


 空中で投げた爆竹の束が爆発したのだ。爆発しながら床に落ちて行く。と、続いてねずみ花火が火の輪を作りながら回って居て、爆発したのだ。

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