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待ち伏せ その116

 俺は、トリコーダーに、洞窟の奥にゴブリンの反応を見た。

胸の紀章を叩いて、コミュニケーターを起動する。


「桜木! 200mほど先に6体居る」


「多いな。だけど、三十人だぞ。襲って来ないだろう」


「正々堂々とはな」

「でも、はぐれたら襲われる。弱くて、小さくて、一人になったらな」


「この先、狭くなったところの上に隠れて居る」


「誰が襲われる? 防御は硬いぞ」


「そうでもないさ」


「え? 誰が?」


「倉田の腕の見せ所さ。黙って撮影しておけよ。それで、今後の用心と期待して良いかどうかが分かるんだ」


 桜木は、オカ研のメンバーに伝えて、自然にカメラの配置を変えて、分からぬように狭窄部で止まった。

 カメラの感度を高感度に変えて、ゴブリンから隠れていた。


 俺、はリヤカーを止め、ウエストポーチから弓矢と花火を出した。

鏃にはアルファベットのGの字の金具が付けてある。時代劇に出て来る矢文や物を飛ばすシーンを再現したくて作った物だ。


爆竹の束を鏃にセットするとカンデラの蓋を開けて待つ。


「桜木、ゴブリンが動いたら教えろよ」


「ああ」


 パーティーはヘッドランプだけが頼りで歩いて居る。明かりが届くのは、せいぜい5mぐらいだ。洞窟の奥を照らしても、灯りは床を照らすだけで、他に照らされる物はない。

 人は疲れて来ると、ついつい下を向いて歩いてしまう。前の人の足を見て歩いてしまうのだ。


 倉田もサッカー部も気付かずに通っていった。魔法使いも沢山居るのだが、誰も索敵魔法を掛けていなかったのだ。

 疲れて居るので、今まで襲って来られなかったので、安心してしまっていたのだ。まあ、慢心とも言うが、さすがにこの人数では襲われる事はないからだ。


 ゾロゾロと列が続く。皆、もう疲れて声も出ない。終業式が有ったのが昨日の事なのか? 今日の事なのか? 判断が付かない。疲れて居るのだ。


 剣道部が通過すると、もう一つランプが見えた。魔法部の新入部員のヘッドランプだ。その向こうに、勇人のリヤカーのカンテラの灯りが見えている。


 その魔法部の一人はぐれたライトが段々と近づいて来ると、壁の上の方で影が動いた。

 桜木はカメラを覗いていた。影が三体、壁の突起の影から顔を出している。


「藤波! 動き出したぞ」

「んん? おいっ! 藤波?」


「ああ、叩くのか? こんなところまで再現するなよ」


 桜木は胸の紀章を叩いて、コミュニケーターを起動する。

「おい! 藤波! 動き出したぞ」


「ああ」

「誰もゴブリンに気付かなかったな。あの子も」


「ああ」


「用意しておけよ。来るぞ」


「分かった」

桜木は、銃剣を装備して、クロスボウの弓を引いて、矢をセットした。


 俺は、聞き耳を立てた。


シャーッ!


ゴブリンも雄叫びと岩を擦れる音が聞こえてきた。


 俺は、導火線にカンテラの火を点けて、その矢をつがえて弓を引いた。

見えているランプの右側に落ちる様に矢を射った。

見えているランプは、遅れ出した魔法部の女生徒のはずだった。


 矢は天井に当たり、床に弾かれて、魔法部の新入部員の横に滑って行った。


パパパパパッパパパパッ!


「キャアァアー!」


 爆竹が真横で爆発し、驚いた彼女は悲鳴をあげ、しゃがんで頭を庇って伏せてしまった。

 しかし、驚いたのは彼女だけではなかった。壁を駆け下りていたゴブリンも驚いた。

自分達と標的の間の地面が爆発し出したのだ。


 慌ててゴブリンたちは立ち止まった。六匹のうち、先頭の二匹は転んでいる。


 桜木は高輝度ライトを点灯させて、赤色レーザーサイトで狙いを付ける。


パシュッ!


ゴブリンの一匹に命中させた。


 剣道部の三人が気付いて振り返り、走って来た。


 桜木は、再度弓を引いている。


 ドカドカと足音を響かせて自分達に迫って来る剣道部の三人の姿を見て、ゴブリンたちは逃げ出した。


 俺は、桜木のクロスボウのライトや、剣道部のヘッドランプに照らされて逆光になり、ゴブリンが見えないでいた。


シュッ!


 桜木のクロスボウの二発目が発射されて、こちらに逃走中のゴブリンが一匹倒れた。


「おい! こっちには人がいるぞ!」


「見えてるよ」


(見えているから撃って良いと言うものじゃない)


 俺は、逆光で見えないので、仕方が無しに突っ立っていたら、ゴブリンが四匹、脇を走り抜けて行った。


 剣道部の一名が彼女を介抱しており、二名がゴブリンたちを追いかけて行った。


「深追いするなよ」

俺は、声だけかけて、リヤカーを引いて歩き出した。


桜木は、すぐさまクロスボウをカメラに持ち替えて撮影している。


「勇人!」

「藤波!」

「藤波君!」

「ふじなみ!」

「フジィナァミィー!」


 口々に俺を非難するので、俺は、体の横で手のひらを上に向けるポーズをして返しておいた。


 俺は、疲れと驚きと恐怖心で伏せたまま動けない彼女の側に行き、

「疲れてるなら荷物を載せろ。歩けないなら、お前も乗ったらいい」

と声を掛けた。


 結局、倉田の指示で、もう一人乗る事になった。その子も相当疲れて来て居たそうだ。

俺は、後ろの監視を頼み、毛布を着るように勧めた。この気温で歩かないでいると体が冷えるのだ。


 蘇我さんがラグビー部達と話している。


「誰もゴブリン達に気付かなかったんでしょう」

「あいつが居ないと、あの子は死んでたのよ」


「しかし、ああ言う行動はなぁ。謹んで貰わないとな。」

「自分勝手に行動されると、パーティーの邪魔者になってしまう」


「あたし達全員、あいつに試されたのよ。この迷宮で生き残れるパーティーかどうかを」

「オカ研の桜木君にだけ連絡をして、最低限死なない様にしてね」

「あいつにとって、あたし達が邪魔者なのよ。いい経験になるわ。ほんと」


「じゃあ、俺達」


「失格よ。一人仲間を失ってたわ」



 パーティーは迷宮を進んで行く。

荷台の子達は疲れて寝ている様だ。

俺は、この振動でよく寝られるものだと思いながらリヤカーを引いている。


 トリコーダーがゴブリン二体の反応を示した。

前方の本隊でも、ゴブリンを見つけたらしい。何やら騒がしい。


 秋山さんと蘇我さんが、何やら囁き合って居た。

「そうね。ゴブリンだと思うよ。小さいし、レベルも低いし」


「連絡をしなきゃ」


 行軍中、先ほどの反省も込めて、索敵魔法を二人で交互にかけて居たのだ。


「ねえ、龍山部長、この先100mぐらいにゴブリンが二体居るわよ」


「何?」


 サッカー部の龍山部長は、すぐさま部員の山本を斥候に出させた。

山本は、大体の位置を聞いて居たので、体を低くして走り出した。


 俺のトリコーダーに、人の反応が一つ動き出した。

瀬戸山さんと桜木は、コミュニケーターを持って居るので判別が出来るが、持って居ないものは、ヒューマンとしか解らない。

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