地下迷宮 大道 その115
各々、頭にヘッドランプを点けて、整列している。倉田副部長とワンダーフォーゲル部の鬼怒神部長がサッカー部と並ぶ。
入口の鉄の扉を閉められると、迷宮内は真っ暗になった。
俺は、ウエストポーチからリヤカーを取り出した。このリヤカーは、機械科の生徒に頼んで、リヤカーを引くハンドルを高くしてもらって有る。俺の身長に合わせて有るのだ。
また、自転車のチューブとロープで曳く綱を作って有る。街ゆくおじさんたちを参考に作ったら、意外と楽だったのだ。
荷台に右側前後に、カンテラを取り付ける棒を付けて有る。先はアルファベットの筆記体のYの字の様に物がかけられる様に曲げて有る。
そこに、カンテラをぶら下げるのだ。
大体、ロウソクと言うものは、さほど明るいと言うものではない。というか、現在の感覚で言うと暗い。
現在の感覚で言うと、小さいLEDの懐中電灯の方が明るいのだ。ロウソクの灯で歩けるのは、せいぜい2m~3m程先までだ。
俺は荷物をリヤカーの荷台に乗せた。オカ研のメンバーにも、緊急を要しない物は載せろと言って、翌日以降用の予備バッテリーなどやキャンプ道具などを載せさせた。
迷宮の床は舗装されている訳では無いが、自然の洞窟という訳では無い。凸凹は有るが、一応平らだ。自転車ならBMXならかろうじて走れるぐらいだ。その為、リヤカーはガタゴトと振動が激しい。荷物が飛び跳ねる事もあるぐらいだ。
カンテラに火を入れて、リヤカーにぶら下げる。100円ショップの蝋燭に火をつけて入れるだけだ。これで、三時間から四時間は火が点いている。
カンテラは、ブリキと板硝子で出来た折りたたみの安物だ。四方を板硝子を嵌めてある。
ロックを外し、底板と天井を畳むと、薄く畳めるのだ。
それとは別に引き手にぶら下げる分は、一面だけメッキされたアルミの板を嵌めてある。反射板にして、少しでも明るくする為だ。
出発する段になって、サッカー部の山本がやって来た。
「お前、良いの持ってるじゃん」
「俺の荷物も載せてくれよ」
「断る。自分の荷物は自分で運べ」
「固いこと言うなよ。これだと、いくらでも乗るだろう」
「そんな義理もない。断る」
「じゃあ、頼んだぞ」
山本が自分の荷物をリヤカーの荷台に載せて、戻って行った。
俺は、騒ぎが大きくなると栃原部長代理が困るから、ここは穏便に済ます様に、はんなりとお断りする。
ガタゴトと音をさせながら整列しているパーティーの横を抜けて行く。
先頭辺りまで来ると、瀬戸山さんに蘇我さんが寄って来た。
俺は、山本の荷物をサッカー部の龍山部長の前に放り投げた。
飯盒などが入っているのか、結構派手な音がして注目を集めてしまった。
「先輩、お前の後輩が俺に荷物を運べと行って置いて行った荷物だ」
「部下……、後輩が運べないなら、お前が運んでやれ。俺はオカ研のポーターなので、サッカー部の荷物は知らん。もし、運んで欲しいなら、オカ研の部長を通してくれ」
「騒ぎが大きくなると、栃原先輩、部長が困るので、内々に話しておくぞ」
「やーまもとっ!」
サッカー部の龍山部長が山本を振り返って呼んでいる。
「ぶはははっ」
ラグビー部の部長が我慢出来ずに笑い出した。
「勇人! どうして騒ぎを大きくするの?」
「藤波ぃ~! ばかぁ?」
「こっち来なさい」
俺は瀬戸山さんに呼ばれて、暗がりの中で怒られた。
蘇我さんは、「あいつはコミュ障で、クラスでも変わっている奴だから」とサッカー部の龍山部長にフォローしていた。
隊が出発すると、俺は一番後ろからついて行った。桜木は、相変わらず、前や後ろに回って撮影をしている。
大体、四時間ほどで目的地に着く予定である。
索敵と戦闘をしながら降りて行くと、平均速度が上がらないのだ。最悪、死者や怪我人が出る事もあるのだ。
歩行速度の平均が時速3km/hも出たら早い方だ。
俺は、定期的にトリコーダーで索敵しながら歩いている。
前方250mほど道なりに進んだ所に、ゴブリンの反応が二体ほどある。
一応、桜木に教えてやろうと思う。
コミュニケーターを叩いて起動させる。
「コンピュータ、チェリーツリー1に繋げ」
「こちらウィステリアウェーブ、チェリーツリー1どうぞ」
俺は桜木に呼びかけた。
桜木は、胸の紀章が鳴って驚いた。
確かに、コミュニケーターと言ってたから、連絡が取れて当然なんだろうけど。
しかし、
「こちらウィステリアウェーブ、チェリーツリー1どうぞ」って、「チェリーツリー1」は無いだろう。
「なんだ?」
「って、桜木で良いぞ。チェリーは止めろ! チェリーは!」
「なんだ。気に入っていたのに」
「用事はなんだ? まさか、魔法を使って俺の声を聞きたかっただけか?」
「いや、まあ、この先250m、いやお前から200mほど先にゴブリンが2体ほどいるぞ。注意しろ」
「襲って来るのか?」
「まさか、三十人もいるんだ。向こうが逃げて行くよ」
「じゃあ、なんで?」
「暗がりの中を後ろ向きに一人で歩いていると、さすがに襲われるだろう」
「川口浩探検隊なら、蛇に噛まれるのはカメラマンと照明さんと音声さんが到着した後だけどな」
「誰だよ、それ」
「とりあえず、わかったよ」
「通信終了」
俺は、桜木への連絡が済むと、黙々とリヤカーを引いた。
前の方で桜木が叫んでいた。
「部長! この先200mにゴブリンが二体いるから気をつけろ! 一人で行くな。って」
「おう! 分かった」
「えっ!」
「えっ!」
「えっ!」
「なんで?」
「分かるのか?」
「どうして?」
みんなが反応した。200mほど先と言えば暗闇の中の奥の奥、迷宮も曲がりくねっていて、明るくても見えない場所なのだ。
「桜木! 襲って来るのか?」
「いや、これだけ大人数なら大丈夫だそうです。暗がりを一人で後ろ向きに進むなと」
「そらそうだろう」
「お前、なんで分かるんだ?」
桜木にラグビー部の部長が聞いて来た。
「え、藤波が連絡して来たので」
「あいつはなんで分かるのだ?」
「あいつの事はしらねぇよ。なんか、いつも凄いだけだよ」
「なんじゃそりゃ?」
「本当よ。魔法学科の落ちこぼれよ。ただし、敵に回したら殺されるわよ」
蘇我さんが話を継いでくれた。
「彼は、受験と葉月の事しか興味が無いわよ。それ以外は、一番合理的に処理するの。相手の事なんて、これっぽっちも考慮しないわよ」
「ヒュー! 怖いな。友達に要らないなぁ」
「みんなそう言うわね」
「バルカン人なんだ。自分がカークだと思えば良い友情が築けるよ」
桜木は答えた。
「バルカン人?」
ラグビー部の部長が手をチョキにして動かしている。
(それはバルタン星人だ)
桜木は、訂正はしなかった。が、心の中で突っ込んでおいた。
二時間も歩くと、魔法部の部員は疲れてきていた。普段運動しない者にとって、重い荷物を担いで、夜中まで歩く事は至難の技なのだ。
自分のテントや食料、水や食器は十数キロになる。それに、防具を着て暗がりのトンネルの中を歩いているのだ。
気温は低く、湿度が高く、汗が冷えて来る。気温は低いと言ったが、洞窟の中なので冬の外気よりは暖かい。が、低いことには違いない。装備を間違えると、体を冷やしてしまうのだ。
案の定、魔法部の新入部員の女子が遅れ出した。魔法が使えない普通科の一年女子だ。
彼女はmagic girl に憧れて、最近入部して来たらしい。今まで、運動とは無縁の生活をしていて、この合宿に参加して来たらしい。
その後ろ、最後尾は俺で、その前は剣道部と四人で殿を務めていた。彼女はその前を歩いていたはずだが、彼女が遅れ出したのだ。
そして、ついに剣道部と順番が入れ替わってしまったのだ。
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