大迷宮侵入 その114
俺は桜木に、クロスボウを渡す。
「ひひひ、中二病のクロスボウになったぜ」
「ただし、カメラとは両方使えないけどな」
異様な形のクロスボウを、ウエストポーチから出してテーブルの上に置いた。
銃床は太く、下方からグリップ、前方のストック迄ステンレスのカバーが走っている。
そして、前方左に高輝度LEDライト、カメラのマウント、右に赤色レーザーサイト、下方に銃剣のマウントが付いている。
前方には、ダリルよろしく矢を数本横に留めておける矢の留めを付けて有る。
後で聞いたのだが、カメラと照明は離れている方がいいそうだった。写り方が違うのだと聞いた。
「弓は弱くして置いたぞ。補助具なしで引けるはずだ」
そう言って、ライトとレーザーサイトと銃剣、矢筒、矢を続けて出した。
「どうして弱くするんだよ」
「50m飛んだところで、岩の壁の中だろ。そんなことより確実に連射する方が大切だろう」
「ああ、そうか」
「交換する前の重い弓は、また今度渡すよ。今は要らないだろう」
「ああ、ありがとう」
「サイト、今のうちに合わせておけよ」
「おお、サンキュウ」
桜木は、表にサイトを合わせに出て行った。
少し遅れて出て行くと、「百発百中だ!」と喜んでいた。
(そら、レーザーサイトを使っているのだ。止まっているマトに当てるだけなら、当たるよ)
「おい、後グローブと色々だ」
俺は、革製のグローブを渡す。手の甲の所に六芒星が描いてある。その六個の星の頂点には赤い石が埋まっている。
「ルビーか?」
「まさか、ジルコニアだ」
「弦を引く時に手が痛いだろ。必ず履いとけよ」
「後これな。ストロボじゃなくて、スピードライトって言うらしいな。10m先で一般のストロボの20倍の明るさだ」
「一般て、GNは幾らだ?」
「GNって?」
「うーん、知らないよな」
「知らないなぁ」
あと、大型の昔の懐中電灯の様な円筒形のアルミの棒状の物を出して渡した。商品名で言うとマグライトの大きい方だ。
円筒形で底の部分にスライド式のスイッチが付いている。これがメインスイッチだ。底の縁が5mm程高く出っ張っていて、スイッチに物が当たり難くして有る。
反対側、上部方の筒側面にプッシュスイッチとその上に左右にスライドさせるスイッチが有る。左からSPEEDLIGHT OFF LIGHT と書いて有る。
その横に、上下にスライドさせるスイッチが有り、SWORD OFF と書かれている。
これを右腰に付けるように皮のケースを付けて渡した。
「なかなか厨二だろう」
「何だこれ? ライトか?」
「そんなものさ」
桜木は素直に装着してくれた。
桜木にメインスイッチを入れさせて、先ずはライトにスライドスイッチを入れさせる。
次にプッシュスイッチを押すとON、もう一度押すとOFFになる。
明るさは、車のヘッドライトとスポットライトとフォグランプを同時に点けたぐらいよりまだ明るい。50mぐらいは照らしているだろう。
威力はサザンが魔力を使って製作しているので、コントロールが難しいのだ。
次に、スピードライトにして、プッシュスイッチを押すと、照らされた10m先の木が、残像に残るような光量の明かりが灯った。
「「どわっ!」」
これには二人して悲鳴を上げてしまった。
「ちゅぃーん」
そのライトのような物は、充電の音をさせて、やがてオレンジの明かりを点けて静かになった。
「ストロボかよ」
桜木が笑っている。
「次な、次、これは厨二だぜ! 誰も持っていないぞ。その、ソードのスイッチを入れてみてくれ」
桜木が、SWORDのスイッチをスライドさせる。すると、煙のように緑に光る刀身が生えて来た。
「いやぁ、苦労したぜ。魔法の物理障壁を刀の刃の形に作ったんだ。その中をスモークで満たして、緑色のライトで照らしてるのさ」
「切れるのか?」
桜木の声も震えている。
「刃の所は切れるぜ。本物の日本刀みたいに引かないと切れないがな」
「刀の刃は、顕微鏡で見るとガタガタなのだ。そんな所も再現したんだぜ」
「耳を近ずけて見ろよ。指向性の強いスピーカーで音も出して有るんだ」
桜木が、恐る恐る刃に耳を近づけると「ブーン」と言う音がしている。
桜木は、勇人が両手の親指を立てて振って喜んでいる姿を見た。
(あいつが厨二じゃん)
「何を喜んでいるんだよ」
「この魔法陣のプログラムは難しかったんだぞ。それが、こんなに楽しい事はないよ」
「ああ、刀身に重量が無いから、現実には切りにくいよ。魔法の物理障壁には質量が無いからね」
「後、これな。名前は『漆黒の紫電』って言うんだ」
俺は、ステンレス製の日本刀を桜木に渡した。
「普通じゃん」
「刀身が艶消しの黒色なんだ」
「構えても光を反射しないから、向こうから見えないんだよ」
「それで、艶消しの黒色なんだ」
「ああ。ところで、漆黒の意味が分かるか?」
「真っ黒じゃ無いのか?」
「まあ、真っ黒なんだけどね。漆の艶っとした黒色なんだ。光って艶っとした深い黒色さ。艶消しの黒じゃ無いんだ」
「じゃあ、ダメじゃん」
「いやいや、相手をこう切るだろう。すると血糊が刃に付くんだ。すると、艶っとした深い漆黒になるんだ。厨二だろう」
(おい! 藤波。頭は大丈夫か? 厨二じゃなくて犯罪者だよ)
「ああ、楽しそうだな」
「だろう。へへへ」
俺は、食堂に戻って暖を取った。
食堂には、各自が頼んでいた防具が届いていた。
ケブラー繊維で出来たベストだ。各自で袖付きだったり、襟が立っていたり、ローハイド(チャップス)状だったりと自由に好きなデザインの物を装着している。
その上に樹脂の鎧を装着して、雰囲気を出している。重武装になると、見た目がダースベイダーになるので笑ってしまう。
魔法部等は前衛では無いので、ベストだけだが、前衛のサッカー部やラグビー部は、全身鎧に身を包んでいる。
桜木は、ケブラーのベストと、ケブラーの別パーツで上腕と大腿を覆っている。樹脂パーツは付けていなかった。暗がりの中で、見難くする為と、軽量化のためだ。
俺は、黒の羊革のロングコートだけだ。防御力はサザンが居れば、この程度の迷宮は怖く無いからだ。動きを考えて、光を反射する部分を隠したかったのだ。
栃原部長代理から話があった。
「迷宮内での戦闘の指揮は倉田副部長とサッカー部の龍山部長が取ります」
「後、移動や生活面はワンダーフォーゲル部の鬼怒神部長が取ります」
「各自、指示には従うように」
どうやら、栃原部長代理は、戦闘指揮をとる事は諦めて、倉田副部長に移管したようだ。
俺は、瀬戸山さんと桜木に、コミュニケーターを渡して、常に身に付けて置くように言った。
荷物の再確認等をしていると、相模川高校より先に迷宮に入ることになった。この時点で、午後九時なので、ベースキャンプ予定地に到着するのは、午前二時から三時と言うことになる。
何隊かに分かれて、大型エレベーターで地下二階に移動する。ここに非常階段とかの自力で地上に出られる通路はない。有事の際、妖魔を地上に出さないためだ。
地下二階は、武具や防具の販売所や薬草や電池などの雑貨屋、食料店、魔核の買取センター、救護所が有る。
いわゆる、冒険者ギルドと宿屋とレストランなどもあり、パーティーメンバーを募集していたりしている。
俺達は学校単位で来ており、大型パーティーの為、特には関係ないが、ガイドやポーターなどもここで雇える。
大きな鉄の扉を開けてもらい、俺達は迷宮の中に進んだ。
迷宮の本道の幅は8mぐらいあるが、扉は中央部やや右寄りの幅3mぐらいが開く様になっている。
隊列は、サッカー部、ラグビー部、アーチェリー部、魔法部、ワンダーフォーゲル部、剣道部、俺だ。オカ研の三人はは撮影が目的なので、自由に動き回っていて、隊列には入っていない。
「整列して下さい。隊列を組んで。ここからは迷宮の内部です。緊張して、用心していないと危険です」
栃原部長代理が挨拶と気を引き締めるように言っている。