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浅間山地下大迷宮ビジターセンター その113


「御高説だなぁ。一年のくせに分かったような口を聞くな」

サッカー部の龍山タツヤマ部長だった。

 半分は生きて帰られないと言われて怒っているようだ。


「んん? どなたですか?」

俺は、知らなかったので、聞いてしまった。


「サッカー部の龍山部長だよ」

桜木が教えてくれる。


「俺達が半分死ぬだって?」

「何を根拠に、そんなこと言っちゃってくれてるんだい?」


「藤波君、失礼よ。謝りなさい」

栃原先輩も、俺に謝るように言ってきた。


「これは、失礼な発言をして申し訳ありませんでした。謝罪します」

俺はさっさと謝った。その方が早いし、手間がかからないからだ。


 龍山部長も、「まあまあ」とか周りの部長達に諌められて居た。


 席を立って、食器を返却に行く。

あとを追っかけて、食器を返しに来た桜木に声をかけられた。

「大丈夫か?」

桜木が、心配して聞いてくる。


「何?」


「いや、先輩に怒られて居たから」


「ああぁ、いくらそこに有る物でも、見えない人に説明するのは疲れるんだよ。手間と労力を考えると、こんな安い頭なら幾らでも下げるよ」


「声に出して言うな。殺されるぞ」


 時間が来たので、荷物を持ってバスに向かった。魔法部が、ハイデッカーの観光バスを用意してくれている。参加人数が多い為だ。ただし、経費節減の為、運転手しか居ない。美人のバスガイドさんとかツアーコンダクターのおじさんは同乗して居ない。

 俺は、バスの床下のカーゴスペースに自分の荷物とオカ研の荷物を入れる。

横を見ると、アーチェリー部の弓が小さい。1mx0.4m程度のトランクに詰めて有る。俺の弓は1mぐらいはゆうに有るのに。

滑車やスタビライザーが付いて、どうして小さくなるのだろう。


 俺は、荷物を入れ終わるとキャビンに移った。座席に上がると、蘇我さんと秋山さんが座っていた。

(あれ? 一緒に行くの?)

「あれ? 蘇我さん達も一緒に行くの?」


「こっちはサッカー部の付き添いよ」

秋山さんが答えている。その横で、蘇我さんがバツの悪そうな顔をしている。


 俺には関係無いので、自分の席に座る。桜木と同僚の女の子は、バスの発車シーンを撮りに降りて行った。

 バスが動き出すと、暫くして止まって、桜木達が乗り込んで来た。

 四時間ほどの移動なので、俺は座席で眠っていた。


 栃原先輩が、今回の合宿参加メンバーに礼を言っている。この合宿は、魔法部主催の各部共同合宿なのだそうだ。ただ、命懸けな上、各スポーツとは直接関係が無い為、参加者は有志と言う事になっている。


参加者は、

魔法部、六名 。

ワンダーフォーゲル部、四名。

剣道部、男性三名、女性一名。

ラグビー部、三名。

サッカー部、三名、マネージャー二名、応援二名。

陸上部、二名。

アーチェリー部3名。

オカ研、四名、応援一名。


計三十四名だ。


 バスは、静かに走っている。冬の午後の日差しは暖かく優しい。昔から、からっ風と言われた乾燥した北風が吹いており、綿雲がちらほらと風に流されている。

 後ろの方から誰かがやって来て、寝ている俺の横に立った。


「おい! お前、俺たちが生きて帰られないって言ってたな。お前の実力はどうなんだよ!」

サッカー部の部員だ。

 一年か二年か、俺は知らないけど、絡んで来た様だ。


「これは、飛んだ失礼をいたしました。先程の発言が貴方を不快にさせたのなら謝罪します。すみませんでした」


「山本! 戻って来い。何もするな」


「だけど、部長!」


「いいから問題を起こすな」


「そこ! 藤波君。おとなしく座って居なさい」

栃原先輩が前の席から振り返って、俺を叱って来る。


 山本と呼ばれて居た生徒は、渋々自分の席に戻っていった。

すると、前の席から瀬戸山さんがやって来た。


「今度は何をしたの? 大人しくしててよね」


「何もして居ないし、何も言っていないよ。特に、彼とは話したこともないし、彼の話題を出したこともない」


「じゃあ、どうして怒ってるのぉ?」


(いわれのない罪で俺に怒るのはやめてくれ)

「俺の言ったのは、部長達の事だよ」

「強くて、後輩思いで、責任感のある人達の事だ。明らかに、彼は該当しない。彼は、自己主張が強いのか? 自己顕示欲が激しいのかな? 自分の事だと勘違いした様だ」


「また、そんなことを言う。だから友達がいないのよ」


「何をー! お前!」

「座れ。騒ぎを起こすな」

サッカー部の席の辺りが騒がしいし、ラグビー部の部長が笑っている。


「そんなこと言ってると、誰も助けてくれないわよ」


「助けは必要無いよ。俺は、オカ研のポーターだよ。君の身が危険にならない限りは何もしないよ」


 瀬戸山さんが隣の席に座って来た。

 窓の外は、茜色に焼けた雲が浮いている。もう次期、日が落ちるだろう。

身長の差か? 俺の左腕に頭を寄せて、瀬戸山さんがもたれて来ている。

特に何も喋ることがないので、二人は黙っている。


 サッカー部の席の辺りが賑やかだが、二人には関係が無いので黙っていた。


 鬼押し出し公園の近くに浅間山地下大迷宮の入り口がある。

その近くのセンターと呼ばれる建物の駐車場にバスは着いた。

 正式名称は、浅間山地下大迷宮ビジターセンターだ。

鉄筋コンクリート製の地上三階地下二階建の建物だ。特徴的なのは、屋根の上にブリキの屋根がある事だ。間にセラミックと樹脂繊維の織り物を挟んだ多重構造で、火山弾の直撃も耐えられるのだそうだ。


 俺達は、ビジターセンターの二階の大食堂で食事をしている。

メニューはトンカツテキ定食とカレーしかないのだが、一応、食べ放題だ。

ただ、相模川高校などが参加していた為、山ほど積んであったトンテキとトンカツは瞬く間に無くなった。


 相模川高校、八王子南高校が同日参加高校だった。我が相模商業高校と合わせて、百名を超える高校生の胃袋は凄まじく、用意してあった食事はすぐに無くなってしまった。

 一般の参加者には迷惑だったろうと思われる。


 八王子南高校は早々に出発した。他所の高校や冒険者が荒らす前に、より多くの妖魔を狩るつもりなのだ。


 我が高校は、後四日間も入浴できなくなるからと、風呂に入ってから出発することになった。


 温泉では無いが、大浴場と言う物は入っていて気持ちがいい。毛細血管が広がり、手足が伸びていく感じがする。


 周りの生徒達も、「俺が一番倒す」とか、「お前が怪我をしても助けてやらない」とか、テンションが上がって喧しい。


 宿泊用の部屋はとっていないので、各学校毎に食堂に集まっている。出発は、午後八時、各校が出発した後に出発することになったらしい。



ブックマークをありがとうございます。

底辺なので、一人一人のブックマークが有りがたいです。

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