出発準備 その112
ネットで浅間山大迷宮を調べて、必要そうなものと、100均のロウソクを山ほど買う。5日の行程なので、懐中電灯とランタン、小田原提灯と花火を買っておく。ランタンはロウソクを使用するものにした。
登山洋品店でカムというものも数個買っておく。岩の割れ目などに嵌めて、足場やロープを掛ける金具だ。割れ目の隙間に差し込んで、引くと先が開くのだ。テンションをかけて引くと、先が開いて抜けなくなるのだ。
これは高いので、あまり買えなかった。
あと、ネットで大型の折り畳み式リアカーを買った。金属同士が当たって、意外と煩いので、当たる部分に100均のゴムのスペーサーを貼った。
煩いと、魔物の標的になるからだ。
その他、テントなど必要な道具を買わないといけないし、結構な出費になった。
あと、桜木用にクロスボウを買う。
市販品のクロスボウだが、機械科の生徒に頼んで銃床からグリップから先端までの下部をステンレスのガードを付けてもらった。オークやゴブリンの攻撃を避ける為だ。本体で受けると一発で壊れてしまうからだ。
後は、赤色レーザーサイトと高輝度ライトとスポーツカムと銃剣のマウントを付けてもらった。
銃剣は少し長い目の刃渡りが30cmにした。
(自分でも思うが、大分と厨二な武器じゃ無いか。これは、喜んでくれるだろう)
本来、銃剣と言うのは、世界的に終わっている武器である。未だに使っているのは自衛隊ぐらいであろう。
遠近が自由に攻撃できる様だが、近距離も撃てば済むのだ。銃剣を付けるぐらいなら、装弾数を増やした方が現実的で、必要性が全く無いのだ。
しかし、銃剣と言う物は見た目がアレである。厨二心をくすぐるのだ。
そうそう、日本刀風の大型ナイフも刀身を黒の艶消しにした。
厨二は黒色が好きなのだ。
鞘には紫色のボルトマークを付けてもらった。
これに、サザンに魔法をてんこ盛り付与して貰った。
それに、俺の魔法の道具がどこかにあった筈だ。伊豆に行った時に作った「冒険者の指輪」だ。
着火、加熱、水作成、風、ライト、物理防御、魔法防御、瞬間自動発動、回復、光弾の10種の魔法を指輪に入れて持って行ったのだが、全く使わなかったのだ。
ファンタジーで冒険者が使ったら便利だと思われる魔法を指輪に入れたのだ。今流行りの、「転生したら○○だった件」って奴なら、俺は魔法道具屋になって、生活に困らない自信がある。まあ、サザンが作ってくれているのだけど。「異世界行ったら、魔法の道具屋でゆっくりスローライフ!」みたいなところだな。でも、異世界に大学は有るのだろうか?
終業式も終わり、浅間山大迷宮に昼過ぎに出発する。まだ、それまで時間があるので、学食で昼食にする。
オカ研の部室で着替えて、荷物を置かせてもらい、オカ研の荷物を背負子に固定して運び出す。
荷物を学食のテーブル横に置き、桜木と昼食にする。オカ研からは四名が参加だ。俺を入れて五名になる。
桜木の他に二年生が一人、彼はオカ研の部長である。他に一年生男女が桜木以外にニ名いる。合わせて4名になる。
俺はカツ丼定食を食べている。普段は、なかなか食べられない人気メニューなのだ。今日は、一部の運動部員ぐらいしか残っていないので、まだ売れ残っていたのだ。
高校生にとって、揚げ物と炭水化物は人気だ。カツ丼定食はラーチャ定食(ラーメン&チャーハン定食)と並ぶ人気メニューなのだ。
今日も一部倶楽部活動を行なっている生徒がいるので、数は少ないが用意されているのだ。
栃原先輩と各部の部長が食堂に入って来て、ひとつ開けた隣のテーブルに着いて会議兼昼食を始めた。周りを見ると、結構な数の部員たちが集まって食事をしている。
桜木が慌ててカメラを回して、全員の食事風景を撮影して行く。残りの部員も慌ててカメラを持って席を立つ。
一人置いていかれた俺は、コーヒーの自販機に向かう。
学食の自販機は紙コップ式の自販機だ。最初に紙コップが出て来て、それにコーヒーが注がれる。
それを持って、テーブルの席に戻って行く。
席に戻る途中、桜木が撮影しながら聞いて来た。(撮影してるのに、喋って良いのか?)
「これだけ戦力が有れば、迷宮の魔物は殲滅できるんじゃ無いか?」
「ああ、深追いしなければ、半分は生きて帰られるさ」
「最強の魔物はLv30だそうだ。束になってかかっても無理だな」
「そっかぁ……。」
「特に、栃原先輩とサッカー部やラグビー部の部長辺りは死ぬだろうな」
「なぜだ?」
部長達が振り向いた。非難の目がこちらに向けられているのだ。死ぬと言われたら、そういう顔になるだろう。
「見たらわかるよ。鍛えられていて強そうだ。装備も盾を装備するんだろ。
それで、人望もあって責任感も有る」
俺達は、部長達が座っているテーブルの横を抜けて行く。
「良い事じゃ無いか」
「普段ならね」
「襲われて、撤退しなきゃいけない時もその責任感が出てくる」
「『ここは俺が守る。お前達は逃げろ!』って、『俺が後輩を庇って』って、やってしまうのさ」
「走って逃げたら間に合うのにさ」
「そんな事したら、足の遅い者が犠牲になるじゃ無いか」
「そうだよ。子供や老人が襲われるのがインパラの群れさ」
「それで、健康な大人が助かるんだよ」
「健康な大人が殺されたら、子供は死ぬだけだからな」
「じゃあ、弱い奴は見殺しにしろって言うのか?」
「桜木! お前、暴漢に襲われた時、腕で防ぐのか? 頭や目で防ぐのかどっちだ」
「腕だろ。決まってるじゃ無いか!」
「だろ。頭出すバカはいないんだ。するとしたらパンドンかキングギドラぐらいなものさ」
「ああ、ああぁ……。しねぇだろ」
俺達は自分の席についた。淹れたコーヒーをカツ丼定食のトレイの上に置いて、話を続けた。
「パーティにとって大切な頭が無くなったら、体はどうすれば良い?」
「次のリーダーを決めるか? バラバラに各自勝手に逃げるだろう」
「最悪全滅さ」
「いや、しかし、じゃあ、どうすれば良いのだ?」
「決して、自分達より強い奴と戦わない事だ」
「相手だって、生きているんだよ。殺されるとなると必死に抵抗してくるさ」
「いや、それじゃあ、練習にならないだろう」
「お前、生き物はタンパク質と水の化合物に電気が流れている物だけだと思っているだろう。菌やウィルスは、まだタンパク質で出来ているから想像しやすいが、我々の定義に収まらないと言うか、我々が認識出来ない生物だって居るのさ」
「何言ってるんだ?」
「全長40光年とか、水素分子より小さい生き物は、その存在を我々人類は、生物として理解出来ないだろう」
「何じゃそりゃ?」
「いや、いい」
「この前、地球に流れて居るマナの川を見ただろう」
「ああ、不思議な光景だったな」
「あのマナエネルギーが地上で物質化して、意思を持って動き出した物が妖魔だ。だから、殺すと黒い霧になってマナに戻る」
「ええ、そうなのか? 妖魔って、あの川のエネルギーなのか?」
「そうだよ。ただし、意思を持って動いている。我々には理解出来ない物質で出来ている。だから、生き物じゃ無いと言えるか?」
「生き物なのだなぁ。じゃあ、なぜ殺すのだ?」
「彼らは体の維持に、こちらの生き物を必要としているんだ。だから、我々を襲うんだよ」
「昔から、鬼や異形の生物の話しを聞いているだろう」
「トラやライオンと同じさ。弱肉強食の野生生物なのさ」
「それを、趣味や遊びのレベル上げと言って殺しに行くんだ。今からな」
「悪い事なのか? 考えた事も無かったが」
「良い。悪い。は人間が決める事だよ。その社会や文化で変化する。我々だって、牛や豚を食うだろう。米だって、同じ宇宙船地球号の乗組員だよ」
「殺されて食われたい豚は居ないよ」
「だから、向こうも、真剣に俺達を殺しにくる。お前も真剣に用心しとけ」
「おお」
「もし、お前のリーダーが生ぬるい事を言い出したら切り捨てろ! そいつの言う事に従うな」
「因みに、答えだけどな。『強い者が前、弱い者が後ろで、各々が自力で安全圏に逃げ帰られる所より前に進まない』だ」
「そんなの当たり前じゃ無いか」
「桶って有るだろう。樽でもいい」
「ああ、何だ?」
「桶は細長い板を、こう、ぐるっと円に並べて、箍で閉めて有るだろう」
「細長い板を側板と言うのだが、それが一枚だけ短いとどうなる?」
「そこから水が漏れるな」
「そうだ、それ以上水を容れられ無いだろう」
「パーティも同じだ。周りが幾ら強くても、一人が弱いとそこからやられる」
「弱い彼に合わせた作戦を組まないといけない。これが俺の答えだ」
「ラグビーのように、『一人は皆の為に、皆は一人の為に』じゃダメなんだ。一番弱い奴が自力で逃げ帰えられるところまでしか進んじゃいけない」
周りの者が、俺達の会話に聞き耳を立てて居た。
高評価ありがとうございます。
たぶん。