浅間山編 俺、冬期講習の予約しているんだけど その111
俺は、魔法のマナからのエネルギー変換作用について調べていた。
魔法と言う物は、体内に溜まっているマナをインテークマニチャンバーで各種力場に変換するトランスマジクパワーホールに運んで来て、各種力場に変換するらしい。魔法陣は関係なく、使わなくても魔法力場に変換できる者が居る事から、あえて必要としなくても良い見たいだ。
魔物などは使わないし、達人も使わない。
そうすると、通常は腕の長さか前腕にトランスマジックパワーチャンバーがあり、固有の周波数の秘密が有りそうな事が解った。
ちなみに、インテークマニホールドとトランスマジックパワーホールは俺の造語である。
そんなものは、どの本にも載っておらず、魔法自体にマナからのエネルギー変換の概念が無い事が分かる。
そして、サザンに実験用の機器を作って貰うのだが、魔法自体にその様な概念が無い為、その様な物は作れないのだ。
「サザン、お前はどこでマナを魔法に変換して居るのだ?」
「勇人、どこでも有りません、体の中から自然と出てくるのです。だから、言っている意味が解りません」
(そりゃそうだよ。人間でも意識しないのに、スライムが考えるはずがないわな)
スライムのサザンが理解出来る方法で伝えないといけないのだ。
そこで、そこで俺はマナを魔法に変換する所を、トランスマジックパワーチャンバーと名付けて、そのチャンバーをそっくり同じに作ったソーサラーのゴーレムA、B二体と別に作ったCの三体を作って貰う。
Aのゴーレムには、魔法障壁を張り、BとCに魔法で攻撃させる。
すると、Bの攻撃は通ったが、Cの攻撃は防いだのだ。
つまり、大腸菌のように細胞分裂した同位体同士では、魔法は防げないが、同種の別個体では防ぐのだ。
これで、魔法に周波数の様な、固有の特性の様な物が有ることが証明された。
(これも便宜上周波数と呼ぶ。実際には何か分からないが、どの書物にも記載が無いのだ)
現実には、魔法の力場が振幅して居るかどうかも怪しいのだが、確認のしようがないのだ。
サザンにトリコーダーに可変周波数魔法の鑑定魔法の道具を作ってもらう。
細長い棒のような道具で、魔法が発生する場所のサイズが変わる様に作って有るのだ。
それを持って、学校でクラスメイトの周波数を測った。
魔法障壁を張ってもらい、鑑定魔法が通るか調べるのだ。鑑定魔法なので、皆特別に警戒する事もなく協力してくれた。
魔法障壁を張ったクラスメイトに鑑定魔法を周波数を変えて、魔法が通るまで掛け続けるのだ。ただ、時間が一回当たり3分から5分程かかるのだ。これはこれで嫌がられた。誤差は、小数点第3位だったので、第4位まで調べると問題無く周波数が判った。
そして、欲しい情報は、この鑑定魔法が通った時の周波数だった。
魔法陣を床に書いて、振り付けと詠唱が必要な生徒は、両手を広げたサイズだった。そして、レベルが上がって行くと、肩から指先までの長さになり、さらに上がると肘から手の平までになった。
蘇我さんがこの長さだった。これ以上上位のレベルの魔法使いが居ないので、検証のしようが無いのだが、魔法レベルが上がると短くなる様だ。
12月に入り、直ぐに期末テストが始まった。俺にはテストの意味は無い。読んだ物は全て覚えて居るからだ。
結果は、多分クラストップだろうし、進学特進クラスでも上位の方だろう。
周りの者の話では、俺には、読書の記憶と理解の特技があるのだそうだ。事実、一度読んだ事柄や内容は忘れないのだ。それは、書物だけに言えることで、映画や朗読では、この特技は発揮されないのだ。
ただ、それでも魔法科の実技はどうする事も出来ずに0点で追試を受ける事になった。
実技テストの追試がグランド10周と言うのが理解出来ないのだが、我が校の伝統で、どんな科目もグランド10周で最低限の点数にまで加算してくれるらしい。
そして、俺は英語と数学の赤点組と一緒にグランドを走ることになった。
桜木の中二病の刀がアメリカから届いたと連絡が入った。アメリカのナイフメーカーの日本刀風の大型ナイフだ。もちろん、刃渡りの長さから輸入も所持も禁止されている。
確か、18センチ以上の刃物は刀になるので、登録が必要なのだ。もちろんナイフは美術品じゃないので、登録は出来ない。よって、所持は違法になるのだ。
この刀風ナイフを材料に、桜木の刀を作るのだ。徹底的に厨二仕様にしてやる。
蘇我さんが、この頃は下校時間が遅くなっている。図書室で自習していて、下校が遅くなると出逢うのだ。秋山さんと、二人で誰かを待っている様子だった。
なんとなく、サッカー部の誰かを待っている様子だったが、俺には全く関係がないので、深くは知らないのだが。
テスト終了後、瀬戸山さんの母親に呼び出された。魔法部の合宿の事についてだそうだ。
「誰かしっかりした人が同行して欲しいのよ」
「私、魔法部員じゃ有りませんし、予備校の冬期講習が有りますので行きません」
「え? どうして?」
瀬戸山さんのお母さんは、何か不思議な様子だった。
「……。」
瀬戸山さんは黙って俯いている。彼女には、俺の答えがわかっている様子だった。
「いえ、だから、予備校の冬期講習が有りますので」
(おいおい、話が回っているぞ)
「どうして? 好きな女の子と泊まりがけで遊びに行けるのよ」
「いえ、ですから、予備校の冬期講習が有りますので、もうお金も払っていますから」
「ちょっと、しっかりした子がいて欲しいのよね。危ないでしょ」
「いたほうが危ないでしょ。そんな関係になったらどうするのですか?」
「もちろん、学校も辞めて、働いて、責任取ってもらうわよ。ちゃんと葉月を幸せにしてね。覚悟はいい?」
「迷宮に出る妖魔って、LV30ぐらいって言ってませんでしたか?」
「特に問題はないでしょう」
俺は、危ないと感じて話をそらせた。
「良いわ。じゃあ、貴方が付いて行かないなら、お付き合いは認めません」
「ええ? そんな無茶な!」
「お母さん、勇人は魔法部じゃ無いから」
「強い子が一緒に行かないなら、お母さんは認めません。貴女も合宿には行かせません」
(それとお付き合いは別だと思うのだけど)
「部長さんや副部長さんって、貴方よりレベルが低いんでしょ。そんな危険なところには行かせられません」
「じゃあ、それはそちらの事情なので、私はこれで失礼させていただきますね」
俺は、席を立って帰ろうとする。
「勇人、待って!」
瀬戸山さんが、後ろから俺の服の裾を掴んで来た。
「……。」
瀬戸山さんが何も言わずに、俺の服の裾を持っている。雰囲気のある、例えば、夜行列車の発車前、上野駅のホームでとかなら絵になるが、瀬戸山さん家のダイニングキッチンのテーブル前である。
何も言わずに、立ち上がった俺の服の裾だけを持っている。引っ張ったり、払ったら振り解ける程度の力でである。
1分ぐらいか、一時間ぐらいか、相当長く立っていた様な気がする。その間、誰も喋らないでいた為、瀬戸山さんの鼻をすする音だけが聞こえていた。
「分かった」
俺は振り向いて、瀬戸山さんを抱き寄せる。
「桜木に、荷物運びの人足を募集していないか聞いて見るよ」
「うん」
お母さんが、温かいお茶を入れ直してくれた。
「有難う。でも間違えても一線は越えないでね」
「もう、越えないわよ!」
「はい……。」
今回から新章です。
浅間山編です。
長いです。
今回、冒頭にグダグダと設定を書いちゃってるなぁ~。