妖精の国 その11
一面に花が咲いて居る草原に出た。まさに花畑としか表現出来ない光景が広がっている。
が、遠くに黒く枯れている大地が見える。花が咲いている大地の上は青空だが、花が枯れている大地の上は黒い雲が漂っている。
近づくと、大地にゴブリン達が暴れているのが見える。
その周りで、昆虫ぽい妖精達が手から光や稲光を出して応戦している。
体格というか、体長が1mのゴブリンと30cmの妖精では戦闘にならないのだ。
妖精達は魔法で応戦はするが、圧倒的な戦力差があり、ゴブリン達に捕まった妖精達は喰われたり、いたずらに引き裂かれたりしている。
俺には関係ない。関係ない。関係ない。受験があるし、魔法が使えないと留年の可能性もある。
こんな所で、勇者をやってる余裕などないのである。
ないのである。
ゴブリンに足を持たれて食われて行く妖精と目が合った。
「た・す・け・て……」口がそう動いた気がした。
俺の中で、何かが切れた気がする。
学校とか受験とかより優先する事が有るんじゃないのか? 人として、するべき事が有るんじゃないのか?
俺は走り出していた。
走り出している勇人には悪いが、妖精の言語は日本語じゃないので、「たすけて」の意味のことを言っても、母音が「あ・う・え・え」になるとも限らない。
それに肺呼吸とも限らない。腹に、穴がいっぱい空いている可能性だって有るのだ。
会話だって、足や羽を擦り合わせた音による会話をしている可能性だって有る。
それが証拠に、フローラが「テヘッ!」と、勇人の方に手を伸ばして、舌を出している。まあ、あれが舌だとしての話だが。口吻の可能性だって有るのだから。これは本人にしか分からないが。
フローラは、勇人の後ろから、何か人が興奮する魔法を使った様だった。
俺は指輪を使い、ステータスを上げる。
「サザン! 憑依!」
指輪からスライムが出てきて俺を包む。
「ユウト、こちらの世界の食べ物を食べたり、水を飲んだら帰られなくなるぞ」
「それに、『くれる』と言う物以外は持って帰っても行けない。例え石ころ一つでもだ」
「何それ、今言う? それってマヨイガと言うやつか? ちょっと違うけど。幸福にはならないのか?」
って、サザン、喋られるのかよ。
音声による会話ではなく、いわゆる頭に直接声が聞こえて来る。という奴だ。憑依されている間は、意思の疎通ができる様だ。
俺は、弱いものいじめにムカついたので、ステンレス製の鉄刀を抜いて駆けていた。と言っても、彼らには、食うか食われるか? 弱肉強食の現場なのだろうけど。
戦っている妖精達の横をすり抜け、胸か腰ぐらいの身長のゴブリン達を叩きのめす。
こちらの世界では、死んだゴブリンは黒い塵になって消えていかない。
彼らは、こちら側の生き物なのだろう。
スライムのサザンがまだ生きているゴブリンが居たら、どんどん捕まえて吸収している。
また、死んだゴブリンからは、細い触手の様に体を変化させて、胸の辺りから、赤い米粒の様なものを抜き取っている。魔核と言う妖魔の命であり、妖魔の餌らしい。
妖魔はこれを食って大きくなるのだ。
ゴブリンの正面の頭蓋骨を叩くと硬いので、耳の上の側頭部を叩く。
ボクっと音がして、鉄刀が眼のあたりまで食い込む。脳漿が飛び散り、回転しながらゴブリンが吹っ飛んでいく!
180cmある身長なので、ゴブリン程度の身長なら、下手から掬い上げるように叩きのめす。
ゴブリンの腹から右肩が吹き飛ぶ。大抵は吹っ飛んで絶命するが、まだ生き残っている奴もいる。が、しかし、多少生きて居ても、サザンに吸収された時点で生命力も吸われてしまう。
あれから連日連夜戦っている。花の妖精、或いは虫の妖精の国に夜は来ない。夜は魔物の国なのだ。だから、夜の時間は白夜になる。
6月17日、18日とホブゴブリンとオークとに遭遇した。
来る日も来る日もゴブリンと戦った。食べ物も食べず、飲み物も飲まず。ただ、ひたすらに殴り続けた。
左手の腕時計が6月と言ってるのでそうなのだろう。もう一月も続いているのかと思うが、次から次にと湧いて来て休む間がない。
ホブゴブリンは棍棒を持って殴りかかって来た。
背は俺の腰ぐらいまで有り、ゴブリンに比べ少し大型だ。先の太い棍棒を振り回し、俺を殴りに来る。精霊達には、明らかにオーバーキルなので、俺対策だろう。
こんな奴に殴られると、流石に動けなくなり命に関わるので、妖精のフローラを後ろに下げて避けながら戦った。受けるとか止めるとかの選択肢は無い。当たらない様に、ひたすら避け続けた。病院も救急車も無い世界では、怪我や骨折でも命とりだからだ。
オークの方は、身長は170センチから180センチ、体重が150キロから200キロあり、まるでアメフトの選手かラガーマンと戦っているよう だった。
片手に刀を持ち、体重をかけて振り下ろして来る。彼らの刀は、峰はまっすぐで、先に行くほど幅が広くなっていく。刃がまっすぐでまるでグラインダーで削ったよう な荒い仕上がりだ。イメージとしては、鉈を大きく1メートル位にしたような感じだ。
確かに、オークは豚のような顔をしているが、シーズーのような鼻の奴もいた。
このオークと言われている妖魔の刀にかかると、腕や首は簡単に飛んでしまうだろう。そのため、こいつも、俺は受けるとか流すとかはせず避けた。徹底的に避けた。
ゴブリンとは違い、危険度は数倍高い。
ブン! と目の前を音を立てて刀が空を切る。ギリギリ体を後ろに反らして避けたのだ。鉄の錆びた匂いと、獣臭が鼻についている。
数歩下がり、足場を安定させて、鉄刀を構え直す。
俺の鉄刀は刃が無いので、頭か顔を殴るしか無いのだ。
ガン! 嫌な音をさせて、オークの頭を殴る。
パタパタと空を飛んで前に出て来るフローラを左手で掴んで、後ろに投げ捨てる。
フローラの体が柔らかい、猫か子犬の腹の様だ。
ブンッ! と今フローラがいた所をオークの刀が通り過ぎる。一撃で倒さないと、すぐに反撃が帰って来る。
「キャーッ! 胸触った。」
とか何とか言ってるが、こっちは相手している余裕はない。第一、虫の胸など触っても嬉しく無いわ!
右手一本で鉄刀を持ったまま、左から右にオークを薙ぎ払う。
ベシッ! と音がして、オークの頭部が変形する。
8月、「ステータスは私があげた方が強くなるぞ」とサザンが言い出した。今までの戦闘で、チマチマとレベルが上がっているらしい。
爺さんがくれた指輪より、サザンに憑依してもらい、サザンの能力を使った方がレベルが高いのだそうだ。
最近は、ハイオークやグール、オーガなども見かける。
こんな妖精しか居ないところで、グールが何食ってんだ? まさか花の蜜を吸って居ないよな。
オーガは身長が4メートルもある。
鉄刀を振り下ろす時、踏み切って飛び上がり叩き下ろす。
よっぽどのタイミングが合わないと叩き込めないので、チャンスが来るまで命からがら逃げ回る。
そして、一瞬のチャンスが来たら、頭から叩き潰す。
さすがに、このオーガには手を焼いた。体が大きいのに、鈍重という事がないのだ。
10月、俺より背が高い奴らが多くなって来た。
金属鎧を着たオーガロードまでいる。どこを殴れば死んでくれるのだろう。鎧を着ているので、付け入る隙がない。
ガンッ、ガンッ! 叩けど、叩けどヘルメットや鎧に当たって、虚しく響く金属音。しかし、他に方法も無くただ叩きまくる。
全然応えていない様な笑みがオーガロードにこぼれる。
4~5メートルは有る巨人が鎧を着てまともな剣を振り回している。
シュバッ! と空振りの音も空気を切り裂く音がする。
絶対絶命のピンチとはこの事か。もう、俺は勝てる様な気がしない。
パタパタとフローラが前に出て攻撃しようとする。手を前に出して、何やら魔法を使うつもりの様だ。
左手でワシッと掴んで後方に投げ捨てる。
「前に出て来るなー!」
何度も何度も何度も何度も、一体いつになったら学習するんだ。
妖精は本当に馬鹿なのか?
俺は一緒に戦っている妖精たちにも指示を与える。
「目を攻撃しろ! 目だ」
指示を出しながら、各器官に対する意識もない妖精達の事を考えている。
フローラは、オーガロードの胸に向かって、何やら光を撃つ。
彼らの脳は、人間とはきっと構造から違うんだろうな。今度、いっぺん解剖させてもらおうかな。
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