足手まとい その108
「ほら、もう足手纏い決定しただろ」
「因みに、栃原先輩の魔法レベルもしれている。クラブ運営のマネジメントやカリスマは有るが、魔力は大した事はない」
「そこにお前が怪我をしていたら、足手纏いなんだ。いくら弱いとは言え、魔法部には貴重な戦力の栃原先輩が抜けると、あとはろくな戦力がいない」
「そっか、いつもお前は俺のことをそう言う目で見てたんだ」
「んん? 俺の言った事が理解できなかったか?」
「俺の事を魔法も使えない、足手纏いだと言うんだろう」
「藤波君、その言い方は、彼に対して冒涜よ。彼はいつも良くやってるわよ」
栃原先輩がムキになって桜木を庇っている。
「はい?」
(この人達は何を興奮しているのだろう)
「勇人! 謝りなさい」
「ああぁ、理解できないならもう良いわ。不毛だ。はい、前言を撤回します。ごめんなさい」
「ちょっと、勇人!」
「んん? 無理なんだよ」
「自分の置かれた状況を、客観的に判断できない奴は向上のしようが無い」
「自分の劣る所、足りない所を理解し、対策を取るから向上できるんだ」
「挙句に、『私が庇う』って言い出してる。リーダーがこれじゃあ、全滅確定だ」
「何言ってるの? 怒るわよ」
「魔法部の中には、再生の魔法が使える人は居ないのだろう。葉月が身体接合を使える程度だ」
「夏の合宿を思い出してごらん。相模川高校の生徒達は、五人を合宿所まで運ぶのに何人使った?」
「人をおぶって走ったら、10分が限界だろう。一時間の距離なら三人から四人は必要かな」
「怪我をした桜木を迷宮から運び出すのに、それだけの人数が必要なんだ」
「桜木以外にも、魔法部には魔法が使えない奴らが居ただろう。そいつらがやられる度に三人居なくなるんだよ。前戦はすぐに戦力が減って全滅さ」
「みんな、魔物を倒すことしか考えて居ないけど、やられた時のことは考えて居ないんだよ」
「それで、『私が庇う』って、庇ったら、また戦力が抜けるんだよ」
「これが、魔法部の責任者の発言だよ。戦略も戦術もあったものじゃ無い」
「向こうに着いたら、指揮は誰か優秀な人に変わってもらった方がいい」
「藤波! 止めろ!」
「解った。お前の言う通りだ。俺が馬鹿だった」
「ただ、もう優希を悪く言うな!」
「優希って誰?」
「先輩よ」
「本当よね。こんな事じゃ、はじめも部員も守れないわ」
「どうすれば良いの?」
「それでも、俺は守りたい」
「どうすれば良いの?」
「先輩が聞いてるじゃ無い!」
「俺? 俺が答えるの? それって、俺が答えるの?」
「そうよ」
「だから、やめたら良いんだよ」
「そうか、指揮官の変更かな」
「部長を変われって言うの?」
「違うよ。戦闘指揮官を決めるんだよ。あと、フォーメーションも決めて練習しないとね」
「強くなりたいんだ」
桜木が話をぶった切って、話に入ってきた。
「何でもするか?」
「ああ」
「じゃあ、明日9時に校門前な。運動できる格好で来いよ」
「強くなれるのか?」
「今よりはな」
明日、桜木の特訓と言うことで、今夜は別れた。
瀬戸山さんを家まで送ると、また、帰りの電車がなかった。
また、歩いて帰る羽目になってしまった。少し肌寒い中、歩いて帰路に着いた。
翌朝、もう季節は冬だと言うのに、妙に暖かい朝だった。
俺は、いつものラッパにタンバリンに花火と水と食料を持って、学校に向かった。学校に着くと、桜木の他に瀬戸山さんと栃原先輩が来ていた。
(何? 魔法部の部活?)
「私たちも良いかしら?」
と桜木の強化合宿に、強制参加するつもりらしい。
(どうして来るんだよ。予定に入っていないんだけど)
俺達は剣道部に行き、半日指導してもらえないかと聞いてみる。栃原先輩がいるお陰で、二つ返事で了承して貰えた。magic girl の威力は絶大だった。
肩、肘、手首、借りた竹刀に白いビニールテープを巻き、壁の鏡の前に立ち、足の位置にもマークして行く。
そして、剣道部の部長に指導して貰い、自分から見た鏡の位置にカラービニールテープでマークして行く。
青、緑、黄、橙、赤、と順に手足と竹刀を合わせて行くと、綺麗な型がトレースできる仕組みだ。
自己練習していても、自分でミスや癖が見えるのだ。何も出来ない素人には有効な方法だ。
面と突きを重点的に指導と自己練習に励んで貰った。
瀬戸山さんには、普通に筋トレを行ってもらう。運動部の女子に比べ、明らかに体力が少ないのだ。これは、普段なら問題ないが、アウトドアで活動するときには問題だ。
俺は、別行動で、道場の隅で参考書を読んでいると、すぐにお昼になってしまった。
剣道部に礼を言って、後片付けをし、女性達と別れようとすると、ついて来るという。
「あなた達だけでどこに行くのよ?」
荷物を見ていたから、すでにバレているだろうが、自分達の装備はどうするのだ?
「私もトレーニングに参加させて貰っても良いかしら?」
(いや、もう来る気満々じゃん)
栃原先輩が聞いて来た。もちろん、返事は「yes」しか無いのだろう。準備とかしてないけどね。
横浜に出て、模擬刀を二本買った。桜木と栃原先輩の分、二振りだ。
小烏丸の模擬刀にした。突き重視のためだ。
支払いを済ますと、昨夜、サザンに作って貰った魔法紙で頑強の魔法を掛ける。これで、真鍮の刃にクロームメッキを施してあるだけだが、非常に丈夫な模擬刀になった。
食料とスポーツ飲料と甘い食べ物を買い込む。アルミパックされたゼリー状のカロリーの高いものなどだ。
電車とバスを乗り継いで樹海のバス停に着いた頃には、日が西に傾いていた。日が短いと言うこともあるが、横浜からは結構遠いのだ。八王子、大月と乗り換えなくてはならず、路線バスを降りた頃には暗くなっていた。
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