除霊 その104
「何もいないな」
俺は窓の方を確認するが、何も見えない。つまり、現実に存在する物質で出来ているいる者の仕業ではないようだ、
「何もいないな。外かな?」
桜木がベランダを開けようとする。
「大きなヒヒね」
瀬戸山さんは、窓の外の何かを見て言った。
「はじめ! 開けちゃダメ! そこに大きなヒヒが居るから」
栃原先輩が、ベランダの扉を開けようとする桜木を止める。
「え?」
ベランダのサッシに手をかけた桜木の動きが止まる。
「何かいるんだって、撮っとけよ。扉開けて」
「開けるとどうなるんだ?」
桜木が、なぜか俺に聞いてくる。
「勿論、入って来るよ」
「お前、専門だろ? 結界を自ら開けたら、そら、入って来るよ」
「そうだな」
「ガラス戸は結界なんですか?」
依頼者の庭窪さんが聞いて来た。
「閉じている物、囲ってある物は、なんでも結界になるのです。蚊帳でも、何でもいいんですよ。今はこの部屋が結界です」
栃原先輩が説明して居る。
「もう既に、結界の中に何か居るみたいですけどね」
俺は笑いながら説明する。全く見えていないので、状況からの判断と本からの受け売りであるが。
「やめなさいよ。悪い冗談だわ」
瀬戸山さんに怒られてしまった。
「ええ? 何か中にいるんですか?」
「中の二体は、祓いますよ」
「安心してください。大丈夫です」
不安そうな依頼者の二人に対して、笑顔で栃原先輩が答えている。
(じゃあ、表のヒヒはどうするんだよ)
栃原先輩と瀬戸山さんは祭壇を組んで行く。慣れた手つきだ。
「藤波、俺も見たいんだが、何か方法はないのか?」
「何を見たいんだ? 俺にも見えないんだけど」
「いや、霊がよ。居るんだろそこに二体も」
「動物園じゃないんだ。諦めろ」
「でもお前、夏には幽霊と話してたじゃないか?」
「あれは出来ないのか?」
「ああ、あれね。出来るけど、PTSD発症するかもな」
「だから、あれは幽霊が見えるだけじゃなく、色々な物の怪がみえるんだ。サン値チェック付きだぜ!」
「なんだサン値チェックって、クツルフかよ」
「で、サン値チェックに失敗すると?」
「もちろん、帰ってこれなくなるさ。病院からだけど」
「解った。やってくれ。」
「私も」
「私もやって」
依頼者の庭窪 明代と駿河 奈津希 が、自分たちも幽霊が見たいと言い出した。
「いや、サン値チェックが要るって言ってるじゃん。戻ってこれなくても知らないよ」
「ああ」
「うん」
「大丈夫です」
(何を根拠に大丈夫なんだよ)
「解った。使ってやるよ」
俺は、ポケットから、付箋を一枚取って、使った。
まずは、桜木からだ。
俺が振り付けを踊って居ると、魔法紙が光って消える。
「ドウワァア!」
「もう少し黙ってろ」
「キャーぁ!」
「うううう〜ああ」
合計3枚使ってしまった。もう、予備も無くなってしまった。
(俺の分が残ってないんだよね。何か有っても、どうにも出来ないよ、まったく見えないし)
「何してるの! あなた達!」
栃原先輩が顔を上げて注意して来た。
桜木達は、目の前にいる幽霊に恐怖した。
着物の女性が、首にロープをかけて立っている。荒縄で輪っかを作って首を通している。後頭部付近にロープが立っていて先が消えている。
顔は、目を剥いて腫れている。肌の色は鬱血して赤くなっている。舌が飛び出した状態で立っていたのだ。
さすがの桜木も、いきなりこの姿に驚いてしまった。つまり、サン値チェックに失敗したようだ。
もう一人の霊体は、赤い血塗れのワンピースに見えていたのは、胸に包丁が刺さったままだったのだ。そこから血が、まだ溢れ出して居たのだ。
心臓付近を滅多刺しにされて、口からも血を流している。
ファッションからして、バブリーな頃に死んだんだろう。そうでもないと余りにも時代遅れすぎる。
「はい、三人とも落ち着いてください。彼等は見えているだけです。怖がると付け込んで、悪さを働きますよ。生きている我々ほど力はありませんからね。放っておいたら何もしません。多分」
俺は、桜木と依頼者の三人に、適当な説明をする。
「じゃあ、三人で手を繋いで、ゆっくりと呼吸をして下さい」
俺は三人に、過呼吸を防止する為に、ゆっくりと呼吸をする練習をさせる。
「奈津希、いつもこんなのが見えてるの?」
「まさか、黒い霧みたいな物だけだよ」
「モノクロで、俺の場合はモノクロの緑色のパソコンの画面のように見えていたのだけど。近くの物は色付きで、遠くの物はモノクロで、霊力が強いものは明るく、悪意のある者は黒いオーラを出して見えているはずです。多分」
「ええ」
「おお」
「はい」
「では、しばし、霊界をお楽しみ下さい」
「それだけかよ!」
「俺には見えてないし、お前の方が専門家だろう」
「俺も初めてだよ」
「当たり前だ。そんな最強の妖魔の魔力を持っている奴などいるものか」
「え?」
「今、君達三人は、栃原先輩よりと言うか、人族の達人の何十倍も見えているからね」
「遠くを見て見ろ。丸い光の玉が動いているだろう。近付くと魚に見えたり虫に見えたりしていないか? あれは妖精や他の生き物の霊魂だ。一般の人に見えると狐火とか人魂とか呼ばれるんだ」
「足元深くに流れているのが、地球のマナエネルギーの流れだ。まるで川のようだろう。支流になって、地表に吹き出しているところがパワースポットだ。そこから大気に混ざるんだ。魔法使いはそのエネルギーを使って、魔法を発動する。と、まあこれぐらいかな? 俺の知ってることは」
「あのヒヒは?」
「俺には見えないからわからないね」
「見えないのかよ! あんなデカイのに」
「ふふふ、勇人には無理ね。魔術師協会の扉も見えていなかったのに」
瀬戸山さんが笑っている。
「何を悪戯してるのかと思えば、今度、私にも見せてね」
瀬戸山さんが、俺たち四人の悪戯を見て笑っている。
「お前、こんなすごい魔法使うのに、瀬戸山さんには弱いなぁ。感心するよ」
「好きなのよね?」
奈津希さんが突然口を開いた。
「え? いや、そうだけど、何でもないです」
「うそ! 二人が近付いたらピンクのオーラが互いに出てたわよ」
「オーラ見なくてもわかるけど、今度オネェさんに相談に来なさい」
「しかし、こんな事まで見えるんだ」
桜木が不思議がって周りを見ている。
(そんな高レベルの霊視なんて出来る人いませんから)
おれは、口に出さずに飲み込んだ。
「で、ヒヒは?」
「見えんから知らん。先輩か瀬戸山さんが何とかしてくれるだろう」
「何とかって?」
「まあ、先にあの二体だろう」
俺は部屋の隅を指差す。
「藤波、もうちょっと左な」
桜木が、細かい突っ込みを入れてくる。
「へ? そっちじゃないのか?」
「ププはっ」
「へへへフェ、本当、見えてないのね」
「勇人は、本当に見えていないわよ」
祭壇作りの作業をしながら、また瀬戸山さんが答えた。
俺は、こそっと上げた手を左にずらす。
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