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桜木のアルバイト その103

 翌朝、勇人が学校に行くと、瀬戸山さんが遅れて登校して来た。

勇人が席に座っていると、遅れて、瀬戸山さんが教室に入って来た。瀬戸山さんが勇人より登校が遅いのは珍しい事だ。

見ると、顔が見るも無残に浮腫んでいた。

 瀬戸山さんは、誰にも顔を見られない様に、席に着くと直ぐに机に突っ伏していた。


 俺は、瀬戸山さんの前の席に後ろ向きに座って、机にメモを置き、訪ねた。


「どうしたの? 寝てないの?」


「怒ってない?」


「何を? 寝たふりした事?」


「うちの家族が……。」


「怒ってるか、怒っていないか、解らないの? じゃあ、自分の胸に手を当てさせてよく考えてごらん」

俺は、手を前に突き出し、ルパン三世が不二子ちゃんにするポーズを取った。指をいやらしく動かすことも忘れない。


「んん?」


パシッ!


「しないわよ! そんな事!」

瀬戸山さんの平手打ちが飛んで来て、見事に俺の左頬に命中した。


 俺は笑いながら、トントンと右手人差し指でメモを叩いて示した。


「藤波が何かしたぞ!」

「瀬戸山さん、大丈夫?」

「あいつに何か言われたの?」

「藤波! あっち行きなさいよ」

「おい、瀬戸山に近ずくな!」


(俺が悪者かよ?)


 俺は、一瞬にして、クラス全員を敵に回した様だ。抗議することもなく、力無く、フラフラと自分の席に戻った。


「葉月、大丈夫?」


「うん、なんでも無いの」


(そら、「なんでもない」だろうよ。叩いた側だもの)


 目的は果たせたので、良しとしよう。


 メモには、


浮腫は水分だから、顔の血行を良くして、静脈を広げるといいよ。

顔を温めて、マッサージして、発汗させて、尿を出すと治るよ。


と、記してあった。


 瀬戸山さんは、サッとメモを回収しポケットにしまった。


「大丈夫? あいつ、気分悪いわよね」


「うううん、大丈夫、ありがとう」



 席に座っていると、隣の蘇我さんが、

「何、朝からいちゃついてるのよ」

と睨んで来た。

(女子こえぇ〜)


「別に」


「どこに行くの?」


「えぇ? 何が?」


「四人で遊びに行くんでしょ」


「ああ、桜木のアルバイトに行く事になって」


「桜木君じゃ、役に立たないでしょう」


「先輩と瀬戸山さんが手伝うんだって」


「勇人は?」


「俺はついて行くだけ。見えないもの」


「ふうん」


(女子怖ぇ〜。チクチク調査が入って来るよぉ〜)


「私も行ってあげようか?」


「桜木に聞いて、彼のアルバイトだから」

「人数増えたら、収入減っちゃうし」


「そうだね」


 蘇我さんは寂しそうに、静かになった。

(ついて来たかったのかな?)




 俺は、サザンに心霊セットのお札を作って貰って、手帳風携帯電話ケースに入れて持っておいた。


 スーパーで漬物を入れる小さな壺も買った。醤油差し程度の大きさの物だ。

後、魔術師協会に行って、屑魔晶石を買い、文房具屋で黄色い和紙と朱色の筆ペンを買う。

屑魔晶石とは、魔晶石を作ろうとして失敗したり、魔力の蓄積が小さくて使い物にならなくなった物だ。

ジャンク品として安く売っているが、魔法の道具を作る材料として、重宝がられている。

大抵は、水晶かジルコニアだが、本物の宝石の事もある。


 当日、金曜日の放課後、学校最寄りの駅前に集合した。

 この時期はもう日没が早い。辺りは、もう薄暗くなっている。東の空は暗く、西の空低く夕焼けが残っている。保育所や幼稚園帰りの子供を乗せた電動自転車を漕ぐお母さんが忙しそうだ。


「やあ、お待たせ」


 栃原先輩と瀬戸山さんは、簡易祭壇を折り畳んで持っている。

 俺は、桜木に、学校からオカ研のカメラを持たされている。

「お前、こうやって学校の機材を持ち出すから、クラブに金を取られるんじゃ無いの? 自分でユーチューバーって奴をしたらいいんじゃない?」


「俺は金の為にやってるんじゃ無いからね。オカルトの探求と解明が目的なんだよ」


「ケッ!」


(現実に、金に困ってるじゃん)

俺は、舌鼓と共に悪態をつく。


 俺は、瀬戸山さんの荷物も持って、電車に乗った。

 目的地は、吉祥寺乗り換えで、明大前に行く。


この駅は、学生が多い。おかげで物価は安いが、あやしい店も多い。


 桜木がスマホを取り出し、地図アプリで案内をしてくれている。


 居酒屋やコンビニが少なくなったところの8階建ワンルームマンションの前で足を止める。

 この辺りは学生が多いのか、独身サラリーマンが多いのか? 辺りは似た様なマンションばかりだ。


 俺たちは建物の名前を確認して、中に入る。一階のエントランスでインターホンの部屋番号を押して、鍵を開けて貰って中に入った。女性に人気のセキュリティーのしっかりとしたマンションだ。

エレベーターで5階に上がり、一軒の扉の前で止まった。


「すいません。魔術師協会から依頼を受けて来た『モフモフのしっぽ』です」


(もふもふのシッポだよ。逆だよ、逆)

俺は、心の中でツッコミを入れる。


「こんばんわ。あ、男性も居るんですか? ちょっと待ってくださいね。すぐにかたずけますから」


 その後、15分程待たされて、家に入れて貰った。


 8畳洋間と3畳のキッチンという事だが、カタログ数値程広くは無い様だ。実質、6畳と2畳と言う感じか?



「依頼者の庭窪 明代です。こちらは、ナツキ、友人の駿河 奈津希です」


 流石に大学生で二十歳も過ぎると、大人の色気がある。栃原先輩も子供に思えてしまう。

俺が、庭窪さんの胸に見惚れていると、後ろから瀬戸山さんに小突かれた。

「何見てるのよ」


「何も」

俺は誤魔化して、挨拶を続けた。

(良いじゃないか、別に。眼福って言葉を知らないのか?)


 互いに自己紹介が終わって、状況を説明して貰って居る。

 撮影許可は、桜木が顔と部屋を映さ無いからと貰っている。


「ベッドで寝て居ると、髪の長い着物の女性に首を絞められるのです。最初は立ってるだけだったのですが、だんだん近づいて来て、とうとう首を絞め出したのです」

「奈津希に見てもらうと、この部屋は空気が悪くて、何かが二体いるって言うし」


「私、感じるんです。何かがこの部屋にいるんです」

「この辺りと、こちらの方から、何か強く感じるのですけど」


駿河 奈津希さんから、栃原先輩が状況を聞き出している。


「ええっと、それとそれのどっち?」

「血まみれのワンピースの方は、いまのところ何もしないのですね」


栃原先輩が、具体的な場所を指さして、状況の再確認をしている。


「え? 血塗れのワンピースって?」


「そっちの着物の方が悪さするのね」


「……。」


三人の間で、同じものを見て居るが、見え方が違うようだ。



 その時、ベランダのガラス戸が、


バンッ! バンッ!


と二回鳴った。ガラス戸を叩く様な音だ。


「ラップ音だわ。こんな音がいつもするのよ」


奈津希さんが口を開いて息を飲む。

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