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夜中の挨拶 その102


(んだ? いや、誰だ? 弟か? 頑張ったて、魔法じゃ飯が食えないって言ってるんだよ)


そちらを見ると、中学生ぐらいの男子が立っていた。


「魔法で進学すると言う方法もありますから」

「野球やラグビーと同じですよ」


「そうよ」


「今の経験が将来の人間形成に役立つ事もありますから」


「姉貴は父さんや母さんより頑張ってるじゃないか」


「まあ、そうだけどね」


「今度だって、浅間山大迷宮に合宿に行くんだろ。危険なんだろ」


「え? 危険なの?」

俺は聞いた。


「最深部は、LV30の魔物が出るんだろ」


「なんだ、大丈夫だね。桜木の方が心配だな」


「『なんだ』って何? 私の事を心配して」


「え? なんで? たった30だよ」


「姉貴の友達のにぃさん、LV30って言ったら、エース級パーティでないと倒せないクラスなんだよ」

「それがいっぱい湧くんだよ。だから、合宿になるんだ」


「はあぁ?」


「子供に大人気ないわよ」


(大人気ないって、何が?)


「LV30ぐらいで、俺の心配要る?」


「心配する気がないなら要らない」


「だろ」


(『竜殺し』が何言ってるんだ)


葉月が肘で突いて来た。


(何の合図だ?)


「藤波君、いきなりそんなレベルの高い妖魔と出くわさないようにするのだろうが、LV30って言ったら強敵なんだよ」

葉月のお父さんが説明してくれている。


「はい。魔法を使えない友人が取材に行くと言って居たので、彼の方が心配ですね」


「うちの娘は心配じゃないのかね」


「大丈夫でしょう」


「そこは、『心配ですね。』って言っておいて」

瀬戸山さんの目がきつくなって居る。


「え? なんで?」


葉月が肘で横腹を、またも突いて来て、足を踏んだ。


「心配ですね。なんなら僕も付いて行ってみましょうか?」


「そうなのね。部長に言っておくわ」


「放っておくと、妖魔がいなくなるから」


「何?」


「何でもないです」


「あなた達、仲が良いわね。安心したわ」


「でも、姉貴の友達のにぃさん、LV4じゃあ、30には勝てないよ」


「んん?」


「魔法使いのレベルの差って絶対的な壁なんだよ。30なんて、夢のような話さ」


「うーん?」

 葉月の顔を見ると、首を横に振っている。


「まっ、良いか」


 葉月のご両親と、少し話して帰る事になった。


 挨拶をして、家を出ると葉月が送ってくれている。

一階のエントランスで葉月が振り返って話して来た。

「今日はごめんね」


「いや、ご両親に会えて良かったよ」


 そっと葉月を抱き寄せて言う。

「ポケットの中とか、盗聴器のようなものが仕掛けられていないか調べて欲しいんだ」


「え?」


「右ポケットと左内ポケットには、入ってたんだ。次は襟の裏側かな?」

「ラムネを媒体に使ったみたいだ」

俺は、ラムネを二つ、手のひらに乗せてみせた。


「待ってね。しゃがんで」


 俺は片膝をついて葉月を抱いた。


「きゃっ、何してるの?」


「しっ! 探して」


「有ったわよ。これね」

ラムネを一つ、襟の後ろから取り出した。


「まだあると思うんだ。折り返しとかマチの中とか、どこかわからないところに隠してあるはず。探して」

「簡単なのを見つけさせて、次に難しいものを見つけさせて、安心させるんだ」


 葉月は呪文を唱えて、手をかざして動かして探している。


「ああ、有ったわよ」


 背中側の裾のマチになっているところから取り出した。


「ありがとう」


「誰がこれを仕掛けたの?」


「ご両親に聞いてみて」


「え? どうして?」


「親心だね」


 俺は立ち上がって、瀬戸山さんを抱き寄せる。

「ところで、猫がこっちを向いているだろ。恥ずかしいから、みないように言って」


「何が? え? まだ居るの?」


「うん 。後ろのスズメと」

「いわゆる、使い魔かなぁ?」

「この時間、こんな所にスズメは居ないよね」


「ええ、なんで?」


「親の愛だろうね。君と俺が信用されていないんだよ」

「傷つけると可哀想だから、手前50cmぐらいに閃光弾撃ってくれる?」


「うん」


 瀬戸山さんは、呪文を身振りを付けて、ゆっくりと唱えて、光弾を二発撃った。パシッ!、パシッ!と二回光った。


「フギャー!」

猫は飛び上がって逃げて行ったし、スズメは転んで、飛んで行った。


「ありがとう」


「ううん」


 ところでさ、ムーンウォークって出来る?


「ええ、急に何それ?」


「そこに居て」


 俺は、玄関ホールを出たところで、右手を頭に置き、帽子を抑えているそぶりをして、カッコつけて立つ。

モタモタモタ、モタモタモタモタモタ。

ムーンウォークと言うより、単に後ろ向きに歩いて居るだけだったダンスを披露する。

 この様な事は、いたって苦手なのだ。


その時、

パシ!パシ!パシ!パシ!パシ!


 光弾が5発、今いた所に順に着弾していく。

横に跳んで、くるっと回って、頭を深く下げて挨拶する。


 はっきり言って、素人の即興のダンスだ。見れたものではない。


「誰?」


(こんな夜中に、俺を攻撃する奴が他に、誰が居るんだよ)


「あの年で、5連発とは大したものだ。将来楽しみですね。お母さん」


 俺は、植え込みのところからこっちを見ているネズミに言った。


「え?『勝月』(カヅキ)がなんで攻撃してくるの?」


「流石に知らん、嫉妬じゃない?」


「誰に?」


「俺に、『おねぇちゃんを盗られた』ってところかな?」

「じゃあ、帰るわ」


 葉月をぐっと抱き寄せて、ぎゅーっと抱く。


「じゃあね。また明日」


「大丈夫?」


「大丈夫じゃない。もう、電車がないよ」


 俺はフラフラと駅に向かって歩いて行った。本が入ってるカバンが重い。



 瀬戸山さんは、見えなくなるまで勇人を見送った後、エレベーターに乗り、自分の家に帰った。


「お母さん達、止めてよ! どう言うつもり?」


「どう言うつもりも、何もないわよ。ちゃんと見張っとかないとね。親の努めよ」


「娘の彼氏に、盗聴器や使い魔で監視するのが親の務めなの!」


瀬戸山さんは、両親に相当荒れていた。

「勝月! 出て来なさい! あの人にあんな事したら、殺されるわよ」


「姉ちゃん、魔法も使えないのに、あんな奴ちょろいよ」


「あなた、行動が全部予測されていたのよ」

「あの人は私を守る為に、標的になる為に一人で出て行ったのよ。ムーンウォークをしていたのは、勝月を見る為よ! 光弾なんて遅くて、これぐらいの距離があると、弾道を見ていたら避けられるのよ」

「次やったら殺されるわよ」


「殺せる訳無いじゃん」


 彼女は、自室に戻って、泣いていた。嫌われたのじゃ無いかと不安で、不安で、自然と涙が止まらなかったのだ。


面白ければ☆五つを、面白くなければ☆一つをお願いします。

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