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101/215

お邪魔します その101


「先輩、桜木、失礼します。今日はありがとうございました」


「瀬戸山は寝ちゃったね」


 俺は首を横に振って答える。


「振りですよ。振り」


「ちゃんと送り届けろよ。道草食うなよ」

「大事な後輩だからな。頼んだぞ」


「だから、振りですって」


「その女心が分からないようじゃ、まだまだね」


 改札で、葉月の切符を探していると、スカートのポケットの中に財布があるとばかりに体をひねって来た。


(起きてるじゃないか)


 彼女は、ポケットの中を探される事は想像できなかったようだ。

 ワニのぬいぐるみの財布を見つけられる頃には、笑いを耐えて、勇人の首に力を入れて来ていた。


「スケベ」

俺の耳元で小さく呟いた。


 俺は、財布から切符を取り出し、二人で改札を出た。


「大丈夫ですか?」

と駅員に聞かれたが、

「寝たふりしているだけです」


と答えて、改札を抜けた。


 歩いていると、葉月が顔を胸に埋めて来た。


「この匂い、勇人の匂いだ。前にも嗅いだ、勇人の匂いだ」


(前って、いつだよ?)


「あの時から、ずっと好きだったの」


(せっかく告白してくれたのですが、「あの時」が思い当たらないのです……。)


「……。」

思い当たる節が、全く無かった。


 家までの道を本人に教えてもらいながら、マンションの下までやって来た。


 エントランスに入った頃に、葉月の電話が鳴った。

俺が、スカートのポケットから電話を取り出すと、『着信:母』の文字が見えた。


「お母さんからだよ」


電話を渡すと、葉月はうっとうしそうに電話に出た。


「もしもし?」

俺にも聞こえるような声で、

「自分の足で歩いて帰って来なさい。その彼氏さんも連れて上がって来なさい」と叫んでいた。


(俺は帰りたいよ)


「お母さんが、一緒に来てって」

俺は、服の裾をつままれて、申し訳なさそうに引っ張られて行った。


 自動ドアを暗証番号で開けて、エレベーターで上に上がって、部屋に行く。服を引っ張られて情けない格好だ。


(流石に、この時間に他所の家に行くのは気がひける。ってか、はっきり言って嫌だよ)


「ただいま」


「こんばんわ。夜分に失礼します」


「あら、いらっしゃい! 遅かったのね」


「おう、来たか? 上がってもらいなさい」


(こんな時間にか? 俺が悪かった。帰らせてくれよ)


「え? いえ、今日は遅いので、また日を改めて伺わせてもらいます」


「その遅い時間に、他所の娘を抱いて帰って来たのなら、上がってお茶ぐらい飲んで行きなさい」


(人聞きの悪い。俺は何もして居ないぞ)


「歩けなくなったので、抱き抱えて来ただけです。もう大丈夫そうなので……。」


「お父さんが話があるらしいの。上がって行きなさい」


「はい」

(逃げられない。もう、逃げられない)


 母親だと思われる人が上着を預かってくれた。


 テーブルに着くと、葉月のお母さんがコーヒーを入れてくれた。

食器棚には豪華な皿やカップが並んで飾って有る。ヨーロッパ製の高い奴だ。それは勇人にも判ったが、メーカー名などはわからない。テレビで、お宝鑑定とかで出て来る食器だ。

下段にはワインやらシャンパンが並んでいる。これも、きっと高級品だろう。

 淹れてくれたコーヒーも豆から挽く本格的な奴だ。インスタントなんて飲まないのだろうな。家族を見て、勇人は思ったし、葉月が大切に育てられている事を理解した。

 付き合う相手の男は、時間を掛けて、じっくりと見る家なのだと。


 奥から葉月のお父さんが出て来た。綿パンにポロシャツで休日のお父さんファッションだ。


「葉月に、気になる人ができたって聞いてね。一度会いたいと思ってたんだ」


「はぁ、初めまして。遅い時間に失礼してます」


「いやいや、よんだのはこちらだ。リラックスして飲んでくれたまえ」


 葉月が部屋着に着替えて帰ってきた。少し子供っぽい服だ。


「こちらが、クラスメイトの藤波君。こっちが父に母なの」


(なの? 逆だよ。逆)


「改めて紹介させていただきます。瀬戸山さんとはクラスメイトで、藤波勇人と申します」


「いやあ、くつろいでくれたまえ」


(こんな時間に家に呼んで、くつろげもないもんだ)


「いやあ、今日は遅くなってすいません。友人の買い物が長引いちゃって」


「君もたくさん買ったようだけど」

お母さんが、横に置いてある荷物を見て言う。


「参考書が、学校じゃ無くて、わざわざ出て行かないと売って居ないんですよ」


「あなた、魔法が使えないんでしょ。そんな本いらないでしょう」


「魔法が使えなくても、試験はあるのですよ。実技の補習は、グランド10周ですけどね」


 じっと俺の顔を見て来る。

これは以前体験した。担任の山口先生がしていた。人物鑑定だ。


「あら本当、魔法が使えないのね」


「お母さん! 失礼よ。やめてよ!」


(失礼なのか? 怒るところなのか?)


「使えませんよ。人並みに。大多数の日本国民並みに使えませんよ」


(抗議はこれくらいで良いのだろうか?)


 瀬戸山さんが肘で横腹を突いて来た。やり過ぎたようだ。


「うちの娘が、そんなに楽しそうにしているのだ。怒ることもあるまい」

「ただ、まだ高校生だからな、節度のあるお付き合いをしてくれよ」


「勿論ですよ、お父さん」


「君は、魔法部にも入って居ないのに、強いらしいな」


「いつもみんなに助けてもらって居ますよ」

「クラスメイトが魔法の達人ばかりで」


「ところで、君も浅間山に行くのか?」


「??さあ、何のことですか?」


 葉月が慌てて訂正に入る。


「あれは魔法部の合宿だから勇人は行かないの」


(ああ、桜木が言ってたやつか)


「私には関係ないので行きませんよ」

「その時期は、予備校で冬期講習が有り、追い込みの最中ですから」


「え? 受験生なの?」


「はい」


「葉月と同じクラスよね」


「はい。あと2年しか有りませんから」


「世間の子はそうなのね。あんたも頑張りなさいよ」


「魔法じゃ飯は食えないしな」


「姉貴は魔法を頑張ってるじゃないか!」

横から瀬戸山さんを擁護するように言って来た声がする。


ありがとうございます。

また、ブックマークをして頂きました。

本当に感謝しています。


さあさ、まだの皆様も、どうぞブックマークをしていってくださいね。


ただいま秋の大感謝ブックマークフェアー中です。


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