帰り道 その100
「男どもは、なにを悪巧みをしているのかな?」
栃原先輩は笑いながら寄ってくる。
「いや、何も」
「いや、何も無いです」
(桜木、無理だな。諦めろ)
「アルバイト探しているの?」
(俺じゃねぇーよ)
「これ、いーじゃん。二人で行ってこいよ」
俺は桜木に、『部屋に幽霊が住み着いて困っています』と書いた紙を指差して言う。
「俺、見えねーじゃん」
「みんなで行こうか?」
(いえ、二人で行って下さい。俺を巻き込まないで)
にっこりと笑って栃原先輩が言ってくる。
「ええ、楽しそう」
瀬戸山さんが答えている。
(楽しか無いだろう。また、何か出てきたらどうするんだよ)
ギルドの受付に紙を持って行く。
「あら、ウサミミパラダイスじゃ無いの?」
「違います。彼女は居ません」
「じゃあ、新パーティね。」
「名前は、『もふもふのシッポ』と」
「やめて下さい。『銀の翼』とか、『龍の騎兵団』とか、もっと厨二病全開の方が、まだマシです」
「『もふもふのシッポ』って可愛いね」
「うむ、それで行こう」
(何処かの番組のタイトルであっただろう? それ)
ギルドが、依頼者に連絡を取ってくれて、金曜の晩に行くことになった。
ギルドを出ると、向かいの小さな雑貨屋に寄る。ここは、一般向きの雑貨屋だ。一般人が買っても良いような商品を置いてある。
そこで、小さなハートの指輪を桜木に買わす。
「おい、この安い指輪を先輩に買ってやれ。指輪のサイズを調べるんだ」
「おお、お前頭いいなぁ」
指輪はジルコニアで各色の石がついている。
「優希、これ、ちょっとつけて見て」
二人で、仲良く指輪を決めている横で、瀬戸山さんの機嫌が悪い。
(いや、これは、桜木が先輩の指のサイズを測るためにだな)
「葉月も合わして見たら?」
俺は葉月にも、指輪の試着を勧める。
(負けた。完敗である)
「私は、どんな指輪が似合うかしら?」
「幸運の四葉のクローバーなんかどうかな?」
「そう?」
結局、四葉のクローバーの指輪を買わされた。
奥の喫茶スペースに三人を座らせて、注文を取る。
「あ、俺、忘れ物をしたので、ちょっと取って来るわ。みんな待ってて」
瀬戸山さんが何か言っていたが、無視して、慌てて出て言った風に演出する。
ギルドで、常設依頼の「樹海のゾンビ退治」を受けて来る。次に武器屋で、アメリカのナイフメーカーが作っている、ステンレス製の日本刀を密輸して貰う。
この刀は、正式には輸入出来ないのだ。文化財でも無いし、刃渡りが長すぎるからだ。そこで、その道のプロに輸入して貰うのだ。
それこそ、しようと思えば暖炉から暖炉に輸入できる世界だ。税関も糞もないのだ。
カメラを二台貰って、雑貨屋に帰ると、
「男共は二人で何を企んでるの?」
と栃原先輩が聞いて来た。
「さあ? 何の事でしょう?」
「何も」
桜木と二人でしらを切っていた。
「あなた達二人って、そんなに仲が良かった?」
「全然、いまも仲は悪いですよ」
「うん、良くないなぁ」
二人で否定する。
今日も遅い電車で帰ることになった。
「何をするの?」
「へっ?」
「今度は何をするの?」
「何もしないよ」
「うそ」
瀬戸山さんの追求は、妥協がなく続いた。
指輪の購入がついでだったので機嫌が悪いのだ。
瀬戸山さんは俺の前に立って、俺の脚を開いて迫って来る。両膝の間に立っているのだ。膝を閉じていると、俺の足が邪魔だったようだ。わざわざ、足を開かせて入ってきた。
そして、両手で俺の両肩を持ち、言った。
「私に嘘は吐かないって約束したよね」
(そんな約束はした事はない。危うく、雰囲気に流されるところだった)
「いえ、そんな約束した覚えがありません」
「じゃあ、今して」
「嫌です。私は、あなたに嘘をついた事はないし、これからも嘘をつきません。だから、そんな約束はしません」
「じゃあちゃんと、私の目を見て、胸に手を当てて答えてね。何か隠してるよね!」
俺は両手を上げて、瀬戸山さんの両胸の膨らみに手を当てた。
「隠していません」
「キャーッ!」
瀬戸山さんは、手で胸を押さえて、後ろに飛び退いた。
(本当に「キャーッ!」って悲鳴をあげるんだ)
(先輩と比べて立派ではないが、やはり女性の胸というのは、柔らかくて気持ちいい。触っても壊れないプリンがあるとしたらこんな感じだろう。いつまでも触っていたいものだ)
「勇人が胸を触ったぁー!」
「触れと言ったのは葉月だろう」
「言ってないわよ。自分の胸よ! どうして、他人の胸に手を当てるのよ」
「誰の胸か指定がなかったので」
「そんなの指定しないとわからないの!」
「一番触りやすいところにあったので」
「有っても触っちゃダメでしょ」
俺は、一旦立ち上がって、葉月の両肩を持った。
「何? 何するのよ?」
クルッと、葉月を百八十度向きを変えて、一緒に座り直した。
葉月が俺の膝に座った格好だ。
俺の手は彼女のお腹の前で組んである。
「何をするのよ」
抗議は二、三度していたが、静かになった。
「頭、かじらないでよ」
「みんな見てるから」
「……。」
栃原先輩も桜木も、手を繋いだままこちらを見ているが、何も言わない。
あまりの出来事に声が出なかったこともあるが、こうも堂々といちゃつかれると、間に入れないものだ。
四人で、静かに電車に揺られて帰っていった。
「『はじめ』、瀬戸山のやつ、目的を忘れているぞ」
「そっとしといて上げましょう」
「君達は何かを企んでいただろう?」
「さあ?」
電車は葉月の家の最寄り駅についた。俺は、右肩に自分の荷物、左肩に葉月の荷物を担いで、葉月を抱っこして電車を降りる。
葉月は、「いつの間にか寝てしまった。」という設定で、寝たフリをしている。
高校生ともなると重いので、首に手を回させて、抱きかかえる。
(そんな寝ながら手に力が入っているやつなんていねーよ)
俺は、ステータスを上げて、お姫様抱っこをして立ち上がる。
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うひょうひょ、うれしいわぁ。