肝が据わった女編-2
翌朝、またしてもクッキーを作っていた。
夫の為のものだが、このクッキーは色々使えるのかもしれない。主に人の警戒心を解くのに。
大量に焼き、夫の分を分けて、ラッピングをする。
味見をしたが我ながら味や見た目も問題なかった。安く小麦粉だったが、味や見た目自体はあまり変わらなかった。栄養面では劣るかもしれないが。
今日は朝から夫は離れで作品が書けるかどうか頑張って見ると言って、ずっと離れにこもっていた。おかげで昨日のようにつまみ食いされる事はなかった。
今日は姪の面倒を頼まれていた。昨日の夜に突然電話があった。
妹の娘である。
妹の麗香は文花と違って近所でも評判の優等生だった。大学卒業後、しっかちと就活し、しっかりと就職し、浮気も借金とも無縁そうなしっかりとした公務員の男と結婚した。
今日はその旦那の家の用事で、娘を預かって欲しいと頼まれていた。文花からするとしっかり者の麗香とは性格が違い仲が良いともいえず、お互い結婚後ますます疎遠になったが、どうせ専業主婦は暇だと時々雑用を押し付けてくるのだった。
「文花おばさん、こんにちは」
朝、麗香は佳苗を連れてやってきた。もじもじと母親の影の隠れて挨拶する佳苗は、子供らしい覇気や生命力がなく、文花は密かに姪は嫌いではないなと思った。文花はあまり子供は得意なタイプではなかったが。
それに今日は秋子の旦那の住む町に行こうかと思っていた。子連れでは怪しまれる事はないだろう。
「お姉ちゃん、毎日何やってるの?」
麗香は文花に会うたびにそう言う。製薬メーカーにしっかりと勤め、しっかちと供働きをしている麗香は、文花の生活が謎のようだった。
何をしてるかって?夫の不倫相手を調査したり、夫の不倫をクレームつけに出版社に行ったりしているのに決まってるじゃない。心の中でつぶやくが、決して声には出さなかった。
「別に、家事とか?」
「何でそこで疑問系なの?」
麗香は呆れた風につぶやいた。
「この子と一緒に船橋の方行っていい? 佳苗、それでいい?」
文花は佳苗に視線を落とそて言ったが、七歳児はポカンとしているばかり。
「いい? 文花おばさんに迷惑かけちゃだめよ」
「大丈夫でしょ。この子大人しいもの」
「大人しすぎるのよね。一体誰に似たんだが」
麗香は吐き捨てるように言うと速歩きで去って行ってしまった。佳苗は特に表情を動かさず、母親の背中を見ていた。
「佳苗、クッキーでも食べる?」
「うーん」
とりあえず佳苗を家に入れ、ジュースとクッキーを佳苗に出した。ジュースは昨日夫が勝手にカゴに入れたものだが、偶然子供に出すのに役だってしまった。
佳苗は自宅から持ってきた画用紙と色鉛筆でずっと絵を描いてた。
花やケーキ、お姫様など子供らしい絵をクッキーつまみながら描いていた。
マイペースな子で騒いだりはしゃいだりもしない。
「クッキーどう? おばちゃんが焼いたの」
「うーん、まずくはない!」
この娘は自分に似た気がすると文花は思った。顔立ちも似てる。趣味やハマったものに集中して取り組みやすく、他が見えなくなる所なども。佳苗は絵や芸術方面に開花すれば良いかもしれない。まだ子供だし可能性はある。
文花の場合、夫の愛人の調査でその才能が発揮され大して世の中の役にはたっていない残念な結果になってしまった。
佳苗の様子を見ながら家事をさっさと済ませ、ミイの事件がどうなったかネットで調べたが、特に進展はなかった。桜村糖子はミイの事件というより、過去関わったクライアントとの金銭トラブルで警察に調査されているらしい。
ミイの事件ではアリバイが立証されているので、このまま捕まえる事はやっぱり難しいのだそう。相変わらず匿名掲示板では炎上していたが、話題も尽きてきたのか火はだんだん萎んでいた。
秋子の夫の名前で検索すると、SNSが見つかった。本名でやっているようだが、投稿は少なめ。毎週日曜日に息子と一緒に近所の公園に行くとあった。名前でさらに調べるとアパレルメーカーのサイトで顔出しでインタビューをしていた。四十歳ぐらいの短髪でややがっちりとした体型の男だった。 黒目がやけに大きく、そこだけ見ると人懐っこい。
「ねえ、佳苗。本当に公園行っていい? お絵描きするのとどっちがいい?」
絵を描きたいと言われそうだった。
その場合は仕方がない。後日1人で行けば良い。
「文花おばさんが公園行きたいんでしょー」
なかなか鋭い。
「いいよ、別に。そのかわり」
そして佳苗はパッと見た印象よりも賢かった。やはりしっかりとした麗香の娘なんだろう。
「アイス買って。コーンのやつ」
「わかった。アイスね」
「おうちでは食べないの? アイス」
「ママがダイエット中だからなぁ。子供のおやつにも怒ってくる。糖質制限? やってるみたい」
その麗香の姿は想像できる。麗香は太りやすい体質で独身時代から万年ダイエットしていた。カップラーメンや菓子パンをやめれば良いだろうと言っては見たが、勉強や仕事に忙しいと食生活は改めず、流行りのダイエットに毎回飛びついていた。
「ママ、痩せた?」
「えー、全然。ドッシリとしてる」
佳苗はキャッキャと笑った。
意外と口が悪い。こういう所は叔母に似てしまったのかもしれない。




