疑惑編-5
翌日、朝のテレビでミイの事件が取り上げられていた。ミイの家の周辺までテレビに写っている。
あんな腐るほどありそうな恋愛カウンセラーの死について取り上げるのは不自然だ。三冊本を出しているとは言え、一部のファンしかいないアンチの方が多い無名な恋愛カウンセラーなのに。
リビングのテレビを凝視しながら、その理由がわかった。
桜村糖子が警察の事情を聞かれ、パトカーに乗り込み場面が映し出された。桜村糖子はミイよりは知名度が高いし、テレビ番組にもよく出演して居る。なぜこの事件がテレビのニュースになっているのかわかった。
朝のニュースなのにちっとも爽やかではない話題。
スタジオでは占い師や坊主が専門家として人を呪い殺す事が可能なのかとディスカッションしていた。
おそらく台本があるのだろう。占い師や坊主が言っている事も優等生じみた回答で面白くなかった。
結論を言えば呪い殺す事など不可能だが、人の悪い念の影響はあるから、清く正しく生活しましょうという事だった。
あまりにも優等生すぎてあくびが出そうだ。文花はテレビのスイッチを切った。
ただ桜村糖子がこうして警察に事情を聞かれるという事は、何か警察はわかったのかもしれない。パトカーに乗り込み桜村糖子はやけに堂々としていて、ちっとも悪びれていなかったが。
ふと視線を感じて窓の外を見た。
誰もいなかったが、週刊誌の記者がまた張り付いて居るかもしれない。
ミイは無名な恋愛カウンセラーだとしても夫はそうじゃない。人気作家であり、過去も不倫で大騒ぎになったことがある。近所では夫とミイ不倫していた事も目撃されているようだし、またスキャンダルになるかもしれないと思うと文花は憂鬱になった。
その前に犯人を見つけるか?文花はそう思った。
もちろん、素人だし警察に任せるべきだとは思っているが、いてもたってもいられないというのが正直な思いだった。向井という味方もいる。
「おはよおー、文花ちゃん」
夫が起きてきた。
寝癖をつけてパジャマ姿で、だらけた姿だった。
夫は文花の料理など好きではなかったが、ミイが死んで以来毎食家に戻って食事をとっていた。もちろん不倫は今はしていないようだった。
「ご飯まだ? ハンバーグ食べたい」
「朝からそんなもの出すわけないじゃない」
文花はため息をついてキッチンに行き、味噌汁を温めた。
出汁のいい匂いが広がる。
温めて居る間にご飯をよそい、野菜のサラダと輪切りにしたゆで卵を冷蔵庫から食卓へ出した。
夫は不満顔だった。
「これだけ?」
「これだよ。デザートにはイチゴがあるから、今日はおかずは少なめ。でも味噌汁はじゃがいも、ほうれん草、にんじん、豚肉が入って具沢山よ」
「そっかー」
夫は不満げだった。
文花が調べたところ朝ごはんは食べた方がいい意見と食べない方に意見が二つに分かれて、どちらが正しいか判断がつかなかった。中にはトースターを売るため朝食の習慣が広まったという陰謀論もあった。ただ食べすぎは良くないという事はハッキリして居るので、朝食は控えめにするという結論に至った。
「文花ちゃん、俺最近めっきり話が浮かばない」
夫は、朝食を食べながら呟いた。
「ミイちゃんが死んでから一行も書けないんだよ」
「そう」
文花は無表情に味噌汁を啜った。
芸の肥やしがどういう意味かは文花はわからなかったが、確かに夫は不倫をしていない時書くスピードが落ちる。
夫の小説はもちろん好きだし、新作も毎回楽しみだが、夫の不倫が終わるならそれに越した事はない。
収入も途絶えて文花も働きに出る必要もあるが、不倫が終わってくれた方がよかった。今までした贅沢といえば文花のキッチン道具や食材ぐらいだ。それにしても微々たる金額で貯金を食い尽くすほどの威力は無い。
お陰で生活に困らないぐらいには貯金もあった。夫がもし書けなくなっても覚悟はできている。それにやはり不倫が終わってくれた方がよかった。
「私は問題ないわよ。あなたが一行もかけなくても関係ないわー」
わざと呑気そうに言ってみたが、夫の表情は暗いままだった。
「私が書けなくても困らない?」
「いっそ不倫相手がことごとく死ぬミステリーでも書いたらどう? せっかく死体も見た事だし」
「笑えない冗談だな」
そうは言っても夫は少し笑っていて、文花はほっとした。
夫は朝食はもちろん、デザートのイチゴまで完食した。
珍しい事だ。文花の料理でさえ有り難がるほど夫は気落ちしているのかもしれない。
文花はそう思うと、複雑な気持ちになった。




