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廃屋の中

次の日の朝、夜明けとともに起きて更地を見ると、丸太が綺麗に切りそろえられて板の形になっている。

チェインか?

それとも剣の男の子か?

まさか杖の女、は無い。

そういえばチェインは剣の男の子をノエルと言っていたか。

関わることはもう無いだろうから忘れても問題ないだろう。

チェインが頼んでノエルが切ったということにしておこう。

板があっても釘が無ければ小屋はできんな。

板から木製の釘を作る?

そんな器用なことできるわけがない。

どこからか調達しなければ。

村に廃屋は無い。

所有権を主張されず廃屋となっている建物。

森にあればいいが。

門番に聞いてみるか。


「あの、すみません。」

「なんだこんな朝っぱらから。ああお前はそこで野宿してたやつか。昨日の夜更けにチェインさんが帰ってきてな。丸太を男の子が切ってたぞ。ありゃ剣聖か何かか?凄い腕前だった。」


やはり想像のとおりだ。


「そうですか。その板の事でちょっと相談なのですが。この村から外れたところに廃屋か何かはありますか?」

「それならこっちじゃなくてあっちの門から出て少し行った道のそばに廃屋がある。もともと村はそこにあったんだが。ギルドがあそこにできてから村が移動したんだ。もう誰も住んでいないぞ。その廃屋で何するんだ?」

「建築資材の調達に。」

「ああ、そうか!ならどんどん進めてくれ!廃屋が危険な魔獣や魔族の住みかとなっては困ると取り壊しをしようとしていたところなんだ。中に使えるものがあるだろうから持ってくると良い。」

「それはご丁寧に教えていただきまして、ありがとうございます。」


今日の目的は丸太ではなく廃屋内の資材調達だ。

早速行動に移すため、ポイムと鹿を呼んで反対側の門に歩いていく。


「あ、ジュン!」


レイナの呼ぶ声がする。

宿から荷物を抱えた女子三人が出てきた。


「早いな。」

「うん。故郷結構遠いんだ。早めに出発してもいいかなって。魔獣も朝は静かだし。」

「そうか。気を付けるんだぞ。」

「うん!ありがと!ジュンはこれから何するの?」

「廃屋で物資調達だ。」

「え、面白そう。」


故郷への出発の邪魔をしてしまったか?


「はは、面白いことは無いだろう、リオン。マリカは寄り道せずに故郷に行きたそうだぞ。」

「重いの嫌い。マジックバッグ欲しい。荷物降ろしたい。」

「そうだよね。でもマジックバッグを買うために難しいクエスト受けて大変な目にあったもんね・・・。」


全員黙り込んでしまった。

鹿たちをみる。


「なあ、この子たちの旅にお前ら付き合わないか?」


鹿たちがこちらを見ている。

昨日のことを思うと、農作業の間ほったらかしになってしまうだろう。

子鹿は遊びたい盛りだ、いっそのことこの三人について行って遊ばせた方がいいかもしれない。


「いや、ついていきなさい。荷物を持ってやってくれ。その方がお前らのためになる。」


頭を撫でてやり、子鹿を胸に抱き上げる。

するとこちらの言葉を理解したように女子三人の方に寄って行った。


「そうだ、偉いな。」

「え、でも。」

「故郷に帰ったら両親にこいつらの話でもしてやるんだ。出会いはちょっとアレだが、きっと両親も喜ぶだろう。」

「・・・ジュン。」

「それに、また戻ってくるんだろ?その時連れてきてくれ。」

「うん!」

「わかった!」

「ありがとう!」

「じゃあ、またな。三人とも。お前らも、よろしく頼むぞ。」


鹿に荷物を上手いことぶら下げて歩き始めた。

村の門から出て、昨日と同じ、手を振って見送る。

昨日と違うのは、何度も三人は振り返って手を振り返してきたことだ。

あの女子たちも、鹿も、良いやつだ。

さて、三人と鹿が見えなくなったところで廃屋の物さらいだな。

村から少し進んだところで、ツルが蔓延り今にも崩れそうな建物が現れた。

村に向かう道中では周りを見る余裕などなかったのか、全くの初見の気持ちだ。

楽だと言っておきながら結構しんどかったのかもな。

それか、何も考えずに済んで楽だったか。

それはさておき、廃屋の中を物色する。

ポイムが入ると崩れそうなので外で待機していてもらう。

釘を抜きたいのだから崩れた方が好都合なのだが、まずは使えるものを探して、何もないと分かったらポイムに暴れてもらって釘を探そう。

入り口から普通に入り、この世界の生活用品を手に取って眺める。

リビングやダイニングは使途不明の物ばかり。

椅子やテーブルもあるがこんなものを持ち運べるなど無理だ。

天井が抜けてしまっていて木製のテーブルと椅子は足が朽ちてしまい使い物にならない。

ここは、キッチンか。

コンロのような穴が三つ。

構造をしっかりと見つつ、近くにあった金属製の棒で叩き壊していく。

コンロの穴の中に何かある。

謎の道具。

コンロの中に入っていたのだから火をつける何かだろう。

一応持っていこう。

持って帰るための袋も探してみると、店の中に麻の袋が入っていた。

変色はしているが使えないわけではない。

ドロドロでなければ良い。

キッチンからは錆びていない鍋やオタマなどが出てきた。

これで火を起こせれば食事ができるようになるな。

食器棚も結構銀食器が残っていた。麻の袋の中にどんどん詰め込んでいく。

包丁が出てこなかったのが惜しい。

次に寝室だが、やはり目ぼしいものは、あった、服だ。

男物と女物、子供服はなさそうだ。

老夫婦か子供のいない若い夫婦が住んでいたのだろうか。

男物はだいぶ擦り切れているが着られそうだ。

今の自分の格好に比べたら全くマシな方だ。

廃屋内に浴室とトイレを探したが、両方とも見当たらない。

湯船に浸かる文化はなさそうだ。

まず給湯器がなくお湯を出すのに苦労しそう、あれ、じゃあ水は?

村は排泄物をどうしているんだ?

野糞か?

いや、そんなことはないはずだ。

どこかに排泄物を処理する設備があるはずなんだ。

探し回った結果、この小さな個室が怪しい。

何もない個室に穴が一個開いている。

きっとここが、中を、覗くか?

ええい、ここを見ずして家が作れるか!

穴の中を覗くと、中で何かがうぞうぞ動いている。

見ていて気持ちの良いものではない。

すぐに覗くのをやめる。

壊すか。

穴に鉄の棒を差し込んで穴の範囲を広げようと梃子のようにして棒の上に乗っかる。

簡単に穴が音を立てて壊れ穴の範囲が広がった。

すると中から丸っこい生物が出てきた。

生物か?

しかしこれは、まごう事なきスライム、色は透明だ。

こいつが排泄物を?

勢いよく穴から飛び出してはきたものの、襲いかかってくる様子はない。

催してきたから引っ掛けてみるか?

どうせ崩す建物だ。

スライムに向けて放尿する。

尿はスライムに当たると辺りに飛び散るが、水滴に触手を伸ばしていく。

丸い形がアメーバのように広がる。

それよりも自分の尿が、真っ黄色なことがとても気になる。

次は、大きい方を試そうか。

膝までズボンを下ろしてスライムの頭?に尻を向ける。

あ、出そう。

モリモリとあまり食べてもいないにも関わらず奥から出てくる。

すると、スライムが尻に覆い被さってきた。

見なくてもわかる。

尻の穴に吸い付いている。

あ、中に!冷たい感触が!吸われる!

出すどころではない、中が全部持っていかれる。

スライムに、お尻の初めてを奪われてしまった。

もう誰にも奪わせない。

ズボンを履き直してスライムを見やる。

お尻に冷たい感触が残り湿っているんじゃないかと触ってみたが濡れてはいない。

トイレに紙がないのは。

この世界の人は全員開発済みなん・・・、もう考えるのはやめよう。

排泄物の処理方法はわかった。

次は水だ。

水は一体どうなってる。

キッチンに戻って水回りを調べる。

水回り・・・ない。

そもそもシンクがない。

食器はある、でも使い終わった食器を洗うスペースがない。

これは、またこいつか?

さっきから後ろをついてきているこいつ。

背後をひたすら狙い続けるこいつ。

残飯も綺麗さっぱり食べるのだろう。

ただ手を洗ったり鍋に湯を沸かすのに蛇口は必要だ。

水を出すところはどこにある。

キッチンから外に出るドア、勝手口がある。

勝手口は内側からは開かないから回り込んでみると、何かある。

何とも形容のし難い形のもの。

よく温泉とかである、掛け流しの温泉が流れ出てくるところの形状で横に細長く穴が開いているのを見つけた。

手を洗うことを考えたら家の中で水を流す場所を作るのではなく、外で水を流しっぱなしにした方がいいのかもしれないな。

ここを破壊してこの建物はもつのだろうか。

だが、この穴の中を見てみたい。

ポイムに少し離れるように指示して解体に取り掛かる。

穴から鉄の棒を差し込んで拡張していくと、コンロと同じ形状の円盤が出てきた。

しかし色味が違う。

コンロは赤、これは青。

二つとも使い方は不明。


「ポイム、もう暴れて良いぞ。」


ポイムが待っていましたとばかりに建物の上に飛び乗ると、グラグラと揺れ始めた。

次第に大きく揺れ、音を立てて崩れ始める。

埃が、やばい。

白い煙をあげて倒壊する建物から逃げるように遠ざかり、落ち着くのを待った。

白い体がこちらに向かってくるのが見えた。


「お前。」


ホワイトタイガーがそこにいる。


「あ!やめ!ここでやるな!」


体を振って埃を払い始めたポイムに文句を言っても聞いてくれない。


「ごほっ。」


倒壊した建物の木々のつなぎ目を見つけて釘が使われているか見てみると、鉄の何かが使われているのが見えた。

釘の頭が入っている木材から叩いて繋がっている木材を外す。

時間がかかりそうだ。


「ポイム、食事に行ってこい。」


ポイムが森の中に入っていった。

時間だけはあるので作業に没頭。

それなりの量の曲がった釘を手に入れた。

思っていた量よりも全然少ない。

いつの間にか帰ってきていたポイムと一緒に村に戻り、チェインの更地に戻ってきて釘がまっすぐになるように加工する。

よし、これで釘もどうにかなった、か?

廃屋にいたスライムもついてきており更地をもぞもぞ動き回っている。

門番はスライムを見ても無反応だったな。

建物が倒壊して白い粉塵が上がるのを見ていたらしく、手間が省けて良いとのことだった。

麻袋を木材の近くに置いて、釘を麻袋の中に入れる。

周りの建物をよく観察する。

木の壁の下に石が積まれている。

基礎か。

基礎、石、もうこればっかりはプロじゃないとわからないな。

借金してでもやるか?

自分も住むところだからな。

昼過ぎに森に入って丸太を二本持ち帰る。

帰る頃には夕方になり、そのままポイムと、新たな仲間のスライムと団子になって眠る。

また今日、起きている間にチェインは帰ってこなかった。

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