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開かれた扉

大不況、不景気、失業率の増加、勤めていた会社が時代の荒波の直撃を受け倒産・・・。

新たな勤め先を探しつつ、失業保険で何とかやりくりしていたが、ついに失業保険も満了を迎えてしまった。

社会には求められていないのか、いやそんなはずはない、いや、いや、いや、自問自答を繰り返す日々。

ハローワークのセミナー講師にも、人事コンサルにも顔を覚えられて、翳りのある顔でただ微笑まれる日々。


「どうしてこんなに決まらないのでしょうね。もう何百社目でしょうか。決して選り好みしているわけではないんですけどね。」


最初はまだ自信と希望を胸に再就職先をこちらが選んでいた。

自分の選択に間違いがあるのではとコンサルに相談してピックアップした求人にも片っ端から履歴書と職務経歴書を送りつけて、そのうちに手当たり次第に何でも求人一覧を上から順に応募していったが、書類選考で落とされる。

たまに面接まで漕ぎつけても、選考結果はお祈り申し上げます。

紙代と郵送代で生活費は圧迫され、食事もできなくなる日が連続で続くようになってきた。


ああ、人生こんなものか、ここで終わりか。


よくここまで精神が壊れずにもったと思う。

不思議と、全てを諦めてこの世から去ろう、そう思うことは一度もなかった。

とにかくまだ生きてはいる。

今日もまた、電車で行く距離をパンクしても修理費が捻出できない自転車に跨って、ハローワークへと向かった。

古びた雑居ビルの蛍光灯がくすんでいるエレベーターで上にあがって、古びたドアの音を鳴らして開けて中に入る。

するとそこは知らない店になっていた。

階を間違えたか、ドアを閉めてエレベーターホールの前に来て階を確認したが合っている。

通い慣れた場所を間違えるはずもない。

もう一度入り口にやってきた。

ガラス扉の向こうにはハローワークの職員の姿が見える。

もう一度入ると、やはりそこには全く違う世界が広がっていた。


「おい!邪魔だ!」


どん、と後ろから肩を押され勢いよく中に入ってしまった。

背中を押した男が睨みつけてくる。

しかしこちらはそれどころではない。


ここは、どこだ?


なんだ、その服装は?


睨みつけてきた男の背中には大きな鉄の板が貼り付いている。

男の隣にいる女性は杖を携えているのか?

もう一人の男は細長い棒が背中に付いている。


「おい、何ジロジロ見ているんだ?文句でもあるのか?」

「あ、いえ、何でもありません。」


男の視線から逃げるように踵を返してドアを開けて外に出ようとすると、木造のスイングドアが出入り口についているだけでガラス扉などどこにもない。

スイングドアを押して外に出ると、舗装されていない土の道には土埃が舞い、道を挟んで向かいの建物の入り口には、まだ太陽も高いうちから男たちが飲んだくれている。

民族衣装、ドイツのビールの売り子のような衣装を身にまとい酒を提供する女性。

男の服装も海賊のよう。

あたりを見回して、明らかに異質な目の前に風景に呆然としてしまった。


しばらくしてから気がついた。

この風景に調和していないのは自分の方だ、と。

背中にはリュック、パーカーにジーンズと運動靴。

服も買取業社に売って、一着のスーツとこの服しか手元に残っておらず、ハローワークに行く時は大体この格好で通っていた。


迷い込んでしまった。


いったいどこに?


言葉は交わすことができている。

だが見るからに日本人ではない往来する人々。

もう一度スイングドアを押して中に入る。

中は一度見たことのある室内だ。

さっきの男たちが何かしているのが見える。

カウンターの上に何かを置いて、カウンターの奥にいる女性がそれを受け取る。

何をしているのか気になり足が自然と男たちの近くに寄ってしまった。


「あ?まだいたのか?なんだその目は。俺とやろうってのかい?」

「いやいや、そんなつもりは!」


両掌を相手に見せてヒラヒラと振って意思がないことを伝えた。

袖がまくれてか細くなった腕が露わになる。


「お前その腕、奴隷か何か?厄介事はごめんだ。関わるな。」


腕、改めて袖をまくって自分の腕を見てみると、骨と皮だけになり筋肉も脂肪もなくなった自分で驚くほど病的な腕が現れる。

奴隷と言われて言い得て妙だと含み笑いをしてしまった。


「何笑ってんだ。さっきからお前何なんだ?」

「いえ、なんでもないんです。ただ、ここは何処かと思いまして。」

「・・・お前、これ以上俺らに話しかけるな。危ねえやつと関わり合うほど暇じゃねえ。」

「先程から話しかけてきているのは貴方の方ですよ。」

「・・・ああ?!んだと?てめえ?!」


目の前の男が殺気立つ。

もちろんとてもじゃないが勝てるなどと思っていない。

ただなんだか、言われっぱなしなのは癪に触っただけ。

ここでこの男にのされても、まあ、仕方がないか。

その結果死んでしまったとしても。

覚悟を決めて男の目をじっと見つめた。


「・・・俺も流石にここでやり合うほどイカれちゃいねえ。ただ今のお前の態度は気に食わねえな。ここはこのギルドの流儀に則って決着をつけようじゃないか。」

「流儀?」

「ああ、この奥に試験場がある。ついてこい。」


男の指示に素直に従い、試験場とやらに入る。

普通の四角い、何もない木造の部屋だ。

男と二人部屋に入るとドアが閉められた。

部屋の四隅にある燭台に勝手に火が灯る。


「ここは?」

「ここは決闘の間。その格好、初めてだろうから説明してやる。どちらかが戦闘不能になるまで戦う。参ったはなしだ。戦闘不能とは、気絶、四肢を切断され動けなくなる、死亡、どれかだ。そしてもう一つ。この間には魔獣が解き放たれる。俺らがギリギリ勝てるか勝てないかの魔獣だ。魔獣は始まった瞬間解き放たれる。説明は以上だ。」


まるで古代のコロシアムだ。

現代にそんなものがあるわけがない。

夢、いや、そんなはずはない。

現実とも考えにくい。

だけど、不思議と恐怖はないな。

さっき死んでも構わないと思ったのが大きいか。

正直、どうでもいい。


「わかりました。先ほどの場所でお互いに面倒事を起こしそうになりました。その全ての原因は負けた方にあり、最悪死んで償うということですね。」

「よくわかってるじゃねえか。」


"それでは始めます。本日の魔獣はこちらです。"


檻が上に開くように、部屋の壁が上にせり上がっていく。


ぐるるるぅ。

がうるるるぅ。


虎、それをもっと大きくして凶暴にしたような顔立ちで、前足から剣のようなものが生えている。

男にあの剣で斬られるか、この猛獣に食い殺されるか、そんなところだな。

職も見つからず国からの支援も途切れ、死ぬ一歩手前だったのだから死期が前倒しになっただけのこと。

大したことじゃない。

なら、せめて、猛獣の血肉となった方が建設的じゃないか?

男はあの剣を構えている。

焦りは感じずどっしり、出方を窺っているようだな。

そんなふうにできたら、かっこいいだろうな。

猛獣に歩み寄る。

今まで男の方をずっと警戒してこちらは無警戒だったが、男より近くなったことによりこちらへの警戒を強めた。

牙を剥き出し、喉を鳴らしている。

あまりにノーガードで近づいていくために、猛獣はすぐに飛びかかって来ずに間合いを開けるように後退る。

向こうさんはこちらが何を考えているのかわかっていないようだな。

近くで見ると、やはり大きい、そしてとてもカッコいいな。

チーターや虎などネコ科が好きならこの猛獣も好きだろう。

冥土の土産に目に焼きつけておこう。


ん?


なんだ?


毛並みとは違う何かが体から生えている。

よくわからないな、もう少し近くに。


ぐるがあああああ!


猛獣が飛びかかってきた。

左腕を差し出して、何か生えているものを右手で掴んだ。

ちょうど猛獣の肩の位置にある。

固いな。

だが明らかに異質、体から生えているものではないな、刺さっているものだ。

痛そうだ、抜いてやろう。

思い切り抜き去ると、鮮血が猛獣の刺さっていたところから吹き出した。

これは、なんてことだ。

こんな酷いことをするのか。

まさかまだ刺さっているものがあるのか?

ああ、尻にも同じものが見える。

左腕は確かに痛い。

だが、この猛獣に比べたら大したことはない。

こんなものが刺さっているなんてそりゃ耐えられないだろう。

毛並みに沿って右手を猛獣の体に這わせて、刺さっているものが尻の途中にないかまさぐる。

ないな、尻のを抜こう。

抜けた、左半身は抜けたか?

右半身はどうだ?

いつの間にか左腕は解放されていた。

だけどおそらく、もう使い物にならない感じになってると思う。

猛獣は大人しく座っている。

まるで刺さった棘を抜いてもらうのを待っているようだ。

右手だけで猛獣の毛並みを撫で、棘を抜いていく。

肩、尻に刺さっていた。

全部で四本。

こんな酷いことができるなんて、どういう神経してるんだ。


「お、おい、お前。」


忘れていた。

そういえば男がいたな。


「どうしたら、こんな酷いことができるんだ?」

「いや、酷いのはお前の左腕だろう。」

「こんなものどうだっていい。許せないだろ。無理矢理機嫌を悪くさせて襲わせるなんて。もしこの魔獣が二人を食い尽くしたら、こいつも殺されるんじゃないのか?」


男は剣を構えたまま何かを考えているようだな。

そういえば、なぜこの男に敬意を払い敬語を使っていたのだろう。

忘れた、どうでもいい。


「お前は、死ぬのが怖くないのか?」

「怖いさ。覚悟しただけだ。見ただろう腕を。何もしなくてももうすぐ死ぬところさ。こいつに殺されてもあんたに殺されてもどっちだっていい。だがそうだな。決着をつけてくれ。今ここで、その剣でこの体を斬ってくれ。そうしたらこの決闘は終わる。全てこちらの原因で責任になってな。それで構わない。望みがあるとするならば、こいつをあんたが保護してくれないか?」

「・・・。最初は気持ち悪い奴だと思った。今日初めて会ったやつのことなど信用できるわけがないだろう。そしてお前の後ろで大人しくしているそのセイバーティグリスがお前を襲って戦闘不能にするとは到底思えん。であれば、ここは俺が、お前を戦闘不能にするしか終わらない。約束も出来ん。する義理もない。」

「わかった。いい、迷惑を言ったな。さあ、終わらせてくれ。」


一気に、終わらせてくれ。


ザン


剣が人を斬る音は、こんな音か。

痛みが遅れてやってくる。

あとは、極度の睡魔が襲う。

このまま寝てしまおう。

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