第九十四.五話 『やまいを治すくすり』
新元4年9月27日早朝、命ガラガラ逃げ出したロイはキャサリンの家で、縛ってもらい、そして自分の知っていることを、彼女に伝わる。子供頃の出来事や、地下牢の遭遇も含めて。
「つまり、イデン出血熱、本当はゾンビウイルスってこと?」
顔から見ると、どうやらキャサリンはまだ信じてないようだ。
「とにかく、信じなくていい。俺は最後の最後、あの化け物の尻尾にいるゾンビに噛まれた。たぶん、時間たったら、ゾンビ化する。だから、最後の願いがあるんだ。俺のゾンビ化過程を記録して。これを証拠として、記事を作ってくれ。そして発表するんだ。人々にちゃんと伝えるんだ。イデン出血熱の真実を」
これを聞いて、キャサリンはしばらく黙る。そして再び口を開き、
「別にあなたを疑ってるわけじゃないわ。でも、この犠牲は大きすぎないかしら? とにかく薬を飲んで病気を治って、そしてきっとほかに証明する方法があるはずよ」
「ほかの方法があるなら、ってあれ? 薬?」
耳を疑っているようで、ロイはキャサリンに確認する。どうやら、ネオシャンハイで、イデン出血熱治療用の薬が売っている。現在では滅多に感染者がいないから、売れている薬局が少ないが、探せば手に入れる薬品だった。
「薬、オナシャス」
やっぱり、真実を伝えるため、命を投げ捨てる必要はないようだ。キャサリンはすぐ簡単に着替えて、外出した。
(そっか、さすがパラダイスシティだな。全然知らなかった。あの時、親父が戻るのも、薬の研究かも。親父がもしかして、大英雄かもしれないな
…………
……
…
やべえ、キャサリンが出かける前、縄を解けてもらうべきだった。おしっこが洩れそう……)
尿意を催しながら、ロイは昏睡した。
翌日、ロイは二日間の病欠を取って、薬を飲みながら休養を取った。足辺りの黒いあざは、確かに消えた。しかし、キャサリンの話では、最近はなぜか、薬を買う人が増え、ロイの分を手に入れるのは、結構骨が折れたそうだ。
病欠期間、ロイはちょっと最近の出来事をまとめた。A&E研究所の人体実験、軍の檮兀という名の生物兵器、ウイルス拡散を企むテロリスト、イデン出血熱の真相。どちらも大スクープだが、どちらもまだまだ情報が足りず、報道したければ、やることがいっぱいある。
どちらも極めて危険な仕事になりそうな予感で、パラダイスシティと言われるネオシャンハイも、まだまだ危険がいっぱい残っている。しかし、なぜか、ロイはワクワクする。
自分の夢を果たせることはもちろん、何より、A&E研究所の時といい、数日前の夜といい、奇妙な能力を持つ若者たちは、まだ人々を守ろうとしている。まるで若ごろやったゲームや、見た漫画で出た、ヒーローたちみたい。自分の仕事も、決して民衆にパニックをもたらすものでなく、真実と希望が伝えるのだ。
9月30日、ロイは再び新聞社に戻り、キャサリンを引っ張って、副編集長のオフィスに行く。彼がここ数日が用意した取材の企画書をもって、もう一度張紅を説得しようとする。苦しい舌戦になると思いきや、張紅の態度は微妙に変わった。態度は相変わらず冷たいが、ロイとキャサリンに一つのチャンスを与える。
「10月4日、連休が終わったら、ネオシャンハイ最高法院(裁判所)はある裁判が行われる。あの裁判の報道がよく出来たら、今年2Qの下位解雇はいったん中止して、あなたたちがやろうとした奇想天外の取材は許可するわ」
なぜか、張紅のしゃべり方、どっか聞いたことがあったような気がするが、それより、せっかく希望が見えてきて、ロイは思わず興奮する。
「やったぜ! では、どんな案件ですか? 被告人は誰です?」
「案件内容なら法院に行ったらすぐわかるわ。そして、被告人ね。その中の一人はかなりの有名人よ。かの司馬家のご令嬢、司馬アンジェリナ」