第九十四話 『螺旋の一撃』
短剣が奪われ、刺されそうになったロイだが
新元4年9月27日夜明。傷だらけのロイは、老平弄近くの小さな丘で、全力逃走中。後ろには、巨大な異形の怪物が追いかけている。
前回の続き、ロイは翡翠の短剣をもって、水道水の汚染を阻止すべく、デザートイーグルに立ち向かう。しかし、経験不足か、神経質になったのか。結構簡単な罠にはまられ、短剣は奪られた。しかも、デザートイーグルは、すぐ短剣をもって、ロイの首に刺さる。
これで一巻の終わりだ。
短剣が喉に届くまであと0.05センチのところで、デザートイーグルは急に苦しそうになって、短剣を捨て、悲鳴を上げる。彼の腕に、すぐたくさんの黒いあざが現れ、すぐ全身を覆い、そして肌も青っぽくなる。
「な、なぜです? 私は全然マナを使わなかったはずなのに!」
妖狐の菖蒲は確かに能力を使えば使うほどゾンビ化が加速するといった。だから、デザートイーグルはなるべき気を付けていたが、なぜか急に変異し始める。よく見ると、真っ先に腐り始めたのは、短剣を持った己の手だ。
地面の短剣は、妖しい緑色の光を放つ。
「こ、この短剣は、まさか?」
しかし、ロイには関係ない話だ。すぐ短剣を拾い、デザートイーグルに刺さる。
ぷす
あっさりと、デザートイーグルの動きが凍り付いたのように停まって、そしてそのまま倒れた。
危険人物を仕留めたら、ロイはすぐ地下牢に駆けつけ、水道の状況を確認する。現場はひどい状況だ。たくさんの死体、戦闘の痕跡、そして大きな穴がある。穴の中を覗いたら、ロイの知っている怪物がある。
檮兀だ。厳密にいうと、若い研究員が言ってた量産一号だ。半分しか残ってない体、そしてあの緑ぽく灰色の毛、一目でわかる。確かに、あの研究員たちは死体の処分に結構手を焼いた。まさか、ここで適当に埋まったとは。
水道のパイプは特に見当たらない。どうやらデザートイーグルの話は本当のようだ。なら、長居は無用、ロイはすぐ再び上に登る。
しかし、上はまた地獄化した。数匹完全にとどめがされていないゾンビと、数人の兵士がゾンビ化して再活動が始めた。警戒が解いたからか、ロイは結構適当に階段を登って、別に息を殺したり、足音を小さくしたりはしなかった。本当は、鼻歌もちょっとしたいぐらいだ。これで、一発でゾンビたちにバレた。
二本の短剣で全力で抵抗してみたが、いくら切りかかっても、倒したゾンビはしばらくするとまた復活する。そして、なぜか、復活するたび強くなった気もする。多勢に無勢、これでは、いつかやられる。
「あの短剣を捨てなさい!」
女の声だ。どこから女の声が聞こえてくる。そして、目の前のゾンビがどんどん倒れていく。ゾンビたちの後ろから、女性の姿が現れる。
鉄棒を持つ覆面の女性だ。かなり手練の棒術を使い、次々と、ゾンビを薙ぎ払って、倒していく。鉄棒に当たった部分から、骨が砕けて折れた音がはっきりと聞こえる。
ロイはまだ短剣をもって、ぼーっとして戦場を見ていたら、覆面の女性は軽く鉄棒で彼と手を叩き、短剣が地面に落とされた。そして女性は数回体を回転して、鉄棒を強く振り落とし、短剣に叩く。
翡翠で加工したと思われる短剣が、数段に割れて、そして光る粉に分解される。やがて、何もなかったのように、空気に消える。
「何やってるの? これは俺の武器だ」
「この武器のせいでゾンビたちは活性化したのよ」
片手で鉄棒を立て、覆面の女性はロイを見る。どうやらまだ現状を理解していないようだ。
「詳しく説明してもいいけど、呑気でできる場所じゃないわよ」
「何言ってるんだ? ゾンビは全部あんたが倒したんじゃないの?」
覆面の女性は、ロイ後ろのゾンビ山を指して、
「果たしてそうかしら?」
ゾンビの山が、急に振動し始め、そして次々とまた立ち上がる。
「焼却するか、頭を破壊しない限り、こいつらはかなりの確率で再活動を始めるわ。とにかくここから出よう」
武器はなくとも、覆面の女性はかなり強いから、二人はかなり順調で上を登って、そして建物から出る。周りの環境を確認したら、やっぱり老平弄の旧工場、もとい軍事秘密研究所から遠くはないところにいる。あの研究員たちは、結局近いとこで量産檮兀を埋めた。
建物から出たら、覆面の女性はすぐ鉄の扉を閉じ、そしてロイに、
「いい? 私はすでに警察に通報したわ。警察たちはすぐ駆けつけてくるでしょう。しかし、この中のゾンビたちが外に出たら大変だわ」
確かに、老平弄は住宅地。まだそれなりの住人が生活している。今は深夜、ゾンビたちが徘徊したら、とんでもない被害になる。
「だから、私は火炎放射器を取ってくる。あなたはここを死守する。できる?」
「できねえよ。あんなにたくさんゾンビだぞ」
「大丈夫よ。大した知能を持ってないから、しばらくはまだ下で共食いするし、この扉は結構頑丈よ」
後ろのドアを確認してみると、確かにかなり丈夫のようだ。厚さは十センチもありそうで、元々は金庫のドアと言われても問題ない。
「でも、せめて武器ぐらいは」
「武器ならあるわ」
ロイに渡されたのは、50センチぐらい長さの護身用棍棒だ。
「とほほ、これしかないか」
本当はチェンソーンなど強力なものが欲しいが、覆面の女性は持てるはずがない。仕方なく、ロイはドアの前に座って、体でドアを抑える。覆面の女性は、すぐ暗闇に消えた。
イデン出血熱の真相はゾンビウイルスのパンデミックであることはほぼ間違いない。なら、もっと証拠を集め、記事に作成すべきだ。しかし、本当に発表できるかどうかが問題だ。あの張紅副編集長は、たぶん許してくれないだろう。では、自分で何か出版する方法を探さないと。
そう考えているとき、急に後ろから強い衝撃が伝わってくる。
(なっ?! なぜそんなに早く来るの? まだ共食いしてるのじゃないのか?)
ドカン!ドカン!
一撃一撃の力が強く、数回したら、ロイは数百キロの扉ごとに、吹き飛ばされる。やっとドアの下から潜り抜けたロイは、目の前の怪物に驚愕する。
今夜見たすべての怪物の集合体だ。量産檮兀も、デザートイーグルやスティンガー一味も、囚人ゾンビも、兵士も、そしてハワードも、全部くっ付いて、一匹の巨獣になった。
檮兀が上半身で、デザートイーグルたち一部のゾンビたちは溶けたのように融合して下半身になる。残ったゾンビたちは、縄のように曲がれて、大きな尻尾になった。尻尾から、まだゾンビたちの手や顔が見えて、独自に動いている。
ロイを見たら、怪物はすぐ襲い掛かる。
こんな相手に、護身用棍棒が役に立つはずもなく、ロイはすぐ逃げる。老平弄の住宅地に逃げたら大変なことになる。秘密基地の後ろに小さい丘がある。あそこで時間を稼げば、あの覆面の女性は助けに来るかもしれない。
そう思って、ロイは全力疾走。しかし、あの怪物は思ったより俊敏で、いくら走っても、全然振りけれない。そして、とうとうロイの体力がなくなり、怪物に追い詰めた。
また一巻の終わりか。これで、二巻の終わりになる。そう思って、ロイは目を閉じて、死を待つ。次の瞬間、顔が熱くなる。これが頭が食われた時の感覚か? いや、何か違う、痛みもないし、怪物に接触の感覚もない。
目を上げると、紫色の螺旋が、自分の上に経過している。この螺旋はちょうど怪物に当たっている。しばらくすると、螺旋は消え、残されたのは、下半身と尻尾しかない怪物だった。残された部分は、やがて崩れて、ロイの上に倒れる。
今日は、何かに押しつぶされる日だ。ロイは心の中で言っているが、口からは出せない。なぜなら、この一晩で、もう何の力も残っていない。まだ気が失っていない自体が、奇跡みたいなものだ。しかし、どうやら怪物はもう死んだ。ちょっと休憩したら、回復できるはず。
そう考えている時、遠くから、人影が見える。よく見ると、ほぼ全部知っている人物だ。アンジェリナ、諸葛夢、古天仁、名前は知らないがA&E研究所の時見た青い髪の毛の若者、そして、巨大なハスキー。
呼びかけたいが、口を開けても、声が出ない。ただ、向こうの会話が聞くだけ。
「あ! ムウ! だから、必殺技を出すときもっと低く出してよ。人に当たったらどうすんのよ!」
「別に人じゃないし」
「そうですぞ。アンジェリナ殿。生命がかんじてないから私は飛んだのです。むやみに命を奪わない主義でね」
(い、犬がシャベッタ!!!)
「そうなのかな?」
アンジェリナは枝を拾って、怪物の残骸につつく。数回は、ロイに当たった。
「にしても、これは何? 気持ち悪い」
「まさかと思うが、この辺りで何かの生物実験で使われた材料じゃないか?」
「げえ、じゃあ、結構高いじゃね? 俺たちがこれを壊して、弁償金が要求されたらどうすんの?」
青い髪の話を聞いたら、四人と一匹が沈黙した。
「あ、あはは、夜も遅いし、ほかに人ないし、ば、バレないよね。黙って逃げましょう!」
すると、アンジェリナはすぐ三人の男と一匹の犬を連れて、この場を後にした。
再度動けるようになったのは一時間後だ。ロイはかろうじて怪物の残骸から抜け出し、自転車で自宅に戻る。ちょっと準備したら、またキャサリンの家にお邪魔する。
朝五時、最近残業でずっと睡眠不足のキャサリンは、ぼさぼさの頭のまま、ドアを開ける。そしてボロボロのロイも見たら、ちょっと目が覚める。
「ロ、ロイ! 何が起こったの。こんな時間で、なぜこんな風になったの?」
「キャサリン、ちょっと頼みたいことがあるんだ。俺を縛れ」
すると、ロイは持ってきた縄をキャサリンに渡す。
「し、縛るって、どうして」
ロイは答えない。頭を下げ、自分の足を見る。そこには、ゾンビに噛まれた傷があった。
ゾンビに噛まれ、ロイは結局感染されたのか
次回を待て!
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