第九十話 『悪魔のクローン』
うっかり軍事基地を侵入してしまったロイ、そこで見たものとは?
暗い巨大な倉庫の中に、淡く光っているのは、五つの巨大なガラスのカプセルのみ。中には緑色の透明な液体と、巨大な怪物がある。若いの西洋人と中年の東洋人、二人の研究員が、記録しながら、雑談している。
「量産一号、生命反応なし、廃棄処分します?」
「そうだな。ガイドラインだと、処分すべきだ。しかし、A&E研究所はつい最近閉鎖されただろう? それにしても、あちらで一体何が起こったんだ?」
中年研究員は、あるカプセルを見ながら、語っている。カプセル中の怪物は、体が半分しか残らず、しかも打撲傷が多数存在する。
「でも、あちらに送る前に、すでに生命反応なくなったのでしょう。なぜまた活動再開できたんですかね?」
「食管に人間の組織破片や毛髪が確認できた、か」
「おお、わかった! 死んでから、人を喰ったんですね!」
中年研究員は、不思議な目線で若者を見て、
「そうだな。誰かさんがスプーンで一回一回口に運んでくれたんだろうね」
「きっといい人ですよね」
中年研究員を頭を下げる。怒ったのか、笑いを我慢しているのかはわからない。しばらくしたら、ど真ん中、一番大きいカプセルを見る。中の怪物はほかの四匹より明らかにでかいが、さっきの一匹と同じく、全く生気が感じない。
「それにしても、何考えたんだ? 原形檮兀※はまだテスト中だろう? なぜ任務執行させたんだ? 今はまだ完全制御できていないと、何べん言ったらわかるのか?」
どんどん興奮してきた中年研究員は、ガラスのカプセルを叩きはじめ、若者はすぐ彼を抑え、
「落ち着いてくださいよ。上からの命令だから仕方ありませんよ。それに、どうやら李公公※2の命令だそうですよ」
これを聞いて、中年研究員は一応落ち着いたが、顔色はさらに悪くなって、淡い光しかない倉庫でもわかるぐらいに。
「またあの野郎か? で、今回の何たくらんだのか? どっかに、テロリストでもいっぱいいるのか?」
「いや、なんか、新元学園で、女子生徒を脅かすだけだそうですよ」
「はああああああああ?」
中年研究員は、目玉が飛びだせそうに眼を大きくし、また興奮しだして
「ハロウィンマスコットか? うちの子はハロウィンマスコットか? 軍隊一個倒せる猛者だぞ……」
これを言ったら、中年研究員は黙ってもう一回、檮兀というでかい怪物を見る。外傷と言える部分は胸元の二か所しかない。長くて浅い傷はあるが、あれは致命傷のはずがない。残ったのは、小さくて、深い傷だけだ。
「新元学園でも何かとんでもない武器か化け物を作ったのか?」
「でも、檮兀はさ、一体何の動物のクローンなんですか? いろんな動物の特徴があって、なんか怖い外見ですね。」
「バーカ、俺たちがクローンしたのは、動物なんかじゃない」
そしたら、二人は頭を振り替え、暗いところに隠れてロイに向かって、不気味な笑いをしながら、
「俺たちは、悪魔をクローンしたんだよ!」
「うわああああああああああああああ!」
悲鳴しながら、ロイはベッドから落ちる。どうやら、悪夢を見たような気がする。しかしよく考えたら、悪夢なんかではなく、本当のことだった。
もちろん、悪魔をクローンしたってことは、中年研究員が若い研究員を脅かすの冗談だった、らしい。あの後、警備員らしき人物が倉庫に入って、カードキー不正使用のログが発見し、今は巡査中だったらしい。
幸いロイは結構暗いところで隠れていて、結局発見されず、あの場の人たちが帰ったら、すぐモンスターたちの写真を撮って、逃げ出した。カードキーはバーの入り口辺りに捨て、林宇に悪いことをしてしまったと、かなりの罪悪感を感じた。
そしてベッドで、いろんなことを考えた。
軍にかかわるのなら、撮った写真などは公開できるのか。そしてもし本当にA&E研究所にも関係があったら、あちらの調査もできなくなるのでは? そして何より気になってたのは、悪魔のクローンの一言。あれは本当に冗談だったのか。そう考えていると、ロイは寝てしまい、そしてあの悪夢を見た。
「やべえ、もう遅刻じゃねえか?」
もう昼近くの時間になったことに気付き、ロイは顔を洗って、すぐ新聞社に駆けつける。
「ご、ごめん、ちょっと寝坊しちゃった」
「え? う、うん」
ロイの上司であるキャサリンはかなりお人よしなので、元々叱られるとは思わなかったが、この反応はやはりおかしい。そしてよく見ると、鳥の巣の下にある、目が赤い。
「ど、どうしたの? まさか、誰かにいじめられたのか? 誰だ? 俺がぶん殴ってやるぞ」
これを聞いて、暗いキャサリンも、くすっと笑って、ある原稿をロイに見せた。
「昨日、あなたが警察に連行された後」
「いやいや、俺は犯人じゃないから」
「とにかく、これを書いた。でもやっぱり駄目だわ。副編集長は発表できないって」
内容をちょっと読むと、銃火器が無効化についての記事だ。相変わらずきれいな文章で、書いているものも、たぶん事実だ。
「でも、副編集長は、こんなもの発表したら、民衆は大パニック。だから、こんなこと教えなくていいって、やっぱり、あたしはストーンみたいになれないね」
ロイはちょっと溜息をし、席に座り込む。副編集長の意見はあんまり同意できない。ロイも、民衆に真実を伝えるべき信条を持っている。弁論ならいくらでもできる。しかし問題は、武器無効化の話題なら必ず軍などに繋がってしまい、そして結局檮兀っていう人造の怪物に辿り着く。
でも、それと同時に、ロイはうれしい。どうやらキャサリンはちょっとやる気が出た。午後の仕事を終わって、本当は残業になるが、ロイは急に閃いて、先に上がった。
TAKEUCHIの旧宅だ。あちらならまだ何か別の手掛かりがあるかもしれない。本来なら午後の時間でお邪魔したいところだが、最近の仕事の量だとなかなか難しい、なら仕方がなく、深夜になってから再度訪問とする。
夜結構早い時間で、部屋の電気は消された。ロイはキーピックでドアをこじ開け、中に侵入する。二階には女の子が住んでいるから、とりあえず地下室を先に調査することにした。
立派な不法侵入なので、ロイは全力で息を殺し、懐中電灯で下に降りる。地下室には確かに貯蔵室があって、中にはいろんな古いものが置いてあった。ならここで、TAKEUCHI家の火事や失踪にかかわる手がかりがあるかもしれない。
しかし、ちょっと探したところで、懐中電灯の電池が切れた。幸い、代わりの電池が持っているから、真っ暗の環境で、ロイが電池交換しようとしたら、なぜか人の気配がする。
まずい、女の子が降りてきたのか?
すぐ身を隠すロイ。しかし、降りてくる人物は、別に地下室の電気を付けたりはしない。その代わりに、一対赤い光が浮いている。
これは、人の目?
※ 中国神話、四凶の一つ。兀の字は、本当は木変に兀だが、今の入力方法では入力できない。
※2 宦官のこと。中国古代、宮廷で奉仕する男子。生殖器が除去し、去勢された男だから、現代は蔑称と認識される。ただ、女性の場合、旦那のお父さんも公公と呼ぶ。
赤く光っている目? もしや?
次回を待て!
よかったら、評価していただければ嬉しいです。
次回の更新は、4月4日、日曜日です。




