第八十八話 『二期査定』
キャサリンの首を阻止しようとするロイだが。
新年晩報は、ある災前ではかなりつかわれている管理システムを使用している。KPI管理により、下位解雇システムだ。
KPIとは、Key Performance Indicatorsの略、つまり、重要業績評価指標だ。簡単に説明すると、定期的に、上司と相談した上で、これからの仕事目標を設定し、 一定期間で達成状況を査定する。会社にもよるが、普通は五段階に分かれて、S:設定以上の目標まで達成した、A:安心と信頼できる達成度だ、B:別に問題なく完遂した、C:もう少し頑張るべき、D:ダメだこいつ、っていう五段階だ。評価Dの人は、基本的に解雇される。
では会社全員SからCにすればいいのではと思われるかもしれないが、査定のランクは絶対的な点数で決めるのではなく、相対的な順位で決めるので、どうしても最下位の人がいるわけだ。例えば満点100点で、55点から51点の5人がいる場合、同じく不合格の55点の人はSになり、51点の人はDとなる。そして100点から96点の場合、96点という極めていい成績なのに、やっぱり首される。弱肉強食を具現化する、残酷なシステムだ。
このシステムは合理的かどうかはさておき、新聞社に絶対あっていないと、ロイは思う。そもそも記事や取材の品質など、客観的に評価するのが難しいし、それに、どうやら新年晩報も結構人手不足の状況で、人を首にするのはいかがなものかと。
そう考えながら、ロイは雑談している同僚と別れ、一人で食堂に行って、プラスチックを食べに行く。戦争時期なら、ロイは凄腕のスパイになれるかもしれない。誰とでもすぐ親しくなり、いろんな情報を手に入れる。どうやら下位解雇システムを導入したのは、副編集長の張紅らしく、噂では、これは社内の派閥争いで、編集長を孤立させる戦法だそうだ。
9月20日火曜日、ロイは素早くプラスチックの昼ごはんを食べ終わり、キャサリンから新しい仕事をもらう前に、昔の新聞紙をちょっと読む。A&E研究所の事件はもちろん報道されたが、地下研究所爆発、研究員数名死亡、生存者二名、以上だ。行方不明の少女、溢れた怪物、そしてロイ達は拉致されたことについて、全く言及されたことはなし。
もう一件爆発関するニュースがある。地下鉱脈のガス爆発、今はネオシャンハイの防衛部が対応中とのこと。ロイの知っている限り、上海には鉱脈がないはずだ。それに、ガスの爆発なら、なぜ軍が動いているのか。しかし、こんなニュースは、新聞紙の角辺り、広告のすぐそばに置いてある。例え本当に単純な鉱坑事故であっても、ヘッドラインぐらいのビックニュースになるべきのでは?
午後の仕事を一段落して、キャサリンはティータイム、もといコーヒータイムに入る。彼女はロイを近くのコーヒーショップに連れて、ちょっと寛ぐ。本当はお茶を飲みたいが、最近の仕事は結構忙しく、コーヒーなら眠気を覚ます。二人それぞれ、カプチーノとアイスコーヒーを注文した。幸い、ここのコーヒーは、それなりにいい出来だ。
「キャサリン、あのさ、下位解雇って、知ってる?」
「あ、もちろん、この前新聞社の新規定らしい。でもあんまり読んでないわ。あれがどうしたの?」
キャサリンはカプチーノをちょっと飲んで、続けて本を読む。
「なら、査定結果一番悪い人は、首になるってことは、知っているよね?」
まるで顔にはてなマークをいっぱい書いているようなキャサリンを見て、ロイは思わずため息をする。しかし、これでチャンス出てくるかもしれない。キャサリンを説得して、査定までいい特ダネを見つけ、記事を書けば、挽回のチャンスはまだあるかもしれない。
2Q、つまり7,8,9月の査定はあと一か月ぐらい。今までキャサリンの記事を見れば、落ちるのに必至。しかし、ロイがどう説明しても、キャサリンはただただ、微笑みながらひたすら頭を振る。
「まさか、もうあきらめたんじゃないだろうな」
ロイは頭を支え、コーヒーの氷を混ぜながら、キャサリンに聞く。
「例えば、すでに派閥闘争に巻き込まれ、上司は編集長派とか?」
これを聞いて、キャサリンの笑顔は急に消え、一気に残りのコーヒーを飲み干し、無言で新聞社に戻った。
何かある!
ロイの直感はそう囁いている。すぐHRの女の子に聞いてみて、またいろいろな新しい情報を手に入れた。確かに、キャサリンには二人の先輩社員がいて、現在二人ともすでにいない。
一人はキャサリン“憧れ”の記者だった。しかし、この前、自宅で自殺した。一応報道されたが、仕事のプレッシャーに耐えずに、自宅でガス自殺とされた。完璧な密室自殺なので、疑う余地はないらしい。彼の自殺をきっかけに、元々編集者志願のキャサリンは、記者になった。
もう一人は、キャサリン最初の先輩で、ベテランの編集者。しかし、突然家が火事で燃やされ、本人も行方不明となった。が、どうやら彼にはもう一軒古い家を持っていたのようで、ロイはしつこく住所を聞きだし、今夜はちょっと調査しに行こうと思う。
夜。失踪した編集者の旧宅、電気はまだついている。まさか家族がまだいるのか? あるいはホームレスの人がすんでいるのか。
ドアをノックしたら、出てきたのは、15、6歳ぐらいの少女だ。ボブヘア、顔が整っている美しいアジア系の少女だ。しかしなぜか、暗い目つきをしている。服も結構きれいだから、ホームレスじゃなさそうだ。
「ハイ、こんばんわ。俺は新年晩報の記者、アシスタントのロイだ。ここは、ていけえしさんのお宅ですか?」
「ていけえし?」
「えっと、TAKEUCHI、読み方はよくわからないけど、TAKEUCHIさんの娘ですか?」
しかし、なぜか、少女は苦しそうな表情になって、そんな人いないと、一言を残し、ドアを閉じる。
キーピックなどなら持っているが、さすがに少女が住んでいたら、うかつに入れない。年齢からみると学生のようで、居ないときにまたお邪魔するかな、とロイは思いながら、TAKEUCHI旧宅を後にした。
あれからの数日、ロイの仕事は結構忙しくなった。なぜなら、大事件が連続発生した。まずは殺人事件、そして、廃棄されたドックビルは大火事が発生し、200人ぐらいの死者が出て、生存者はたったの6名。そのうち、5人は学生で、もう一人は人気アイドル、劉凡菲だった。
社内ほとんどの記者や編集者は動き出した。スポーツニュース担当の人まで一緒に、これらの事件に駆けだす。もちろん、キャサリンだけは仲間外された。が、ほかの事件は、ほぼ全部キャサリンのところに回されてきて、しばらく忙しい日々を送ることになる。
元々あんまり身だしなみをこだわらないキャサリンだが、ここ数日、さらに悪化した。特に髪の毛はひどいものだ。いまだに鳥が巣にされそうな形になっている。一日の取材が終わって、まずはやはりコーヒーショップでコーヒーを嗜む。キャサリンの疲れている顔を見て、ロイはちょっと考えて、そして口を開ける。
「ビックスクープ欲しいか?」
ぼーっとしているキャサリンは、ロイ突然の言葉に対して、ちょっとびっくりする。
これ以上くびや派閥闘争の話を持ち出すと、変な刺激を与えてしまう。なら、ほかの記者たちは大事件の報道に奔走していて、彼女だけがしょぼい内容しか書けないことに突っ込めば、何かチャンスが生まれるかもしれない。
「ほら、ほかの記者たち、最近一番のビックニュースを追ってるぜ。俺たちはなんだ? 廃車処分に関する新しい規定? 高校バスケットボール試合? BMカンパニーがゲーム業界進出? 防衛部は最新兵器を実験? あ、これはいい種……しかし、なぜ記者になったんだ?」
「民衆に真実を伝えるため」
これを聞いて、ロイは急に閃く。
「じゃあ、今までの報道に、真実じゃない内容があったら、どうする?」
「もちろん……、いや、今までの報道は全部真実よ。あなたも一緒にいるのでしょう」
「いやいや、最近のやつじゃないんだ。もっと昔のやつ、もし報道に間違った部分があれば、どうする?」
キャサリンはまた一気にコーヒーを飲み干した。しかし、今度帰ったりはしない。しばらく沈黙すると、
「真実を伝わりたいと思うわ」
よし!内心でちょっとガッツポーズをとって、ロイはカバンから、A&E研究所の記事を載せている新聞紙を取り出し、机の上におく。そしてキャサリンに、自分がネオシャンハイに到着するから、今までの奇遇を述べる。
ネオシャンハイ、外の地域では、パラダイスシティとも呼ばれている。資源はほかのところが比べられないほど豊富のため、災後ではそれなり豊な生活ができる場所だ。しかし、いろんな危険な地域を潜り抜け、高い崖から降りる必要があるから、うまくいける人が少ない。ロイはそれなりに鍛えていたから、無事ネオシャンハイに到着した。
しかし、病院で隔離観察期間、A&E研究所に拉致され、監禁された。
研究所の地下牢では人が行ったり来たりして、一部の人は自分と同じく外来者に見えるが、一部は若くて明らかに学生のようだ。行った人は、二度と戻ってくることはない。実験成功して解放されたのか、それともは死んだのか。
ある日、謎の振動、女の悲鳴、そして地下牢は真っ暗になった。停電のせいで、牢屋の電子ロックは全部解除され、真っ暗の環境で逃げ出そうとしたが、変な笑い声を聞こえ、慌てて隣の牢屋に入って避難したら、大きな穴から地下深くに落ちってしまった。
そして、マスクを付け、小柄の変わった女性も落ちてきて、さらに、イオガンルブン教の教徒、ほかの外来冒険者、超能力の女の子と出会い、5人の脱走劇が繰り広げる。
このおとぎ話を聞いて、キャサリンは全力で頭を振って、まるで信用しない。何度もロイの話を止めようとするが、結局失敗した。
逃走の時、怪物にやられた教徒が復活して超能力少女を誘拐し、そしてロイはマスクレディと一緒に最後の決戦を挑む。結局怪物に吹き飛ばされたが、真っ黒の廊下で、紫色の炎の化け物と、六つ目の緑毛の怪物二匹が、その目で見た。
「緑毛の怪物?」
まだ黄金髑髏の話もしたいが、キャサリンの顔色はちょっと変わったことに気付くロイ。
「え。緑毛の怪物がどうした?」
「目が六つ?」
ロイの頷きを見て、キャサリンはコーヒーをお替りして、砂糖もミルクも入れずに、また一気に飲み干した。
「まさか、ストーンの話は本当?」
ストーンとは、自殺した記者のこと、まさか、彼はすでに緑毛の怪物について、調査し始めたのか?
次回を待て!
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