第八十六話 『最後の一撃は、中二ぽくて』
ドックビル、最後のバトルだ
また前回の続き、ライデンはパクヒュンキュンの体内に突っ込んで、どうやらベヒモスのマナ提供の切断に成功したのように、毒液体と霧の発生量は明らかに減った。が、それでもウイルスの毒は少しずつ一行に迫っていて、しかも、ウタレフの魔力が尽きたのように、バリアが消えた。
片膝をついて、喘息するウタレフ。ちょっとノスフェラトゥを見て、すぐ彼の手を掴む。そうしたら、元々4、50代に見えるノスフェラトゥは、さらに老けて、しかも空気が抜かれた風船のように、どんどん縮んでいく。
これを見て、劉凡菲はすぐ金剛琢を取り出し、ウタレフをノスフェラトゥから離す。
「だめ! こいつはあたしの獲物よ」
「で、でも、彼から魔力をもらわないと、僕たち全部死んじゃうよ」
「知らないわよ、そんなの。あたしはどうしても今回の依頼を果たさなければならないの! さ、さもないと……」
目を丸くして、何かを恐れているのように、劉凡菲のいつも微笑んで元気な表情は、一気に暗くなる。
「じゃあ、行けよ」
諸葛夢はこれを見て、口を挿む。
「お前ならまだここから脱出する力が残っているだろう。ノスフェラトゥを連れて行けよ。あとは、賞金をもらって、じっくりと、地獄化のネオシャンハイを観賞するがいい。一生をかけてな」
諸葛夢の話を聞いて、劉凡菲の動きが止まり、そしてぼーっとする。この隙で、ウタレフはまたノスフェラトゥを掴み、魔力吸収を再開しようとする。それを見て、劉凡菲は再び金剛琢を揚げるが、諸葛夢は彼女の手を掴み、
「これ以上邪魔をするのならお前を殺す。逃げるのは簡単だがな。命を見殺す罪悪感は一生ついていくぞ。外にはお前のファンがいっぱいいるだろう。アイドルなら、ファンを大事にするべきじゃないのか?」
これで、金剛琢を持っている劉凡菲は力を抜き、どうやらやっとノスフェラトゥのことをあきらめたようだ。
一方、ノスフェラトゥはすでに命は風前の灯の如し、そして竹内唯に、最後の言葉を遺す。
「ゆい、強く生きれ、母さんの分まで」
これを聞いて、どう反応すればいいのかはわからない竹内唯であった。記憶はすでに書き換えられ、お目の前の男は父であることはかろうじて思い出すが、今まで一体どんな思いでがあるのかはさっぱりわからない。それゆえか、心は痛むが、涙が出ない。ただただ、白くなっていく男を見つめるだけ。
だが、これでよい、と言っているのように、ノスフェラトゥは穏やかな、満足そうな表情して、やがて灰になる。
これで、魔力は十分だ。ウタレフは立ち上げ、力を貯めて、再度紫炎のバリアを張る。今度は、単純にみんなを守っているのだけではなく、バリアはどんどん拡大し、守りから攻めに転換して、ウイルスやゾンビを焼き払う。最後、炎は傘をも呑みこみ、巨大な傘は亀裂に入り、バラバラになり、そして崩れてゆく。
すべてが終わった。
これで撤退できると思えば、劉凡菲と竹内唯は、地べたに座り込んで、ぼーっとしている。二人にどうやって慰めればいいのかはわからない残りの4人は、仕方がなく、見守るしかない。
「もう終わった。帰ろう」
先に我に返った劉凡菲は、顔の汚れを拭いて、語る。これで一緒にビルを降りようとする一行は、突然、ウタレフの悲鳴を聞こえる。振り返ってみると、ウタレフの体は、数本の鉄骨に貫かれている。
そして、後ろにある傘の残骸で、ひっくり返した傘布は、一行に照準している。中から、またパクヒュンキュンの顔が出てくる。
「よくがんばったな。だが! ネオシャンハイ全部汚染できなくても、てめえらをいかしてかえさんぞ!!」
と言ったら、無数の金属破片や鉄骨が、砲弾のように、一行に発射する。
小劇場内のものはほぼすべて全焼され、残されたのは、数本の柱のみ。一行はすぐ身近な柱に避難したが、それぞれある程度負傷した。
アンジェリナと諸葛夢は同じ柱の後ろで避難しいる。コングリートでできた柱でも、金属破片の攻撃で、亀裂が入り、どうやら長持ちはできないようだ。
「ど、どうするムウ? 相手が弾切れまで待つ?」
確かに一理ある。いくらあのハイテクタワーを吸収したとはいえ、無限に発射できるはずはない。しかし、二人はこっそり柱から頭を出して、前の状況を確認したら、どうやら悠長に待つことはでいないようだ。なぜなら、パクヒュンキュンは鉄片を発射しながら、触手でウタレフを引っ張っている。彼にならまだそれなりのマナを残っているはずだ。呑み込まられたら大変なことになる。
「ムウ、みて、あれは何?」
アンジェリナの指している方向を見ると、パクヒュンキュンの本体に、穴があって、そこから何かが一生懸命出ようとする。よく見ると、ベヒモスだ。
「もし煉獣を手に入れたら、何とかなる」
「でも、向こうの火力が強すぎるよ。うかつに出たら、やられちゃうよ」
しかし、ウタレフはすでにパクヒュンキュンの真正面まで引っ張られた。そして、巨大な破裂音とともに、二人を庇っている柱は粉々になってしまった。
「仕方ない。無理やりでも前に行くしかないか」
重心を下ろし、パクヒュンキュンに突進しようとする諸葛夢だが、アンジェリナは急に飛び出し、正面から彼を抱く。
「な、何する気?」
「アンジェリナが盾になって、ムウを庇う!」
「シャ○ナか? バカ! 串刺しされるぞ!」
鉄骨が飛んで来たら、アンジェリナの小さい体は一瞬貫かれるだろう。それに、女の子に庇われることなど、諸葛夢のプライドは許せない。無理やりアンジェリナを剥がそうとしたら、なぜか、二人の間で、眩しい光が放つ。
閃光手榴弾以上の眩しさで、二人以外の全員、パクヒュンキュンをふくめて、しばらく行動能力が奪われた。
「ち、力が、湧いてくる?」
「な、何よ、女子に抱かれて力が湧くなんて、ムウはやっぱり変態!」
弁解する時間がない。今は好機だと思って、諸葛夢はすぐさまパクヒュンキュンに突進する。
「フハハハハハ! 馬鹿め! 目が見えなくても、てめえの存在が感ずるぞ」
確かに、傘の鉄片攻撃は拡散攻撃だ。真正面に突進すると、必ず射程圏内に入る。それに、小劇場の構造上、左右に迂回することは無理だ。今の諸葛夢なら鉄片の砲弾に対抗することはできるが、それと同時に、前進も確実に阻まれる。
と思っているその時、飛んできた鉄片は収束され、そして方向が変わった。振り返ると、劉凡菲は金剛琢を持って、鉄片を吸収している。これこそ金剛琢本当の使い方だ。だが、劉凡菲の体力だと、長くは持たないはず。
諸葛夢は素早く前進して、ベヒモスにタッチしようとするが、周りはウイルスの毒水がまたあふれてきて、なかなか進まない。
そこで、急に炎が飛んできて、一部の毒水が蒸発させ、諸葛夢の前に、段々と、道が開かれる。今度支援してくれるのは、ウタレフた。体に鉄骨が刺されたまま、かろうじて立って、炎の魔法を使っている。
「ゆ、ゆいを、む、娘を頼んだぞ。若造!」
と言ったら、ウタレフはさらに力を入れ、全力で魔法を放ち、これでやっとパクヒュンキュンまでのルートを完成した。血の上に倒れていくウタレフを見て、諸葛夢はすぐまた突進を再開し、やっとベヒモスを触れた。尻尾を掴んで、引っ張り出したベヒモスは、なんとしゃべった。
「よう、若造。私の肉体はすでにボロボロだが、なんとベヒモスと融合した。」
ライデンの声だ。
「だが、私を引っ張り出しただけじゃだめだ。こいつはあまりにもたくさんのものを吸収してしまった。ほっといたら、空気中の魔力を吸収して、ウイルス生成は再開するだろう。」
「なら息の根を止めてやる」
「同感だ」
ライデンは、紫色の闘気の竜と化し、諸葛夢の手に纏い、二人が同時に力を貯め始める。巨大な力のせいで、16階、15階、14階、地面はどんどん崩れ始める。
「若造、なんかの技名を叫ばないのか?」
「興味ない」
「なら、私にやらせてもらう」
やがて、ライデンは巨中国龍と西洋竜の集合体のような、大な竜と化す。諸葛夢は正拳突きで、竜を発射する。
「わが主よ。仇は取ったぞ! ベヒモス・クラッシュ!!」
激しい振動、紫色の竜は、螺旋状にパクヒュンキュンに激突し、ドックビルはさらにどんどん崩れていく。最後、竜は咆哮しながら、空に突き抜く。そして残されたのは、10階にいるアンジェリナ達と、骨しか残っていない、パクヒュンキュンの屍だけだった。
諸葛夢は、血を吐いて、倒れる。アンジェリナ達も、負傷の上に、数階の高さから落ちたため、指一本も動けない状態になってしまった。
だが、また数体のゾンビが、パクヒュンキュンの毒水のせいで再起し、動けない一行を襲おうとする。が、急に変な踊りをはじめ、そして黒焦げになって倒れる。
朦朧と、アンジェリナは包帯姿のカイ、火炎放射器を持っている警察、そして古天仁を見る。そして、目の前が真っ黒になって、気を失う。
カイやん、終わってからくるとはどういうことやねん、と突っ込みながら。
ドックビルから数百メートル離れて、もう一軒の新築のビルがあり、そこの工事現場に、一人の少女と一人の男がいる。警察が現れたら、やっとドックビルの観察をやめ、二人は会話し始める。
「わがアイドルの吸血鬼回収行動が失敗したとは」
「途中で邪魔者が現れたもの、仕方がないわ」
北条玲は、謎の男と一緒に、簡易な椅子の上に座る。
「しかし、一体何考えているんだ? 蚊でウイルス散布なんで、原始すぎるだろう」
北条玲は、頭を振って、
「いいえ、あの蚊は散布だけじゃなく、指令伝達の機能も持っているわ。しかし、実際に指令を出さずにスタッフ全員昏睡したから、感染者たちは暴走して、狂気の殺人鬼になってしまう。ま、どのみち、失敗の欠陥作であることは間違いないでしょう」
男は納得したのように、背を椅子にもたれ、星空を見ながら、ふと疑問をする。
「にしても、ゾンビ化早すぎない?」
「ウイルスのゾンビ化に詳しいのね」
「いやいや」
男はすぐ話題を変えようとする。
「今回の実験、一体どこのどいつがやったんだ?」
「わからないわ。高度な隠蔽工作をやったんだから、調べるのに時間がかかる。しかし、大体心当たりはある」
「ほう?」
男はすぐ興味津々になって、北条玲の答えを待つ。彼女はちょっと溜息をし、椅子から立ち上げ、再びガラスのない窓際に戻り、
「銭氏製薬か、軍よ」
200人にも及ぶ大事件、関わる黒幕は製薬会社か軍か?また何かの陰謀を感じる。
次回を待て!
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