第八十四話 『吸血鬼の復讐』
竹内唯とベヒモスを喰ったパクヒュンキュンは、無敵になるのか?
私の名前は、竹内隆、45歳。戦争時に避難勧告を受け、中国に引っ越し、新聞編集者をやっていた、ごく一般の日本人だ。少なくとも、つい最近まではね。
災後、インターネットがなくなったため、紙出版物は再び主流となった。うちの新聞紙はそこそこ売れたから、収入は悪くなく、家庭を養う自体が難しくはない。
毎日朝、妻が作ってくれた朝ご飯を食べながら、学校に行く娘を見送る。こういう人生も、悪くないと、私は思う。
第三次世界大戦では、ほとんどの家庭が壊され、命は失われた。地上に戻ってから、新しい家庭を作るのが一般だ。不謹慎だが、この点について、私はラッキーだった。妻も、娘も生き延びれ、災後も幸せな毎日を送っていた。
だが、いつからか、誰かに見られた気がする。誰かが、私を監視している。言っておくが、私はちゃんと法律を守る模範的な市民だ。仕事もちゃんとやっている。そして、一般編集者として、特別な秘密や悪徳企業の弱みを握っているわけでもない。
排除法を使って、私を監視している輩の身分は絞られた。バンパイアハンターか、猟魔人だろう。なぜバンパイアハンターが普通の中年おっさんを狙うって? 私は吸血鬼の生まれ変わりだからだ。
私こそ、かの有名な吸血伯爵、ノスフェラトゥの転生。数十年前、バンパイアハンターにやられ、そしてアジアで転生し、日本人として生まれ変わった。そう、ある有名なビデオゲームでの、もう一人の吸血伯爵と極めて似ている。若ごろあのゲームをやった時、思わず笑ったよ。まさか、ゲーム会社が私をモニターしているのではないかと、思っちゃった。
ただ、違うところとして、第三次世界大戦以外、今まで数十年の人生は、一応平穏だった。どこかの組織が、私の力を欲しがって、私を狙うことはなかった。なぜなら、吸血しない私には、大した力はない。狙っても意味がないからだ。
吸血一族は、人間界でかなり長い時間滞在したためか、魔力を補給手段は吸血だけになってしまった。だから、吸血しない限り、我々は一般人と大差はない。つまり、利用価値もない。
なら、前世でやらかした過ちや罪で、転生してもまた私を追い詰めようとするのなら、ハンターたちは本当にひどいものだ。気のせいだったらいいのだが、万が一のため、私は引っ越した。そして転職も、娘の転校も準備した。ちょうどそろそろ高校生になるので、最高にいい学校を用意した。
だが、結局遅かった。
熱い、体が燃えているのように、熱い。ある夜、燃え盛る炎が、私を目覚めさせた。新しい家は、燃えている。すぐ妻と娘を連れて、外に逃げようとするが、窓などは全部封じられ、壊すのに時間がかかる。
全力で窓を破っているその時、火の海の向こうに、逞しい人影が見える。片手で、まだ火を遊んでいる。そして、首には、虎の頭の入れ墨がある。
やっと窓を破り、妻女を救い出したが、彼女たちの火傷はひどく、今の医学条件では、救えることなどはできない。私に残されたわずかの力では、一人だけが、救える。
あなた、娘を
妻からの、最後の言葉だ。あの時の状況では、私に躊躇う余裕すら与えてくれなかった。娘を救うなら、彼女を吸血鬼にするしかない。この行為は、彼女の人生を狂わせてしまうだろう。だが、生死の前では、私に選択肢はなかった。
もう二度と使わないと思われた牙。再び使う時の対象は、自分の娘だったとは。
消防隊が駆けつけたとき、我が家はすでに燃えカスとなった。私一人で、妻の遺体と、昏睡している娘を連れ、その場を後にした。
旧宅に戻って、まずは妻を埋葬した。そして、娘に新しい記憶を植え付けないといけない。吸血鬼として同化された人は、記憶も同時に失う。だから、昔なら、自分に有利な新記憶を植え付け、相手を自分の下僕にする。
だが今回は違う。娘を私の奴隷にしたいわけではなく、昨日の惨劇、妻の死、そして私の生存を、忘れさせようと考えた。他の若者と同様、戦争の孤児として、新しい人生を始めさせようとした。
娘に最低限の記憶を植え付けたら、私はその場から去った。
竹内隆という男は死んだ。これから私は、吸血鬼、ノスフェラトゥだ。
復讐。私の脳内に、残された言葉は、これしかない。しかし、バンパイアハンター、あるいはさらに強い猟魔人と対抗するには、私は力が必要だ。私は、血が必要だ。
では、だれの血を吸えばいいのか。私の復讐のために、だれが犠牲になっていいのかは、私を悩ませた。人間になってから、私の価値観も、大分変った。街で、たまに私の前に通りかかる若者はいるが、どうしても口が出せなかった。
なら、もっと屑な人間、社会的には不要な人に手を出せば、若干であるが、良心的に、納得できるのだろう。しかし、これもまた難しいことだ。災後、人口の激減によって、労働力が足りない。若い学生たちだって一生懸命働く。食いつめものはほとんどいない。というか、こういう人はネオシャンハイから追放されるとの話は、聞いたことがある。
だが、やっと一人、見つけた。黒人の警備員で、週二日しか働かずに、残りの時間は全部遊んでいた。この人なら、殺しても大した影響なかろうと、私は思った。
何度も何度も悩んだが、彼を尾行し、あるバーでの会話は、私の決意を固めた。会話では、彼は自分のボスにある依頼を引き受けた。そして彼のボスは、虎の頭の入れ墨を持つ、火を操り達人だ。
そしてあの夜。私は彼の住宅で、彼を襲った。部屋のノートで、これからあのボスが登場する時間と場所を確認し、彼の血を吸って、若返りした。力を取り戻したと同時に、憎むべき仇の居場所も突き止めたとは、運命はまだ私を見放さなかったのようだ。
昨日の夜、私はドックビルに来て、魔力に反応する結界と、魔力所持者を魔幻空間に閉じ込める罠を作ったが、あいつはかなり狡猾で、引っかからなかった。ライブの200人はほぼ全員揃ったのに、罠は全くの無反応だった。
なら自ら出撃してみたが、あの小劇場で、混雑な状況では、あいつを見つかるのは至難の業だった。なら、催眠魔法を使って、全員昏睡させたら、これで、じっくりと探せる。
しかし、あんなにたくさんの人を一度に昏睡させるには、かなりの魔力が必要だ。発動したら、私はまた血を補充が必要となる。だから、途中で若者二人を拉致し、死なない程度で吸血するつもりだが、途中で、女野良猟魔人と、彼女の子分が現れた。
それからのことは、思い出せない。たぶん、昔の邪念は、また私を操って、彼女たちと戦ったのだろう……
そして、いろんなものを見た気がする。妻の幽霊と娘を見た?
「おい、吸血伯爵様よ、いつまで寝てる!」
あの子分の声だ。目を覚めたら、私は何かに包まれている。ジェリーかコンニャクみたいなものだ。外では、女猟魔人と子供たちは、倒れている。そして上に立っている銀髪の子分は、私に向かって、叫んでいる。
ちょっと叫んだら、巨大な手が、彼を掴み、地面に数回叩いて、そして捨てた。まだ状況を把握できていないのだが、私の視線は、あるものに釘付けられた。巨大なものの後ろに、入れ墨がある。
虎の頭だ。私は絶対に忘れられない、虎の頭だ。
新元4年9月23日、ドックビル屋上、城の塔内。パクヒュンキュンは、隙を狙って、調子の悪い竹内唯と、手に持っている煉獣ベヒモスを食った。
たくさんのマナを取り込めば、ウイルスを中和して、元の姿に戻れると思ったが、ベヒモスのマナが多すぎたのせいか、力がそのまま暴走し、パクヒュンキュンはさらに巨大なモンスターに変化した。
危ないところ、劉凡菲は戻ってきた。パクヒュンキュンと再戦を始めたが、今の彼には勝てるはずもなく、努力はしたが、結局吹き飛ばされ、気を失った。幸い金剛琢があって、重傷には至らなかった。
やけくそとなって、その場の全員を喰おうとするパクヒュンキュンは、急に気づく。二人が足りない。金髪と銀髪、結構特徴的だから、一発で分かる。すぐ周りを確認し、扉から逃げているアンジェリナを発見した。残った三人は後回し、先にアンジェリナを捕まりに行く。
しかし、パクヒュンキュンはまださらに巨大化した自分の体になれてないようで、扉に引っかかれた。身動きが取れないその時、諸葛夢が、上から飛び降りる。
諸葛夢は、手に女児おもちゃを持ち、ボタンを押したら、ボロボロの魔法少女ステッキになる。魔法でそれを強化し、ナイフのように、パクヒュンキュンの体に刺して、そして切り下す。中から、ノスフェラトゥと竹内唯が見えてくる。
ノスフェラトゥはすでにボロボロのようで、竹内唯は食ったばかりからか、気は失ったがまだ無傷だ。しかし、諸葛夢はどう引っ張っても、二人はびくともしない。パクヒュンキュンはあともう少しで扉から抜け出せる。ノスフェラトゥに微かの反応があるのを見て、諸葛夢はある賭けをした。
今夜いろんなことを見てきて、ノスフェラトゥについて、諸葛夢は何となく彼のことをわかってきた。少なくとも、彼の動機、彼の怒りは、わかる気がする。そう考えると、諸葛夢はノスフェラトゥにむかって、叫ぶ。
「お前の妻を殺した犯人はここにいる! そのまま食われていいのかよ! おい、吸血伯爵様よ、いつまで寝てる!」
まだ呼び掛けている途中、パクヒュンキュンは急に諸葛夢を捕まり、地面に何度もたたいて、そして遠いところに捨てた。
引き続きアンジェリナを追いかけようとするパクヒュンキュンだが、後ろの切り目から、突然、ノスフェラトゥが抜け出した。片手は竹内唯を引っ張り出し、片手はパクヒュンキュンの首を絞め、そして絶叫する。
「リサを殺したのは、貴様か!!!!」
転機到来か?戦いの結末は?
次回を待て!
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