第七話 『落ちこぼれ貴族』
同業中学に到着したアンジェリナ一行は、思わぬ人物と出会う。
同業中学、倉庫から遠くないところに、4人の若者が立っている。アンジェリナ、諸葛夢、カイ、そして緑髪の生徒らしき人物一人。
その人物は緑のリーゼント髪型で、紫色ジャージの上に白衣という、なんとも言えない姿だ。
「あ、林宇、お久しぶり」
林宇、戦争時、地下避難の時にアンジェリナが知り合った人だ。元々シャンハイ一の大富豪林傑豪の息子だが、戦争の時、すべてを失い、現在は同業中学に通っている。
「覚えていくれて光栄だな、雪姫」
「覚えるって、昔の仲間じゃない?」
「誰が仲間だ?」
あんまり友好的じゃない態度だが、アンジェリナはふざけ始める。
「林宇がよ」
「いや、そういう意味じゃなくて、俺はあんたなんかの仲間になった覚えがないぞ!」
「やだ、林宇って物忘れが激しいのね!ストレス?」
アンジェリナはボケ続けるが、林宇はなぜか反撃し始める。
「そうだよ。最近めちゃ徹夜してて、ってちがう、そういうわけじゃなくて……」
ボケツッコミだった。
「まあまあ、とにかく、林宇、ここの倉庫管理者、あるいはコンピューター研究関係者って、知らない?」
「スルーすんな。そのコンピューター研究関係者っていうのは俺なんだけど?」
林宇が白衣をする理由はわかった。似合ってないが、一応彼の身分を表している。
「よかった。ちょっとお願いがあるんだけど……」
「断る!」
「まだ何も言ってないんだけど」
林宇は腕を組み、
「あんたのことだ。どうせろくにない願い事だろう」
「おい、なんだよその態度は!」
堪忍袋の緒が切れて叫んだカイだが、アンジェリナは彼を全力で止める。しかし、向こうの林宇はちょっとビビった。同じジャージ姿で、身長は自分のほうが高いのに、明らかカイのほうが逞しい。しかも後ろにもっとデカいやつが控えているからだ。
「とうとうシッポ出したな! 司馬のお嬢様よ。やはりあんたたちは俺の研究成果を強奪してきたな!」
「研究成果?」
ポカンとしたアンジェリナだが、
「とぼけやがって、そっちはその気なら、こっちだって対策があるんだ。いでよ、わが鉄甲軍団!」
「徹○の軍団?」
「言ってねえよ!」
カチャカチャカチャカチャ
林宇の号令で、金属の足音らしき音が聞こえてくる。しかも一個ではなく、複数の方向から、乱雑に聞こえる。
何が来るのかはわからないため、三人は警戒し始める。
カチャカチャカチャカチャ
しかし何も来なかった。足音だけが続いている。
じー
アンジェリナは林宇を睨む。
「ど、どうした、司馬のお嬢様よ。お、怖気づいたか?」
「何も来てないんだけど……あのね、アンジェリナ次の授業があるから、物を借りって帰っていい?」
「ま、まって、もうすぐ来るから!」
林宇は慌ててアンジェリナを止める。
「じゃあ、待てばアンジェリナの願い事を聞いてくれる?」
「ま、まあ、話だけならな……」
「わかったわよ。待てばいいでしょ。」
アンジェリナは諸葛夢とカイを連れて、道端で休憩し始める。
さらに二分後。
やっと、あちこちの通路から、数台のロボットがゆっくりと歩いてきた、ゆっくりと。二メートルぐらいの高さで、内部の構造はほぼ丸見えの二足歩行ロボットだ。体のごく一部は装甲で覆っていて、装甲部分はきちんと塗装されている。
これを見て、アンジェリナと諸葛夢の二人は、目がキラキラし始める。
全部揃うにはさらに数分かかった。二十台ぐらいあるが、あとに来たロボットのほうは完成度が低く、未完成か、特定機能テスト用のものとみえる。
よく出来ているのは数台だけだが、すべてのロボットは武装されている。手に剣、斧、槍などの接近戦武器で、肩や股間などの部分に銃らしきものがある。当然本物の銃ではなく、エアガンだ。
これを見て、ずっと我慢しているアンジェリナ急に飛び上がった。
「か」
「か?」
「かっこいい!!!!」
とアンジェリナは興奮して叫ぶ。
「へ?」
「林宇、このロボットたち、アンジェリナ触っていい?」
「しまった! 忘れた。こいつこういうのが慣れっこだった!」
林宇の許可を待たずにアンジェリナは一台のロボットに走った。
「危ない! 近づくな!」
時すでに遅し、林宇の叫びとほぼ同時に、このロボットは、剣でアンジェリナに切りかかった。
緊張の一瞬
カイはすぐ構え、アンジェリナにダッシュしようとする。ロボットは殺気がないせいか、魔獣との戦いで疲れたせいか、カイと諸葛夢は危険を察知できなかった。
頼む、間に合ってくれ、とカイは心の中で叫んだ。
が、すべての緊張や心配は無駄だった。
なぜなら、歩くと同様、ロボットの切る動作もすごくとろく、アンジェリナはその切りを軽くかわし、ロボット腹部の電気回路をちょっといじって、機能停止させた。
危険を察知できなかったのではなく、そもそも危険はなかった。
「お、おい! 何する気だ!」
「大丈夫、動力源一旦切っただけだよ。それにしても、このロボット、すっごくかっこいいな!」
「お、おだてても何も出ないぞ」
林宇は赤面して、頭を掻く。
「ねえ、林宇、これらのロボットたちは、プログラミングされたの?」
「う、うん、時間ないから、簡単なもんだけだけど」
「じゃあ、同業中学はすでに新メディア開発成功したの?」
アンジェリナはびっくりする。
「ああ、容量は小さいけど、一応な」
「すっごいな! でも、関節はやぱり旧式のもの使ってたのね。どおりで動きが遅いもん」
「ほっとけ」
アンジェリナはロボットの関節をいじりながら、
「電磁式関節に変えたら結構動きやすくなるよ」
「電磁式? あれはもっと遅いじゃない?」
「むかしはね」
「あ、そうか……」
林宇はすぐ理解して、拳で掌を叩く。
「でも本当にすごいよ。林宇えらい! めちゃくちゃかっっっっこいいものみせもらったよ。」
「ま、まあな、まあ、先あんたも確かに借り物って言ったしな。じゃあ頼み事一応聞こう……」
「ロボット一台借りてっていい?」
「ちがうだろう」
後ろに立っているのにおもわず突っ込んだ諸葛夢。
「うわ、あいつ、しゃべれるんだ。ってふざけるな! 貸すわけないだろう!」
「てへ、まちがっちゃった。旧メディア、数枚借りていい?」
アンジェリナはてへぺろして、自分の頭を叩く。
「え? なんで、旧メディアなら、新元学園は一番たくさん持ってんだろう?」
「いやあ、面目ない。ちょっと事件があって、新元学園のものは全部燃やされちゃって」
「え? 新元学園も?」
新元学園も? まさか、ほかの学校の物も燃やされた?
次回を待て!
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