第七十七話 『吸血鬼の城はお化け屋敷』
一方その頃
新元4年9月22日深夜、あるいは23日夜明、暗い地下牢にいるから、はっきりとわからない。諸葛夢は、地べたに座って休憩する。“郭小宝”は、彼にマッサージする。
ちょっと前、三人は蝋人形から武器を探しているとき、飛田俊は急に叫ぶ。その叫びは絶叫虫の注意を惹き、大量の蟲が彼らのいる牢屋に向かう。状況がまずいと思って、諸葛夢は仕方なく、蝋人形を飛び道具として、絶叫虫に投げ飛ぶ。
見た目は蝋人形だが、なぜか本物の人間よりはるか重い、鉄でできたといわれても違和感がないレベルだ。しかも、全力で高速投げないと、威力が足りないうえ、風圧のせいか、絶叫虫に気付かれそして避けられることもある。
一分もない時間で、諸葛夢は二十体ぐらいの蝋人形を投げ、これでやっと絶叫中の群れを仕留めた。蝋人形にぶつかれて死んだ蟲は爆発し、ワープゾーン発動する。そして残りの蟲を転送したり、切断したりする。これでやっと、金属の足音は消え、地下牢は再び静かになった。
“郭小宝”を背負ってジャンプしたり、狼男と吸血鬼と激戦したり、今度は金属蝋人形を投げまくって、さすがに疲れて、諸葛夢はすぐ座って、休憩する。
努力のご褒美として、“郭小宝”はすぐ諸葛夢の背中を叩き、肩を揉んで、体力回復に手伝う。が、数回やったら、諸葛夢は彼女の手を解く。“郭小宝”が怒り出す前に、飛田俊はまず諸葛夢に愚痴る。
「おい、バカデカイの、凡菲姉がマッサージしてくれるのは、男ならだれもが夢にでも見たいことだよ。なんだよその態度は!」
そしてすぐ“郭小宝”に、
「あ、凡菲姉、僕も背中が痛いです。あんな朴念仁じゃなくて、僕にマッサージしていただけないでしょうか!」
“郭小宝”は、飛田俊にゲンコツ一発。
「あ、ありがとうございました!」
「凡菲姉?だれ?」
諸葛夢は無表情に聞く。
「えええええ?あ、ああ、あんた!国民、じゃなくて、全人類アイドルの劉凡菲も知らないの?さて、ずっと引きこもってゲームばっかりやってたね。流行りのものは全然わからないタイプだ。キモオタだ!」
「ただ興味がない、それだけだ」
諸葛夢は立ち上がり、体を動かす。そして劉凡菲に、
「人気アイドルだから偽名を使うか」
「いやいやいや、本当は顔見られたら一発バレるけど。でも夢ちゃんは全然反応がないから、ちょっとからかおうかな、って思ったよ。でもあたしの人気もまだまだだね。だって全然知らない人もいるもん。」
「そんなこと全然ありませんよ。凡菲姉。実は、ぼくのガールフレンドは凡菲姉の大ファンでして、ちょっと、サインもらっていいですか!!」
「そんなことやっている場合か?」
諸葛夢は飛田俊の頭を掴み、
「あの女子生徒は?」
「知らないよ。目開けたら僕一人だからさ」
「どうする?夢ちゃん?あの子を探す?」
諸葛夢はちょっと考えて、
「できる限りな」
絶叫虫対策として、先ワープゾーンに切り落とされた蟲の足を数本拾い、これらの足はナイフのように鋭く、手裏剣のように飛び道具として使える。
二人を連れて行動するのは危険だ。とりあえず出口を探しながら前の女子を探すつもりだが、結局地下牢辺りに彼女の姿はなかった。
だが、これで分かったことはある。地下牢の地形は大体ドックビルの地下駐車場と一致する。つまり三人は今まだドックビルにいる。では上の一階辺りに行ったら、出口はあるはずだが、結局出口もなかった。
地下牢から出て、一階からの建物は、本当にヨーロッパ風の城になる。大きな石でできた部屋や階段がいっぱいあり、木造の家具もあちこちに設置されている。ロウソクの光で照らす建築物から、灰色のせいか、寒気が感じる。
幸い、敵の気配はない。しかも部屋が多いけど、ゲームみたいに、入れないダミーの部屋が多く、構造自体も簡単だから、道を迷ったりはまずない。だが、これで三人に残された道も一つだけになる。
上だ
仕方がなく、二人を連れて、さらに上に登るしかない。しかし、これでまた一つ、わかってきた。諸葛夢は幼稚園の先生に向いてないことだ。劉凡菲と飛田俊の行動はバラバラで、全く彼の言う通りに行動してくれない。
色んな部屋に見物して冒険する飛田俊に対して、劉凡菲は上に目指すだけ。色んな階段を切り替わり、ひたすら上を目指す。
いくら敵の気配はないとはいえ、本当に安全との保障もない。諸葛夢は、すぐ劉凡菲のあとにつく。とにかく彼女を止め、一緒に飛田俊を待つつもりだ。
追いかけているとき、下から足音が聞こえる。飛田俊だ。猛スピードで階段を登る。やっとチームワークが理解できたと思えば、飛田俊は二人を無視して、さらに上に登る。お化けだ女幽霊だといいながら。
諸葛夢と劉凡菲はすぐ下を見る。確かに黒い影は素早く迫っている。
長い髪で目が見えないが、大きく開けている赤い口だけは強調される。体のラインからは確かに女性に見えなくもないが、手足が非常に長く、体に赤いあざがいっぱいある。
これを見て、諸葛夢はすぐ絶叫虫の足を投げるが、何もないように、女幽霊の体をすり抜ける。
幻影か?
しかし、次の瞬間、二人は自分の考えは間違っていることを知る。女幽霊は一瞬に接近し、左手は諸葛夢、右手は劉凡菲、二人の首を絞め、そして持ち上がる。
女幽霊の力はかなり強い、これ以上絞められたら、首が折れる。諸葛夢はすぐ蹴りで反撃して、なんと、今度はちゃんと女幽霊の顔に当たって、やつを蹴り飛ばす。
普通の人なら、このキックで頭が体と分離するだろう。しかし、女幽霊は大したダメージを受けてないようで、逆に怒り出して、咆哮しながら二人に向かう。
まずいと思って、諸葛夢はすぐ劉凡菲を連れてさらに上に逃げる。しかし、これではいずれまた追いつめられる。劉凡菲に先ににげろっと指示を出し、諸葛夢は女幽霊に応戦する。
再度キックを繰り出すが、女幽霊は諸葛夢の足を掴む。だがこれは狙い、諸葛夢体が回転しながら、慣性を借りて、もう一本の足で、女幽霊の顔にキック。
だが、この蹴りは前の蟲足と同じく、女幽霊の顔にすり抜け、逆にまた捕まられる。女幽霊は諸葛夢の両足を掴み、彼の体を持ち上げ、そして階段に力強く叩きつける。
この一撃はかなり重く。諸葛夢は血を吐いて、石の階段も、かなりの亀裂が入る。女幽霊はすぐ追撃し、諸葛夢を乗っかって、数回の顔面ハンマーパンチしたら、また彼の首を絞める。
何度も反撃を図るが、思い通りに敵に当たらず、すべてのパンチは女幽霊の体をすり抜ける。
なるほど、ホラー映画や小説で、人が幽霊に恐怖する理由はわかった。幽霊はあなたを殺そうとするとき、物理的に反抗はできない。一般人なら確かにどうしようもない。そして、今の諸葛夢はその一般人に入る。
人は死ぬとき、走馬燈が見える。諸葛夢も、もちろんたくさんの人物を見た。自分の両親も、姉も、よく知らない人も、そして自分自身も?
目を開けると、前にいるのは知っている人、劉凡菲だ。
「夢ちゃん、死なないで! まだあたしに親孝行してないでしょう?」
「誰がお前に親孝行だ?」
ちょっと咳をして、やっと空気が脳に入れる諸葛夢は、劉凡菲の手を掴み、やっと立ち上がれる。周りの状況を見て、
「何が起こった? あの女幽霊は?」
「知らないわよ。あのお化けは、夢ちゃんを乗って叩いたり絞めたり、しかし突然、地面に陥ったわ」
「地面に?」
「そうよ。夢ちゃんの体と階段をすり抜けて、下に陥っちゃった」
なら、あの女幽霊はまだ登ってくる可能性は十分高い。ここにずっといるのは危険だ。ちょっと口元の血を拭き、再度深呼吸したら、諸葛夢はまた劉凡菲を連れて上に登る。
もうちょっと登ったら、大きなドアがあり、休憩を重ねて、いったんドアの中に身を隠す二人。それに、ここに失踪した女子がいるかどうかも、確認したい。
確かに一人いる。しかしいるのは、飛田俊だ。
飛田俊を見かけ、二人同時に彼を蹴る。劉凡菲は先に話す。
「ガキ! 先何やったのよ。なぜあんな女のお化けを連れてきたのよ」
「あ、ありがとうございました!って違う。実は、僕も知らないですよ。下の壁に変な、虎の頭の模様があったんですよ。ちょっと触ったら、髪の毛がでて、そして髪の毛を引っ張ったら、あのお化けが出ましたよ。」
「「虎の頭?」」
「そうそう。実は、今日のライブ会場でも、首の後ろに、同じ模様の入れ墨の人を見かけたんだよ。坊主頭、筋肉ムキムキの男、だからおかしいなと思って、思わず触ったんですよ。あ、それそれ、それと同じだ」
飛田俊の指さきに指しているのは、空中に浮かんでいる模様だ。この模様なら、諸葛夢と劉凡菲もよく知っている。この前狼男と戦う前に、巨人国の部屋でも同じ模様が浮いていた。確かに、よく見ると、花などではなく、虎の頭だ。
では、これからの起こることは、二人とも何となく予測できる。
虎の頭の模様は、すぐ眩しい光を放ち、やがて無数の火花が跳びまわる。あっという間に、三人のいる部屋は、火の海と化す。
すぐ逃げようとするが、悲鳴のような奇声とともに、女幽霊は火の海から現れ、三人に襲い掛かる。
また女幽霊に襲われる。全く手ごたえのない相手に、諸葛夢はどう出る?
次回を待て!




