第七十六話 『再会と別れ』
一行はさらに上に登り、キムチェヨンを追う。そして残りの階層は二。
前回の続き、一行六人は、キムチェヨンを追って、さらにドックビルを登る。
一番先はパクヒュンキュン、次はアンジェリナと見張り役のジェイ。さらに後ろは竹内唯、アイザックとウタレフだ。竹内唯の手はまだ縛られている。
アイザックの話では、アンジェリナにボディチェックしてワクチンがないと確認したら、ジェイはそれを信用せず、自らアンジェリナを触ろうとすると、二人は喧嘩になってしまった。そして喧嘩の時、竹内唯は急にジェイを押し倒し、嚙もうとするが、ほかの二人がかろうじて彼女を止め、縄で縛った。ウタレフも何度も邪魔したから、一緒に縛った。
本来ならそのまま焼き殺してもいいんだが、せっかくのモルモットだ。後で本物のワクチンが見つけたら、まず彼女に試すつもりだ。
アンジェリナを信用してないジェイは、ショットガンを握り、変な動きをしたら、すぐ射撃するつもりだ。殺せないが、それでも威力は小娘を余裕に一撃で倒す。
一番前に歩くパクヒュンキュンは、歩きながら火炎放射器の爪痕を数える。
「これはな~に?」
好奇心で、アンジェリナはパクヒュンキュンに聞く。
「ああ、三戦の時俺は傭兵だった。あの時の習慣さ。殺した敵数を記録するんだよ」
アンジェリナはちょっと数えたら、怒って、
「そんなにたくさんの人殺したの?」
「人じゃなくてゾンビ」
「ゾンビ殺してもダメ!」
パクヒュンキュンはアンジェリナを見て、笑いながら、
「お嬢さん、まさかゾンビにも人権がある!っていいたいわけじゃないだろうな」
「そうでもないけど、でも、何かの治療法で治れるかも知らないじゃない?」
「ないね。これぐらいはよく知ってるよ」
パクヒュンキュンは、笑いながら頭を振る。
「とにかく、今俺たちもウイルスに感染されてたんだ。早くワクチンを見つかれなければ、俺たちもゾンビ仲間入りだ。あの女のようにな」
急に口を挿むジェイ、後ろの竹内唯を指して語り、そしてパクヒュンキュンに、
「兄貴、ゾンビはあとどれぐらいですか?」
パクヒュンキュンはちょっと火炎放射器をみて、
「あと50体ぐらいだ」
上に残ったのは16階と屋上の17階だけ。つまり待っているのは激戦だ。ジェイも緊張して、ショットガンの弾を再度確認する。
16階の小劇場、今日のライブ会場、非常用電源があるから、一部のスポットライトはまた機能している。元々は若者たちが歌ったり踊ったりの社交場か、芸術を求めて自分の作品を披露する展示場だったが、今は暗くて気味の悪い大部屋としか見えない。
暗いから、あっちこっちで人がいっぱい倒れている。人なのか、狂人なのか、それともゾンビなのかがわからない。ギリギリで、服装とかはみえるから、その中の数体は、前に15階でロウが引き付けたゾンビと一致する。もしかして、ここまで誘導して、そして倒したのか。
どうやら、ここにもキムチェヨンいないようだ。では、火を放ち、ここの死体を全部処分すべきか。しかし、万が一、ワクチンがここに落ちったら、一巻の終わりだ。
死体に囲まれて悩むのも怖いものだ、いつゾンビとして復活して一行に襲い掛かるのかがわからないから、とりあえず小劇場から出て、次の行動を相談しようと、パクヒュンキュンは提案する。
しかし、ドアの辺りに戻った瞬間、一対緑の光が、一行に睨む。
(ロウちゃん?)
アンジェリナは、真っ先に巨大ハスキーを思い出す。大きさ的には間違いない。では今すぐでもロウを抱いてなでなでしたくて、アンジェリナは光に向かうが、すぐパクヒュンキュンに止められた。
巨大な犬から、うーっていう、低い鳴き声を放つ。それはどういう意味か、犬を飼っているアンジェリナならよくしている。犬が相手に警告、敵意を持つっていう意味だ。
(まさか?)
一番なってほしくない状況が、まさか起こってしまったのか。まだ考えているその時、緑の光は、急にパクヒュンキュンに襲い掛かる。
よけきれないと思って、パクヒュンキュンはすぐ火炎放射器でガードする。これで噛まずに済んだが、それでも勢いで倒れた。さらに、ゾンビ退治の時と同じく、ロウはパクヒュンキュンのズボンを咥え、そして投げ飛ぶ。背の結構高いパクヒュンキュンも、結局ゾンビたちと同じく、空に飛んで、そして地面に落ちる。この一投げで、パクヒュンキュンの動きは止まった。が、ロウはすぐさまに、追撃する。
パンパン
二発に銃声。ジェイのショットガンから、白い煙が漂う。しかし、目の前にロウはいない。が、微かに足音が聞こえ、時々くらい環境から、緑の光が見える。足音を追って、ジェイは部屋中にショットガンを乱射した。しかし、全く命中の様子がないうえ、元々数発しかのこってない弾も、すぐ使い果たしてしまった。
それでもあきらめずに、ジェイはすぐパクヒュンキュンの火炎放射器を拾って、再度攻撃しようと思ったが、トリガーを引いても火が出ない。燃料タンクを確認したら、空っぽだ。
その時、ロウは突然ジェイの後ろに現れ、同じくズボンを齧って、投げ飛ばした。しかし、今回の投げ、大した力がないか、ジェイは別に気絶しないし、逆にパクヒュンキュンに当たり、彼を目覚めさせた。
二人はふらふらして立上げ、手ごろな武器を取り、ロウと戦闘し始める。
隣で観戦しているアンジェリナは、途方に暮れる。どっちに加勢すべきかは、わからない。ロウは感染されて発狂している可能性はあり、パクヒュンキュンは信用できない。なら、まずはワクチンを探すべきか。
乱戦のチャンスを狙って、アンジェリナはすぐほかの三人を連れて、小劇場から逃げ出す。でたら、まず竹内唯の縄を解く。アイザックは止めようとするが、アンジェリナにビビッて、結局できなかった。
「あたしがゾンビ化してあなたたちを襲うことは怖くないの?」
解かれながら、竹内唯はアンジェリナに聞く。
「感染されているならまずは狂人になるでしょう。それに、本当にゾンビ化したら、これぐらいの縄はやくに立たないの。この前襲われた時わかったし」
「襲われた?大丈夫?」
「うん、危ないところ、ロウちゃんに救われた?」
「ロウちゃん?」
もしロウは本当にウイルスに感染されたら、すべては自分のせいだと思って、アンジェリナは黙り込む。ちょっと小劇場の方向を見て、すぐ三人を連れてさらに上に登る。
17階、屋上。すべてはめちゃくちゃになっていて、まさにカオス状態だ。
戦争時に削られた階層に、あちこちに壁や内装物がすこし残り、星光の下で、気味が悪い。真ん中付近に、巨大な機械タワーがあり、上から照明ライトが、辺りを照らす。光の届くところに、炎が燃え盛る。そして、炎の後ろから、石造の階段があり、階段の頂上には、古きヨーロッパ風の塔がある。
機械タワーの真下、照明ライトと炎の光で、機械をいじっている一人の人影があり。あれはアンジェリナも、竹内唯もよく知っている人物、キムチェヨンだ。
「チェヨンさん!何やってるの?」
「こないでください!」
前に出ようとするアンジェリナであるが、キムチェヨンは彼女を止める。
「チェヨンさん、先持ってたあのビュレット、もしかしてワクチン?今もってる?」
キムチェヨンは何も答えずに、黙る。
「じゃあ、今操作している機械は?」
やはり黙る。
なら、適当に当てよう。機械タワーの上に、数本のアームがある。アーム上は照明ライト以外に、数個の放射口がある。放射口はちゃんとケーブルなどで、タワーの本体とつながっている。もしこのタワーはジェットエンジンを積んだロケットなら、たぶん世界一番飛べないロケットになるだろう。現に、今ロケットなどは飛べない。なら、可能性はただ一つ……
「あ、もしかして、あれはウイルスの散布機械?」
別に悪意を持って言っているわけじゃないが、アンジェリナは間違った言葉を選んだ。
「やっぱり、あたしは悪人と思ったのですね……」
また、しばらくの沈黙。
しかし、すでに感染されているアイザックにとっては、今は死活問題だ。キムチェヨンの反応にかまわず、竹内唯とウタレフをリードして、辺りを捜査し始める。
キムチェヨンは慌てて三人を阻止しようとするが、後輩の竹内唯ならともかく、同年代の男性、しかも彼女以上に肥満体のアイザックの前で、手も足も出ない。アイザックは機械をいじろうとしたら、キムチェヨンは仕方なく、叫ぶ。
「やめて!!!勝手にいじったら、このビルの感染者、生存者たちは、本当に救えなくなりますよ!」
これで、三人はやっと止める。四人一斎、キムチェヨンを見る。そしてアンジェリナは、
「つまり、本当にこれは散布機械で、チェヨンさんは、ワクチンを散布して、みんなを救おうとするのね」
キムチェヨンは頷く。
「信じて、いいよね」
また、頷く。
「じゃあ、やっちゃって!」
アンジェリナはほかの三人に合図を送って、無理やり捜査しようとする三人は、やっと止める。これで、キムチェヨンはすぐまた作業再開する。
しかし、まだ作業している途中、急に炎から鉄棒が飛んできて、キムチェヨンの体を貫く。
ワクチンを散布し、みんなを救おうとするキムチェヨンだが、飛んできた鉄棒に貫かれる。果たして、一行の運命は?
次回を待て!