第七十五話 『変異の予兆』
ドックビルに行って、キムチェヨンを探すのが、アンジェリナの目的だ。参加者リストを盗み見したら、キムチェヨンの名前が載っていなかった。ならビルから脱出すればいいと思ったが、結局地下駐車場で、彼女を発見した。
キムチェヨンを追ってビルを再度登るが、狂人がゾンビに変化することを目撃し、襲われそうになったその時、巨大な犬、一匹巨大なハスキーに救われた。
ハスキーの特徴的なオッドアイや耳などがなければ、アラスカン・マラミュートと言われても違和感アない。むしろ、でかいアラスカンマラミュートと誤解されるぐらいの体型だ。狼と似っているから、アンジェリナは彼をロウちゃんと呼ぶ。
ゾンビに襲われそうになった時、キムチェヨンは非常用階段に走ったから、すぐロウを連れて、階段に向かう。まだ走っている足音が微かに聞こえるから、たぶん上に向いている。そんな危険なところ、なぜ上に向かうのか、疑問を抱いて、アンジェリナも上に登る。
ロウと同行したら、ゾンビと狂人の脅威はほとんどなくなった。いくら強靭のゾンビであっても、おもちゃのように、ロウに投げ飛ばされて、しばらく再起不能になる。狂人の場合、一吼えだけで、攻撃が止まる。
これで、結構楽に15階に到着したが、キムチェヨンはゾンビから逃げるため、休憩室に入ったが、十数匹のゾンビが外でドアを叩いている。この休憩室はこの前アンジェリナが休んだ部屋で、中に重い家具などは少なく、長くはもたないはずだ。
数匹ならロウは簡単に退治できるが、十数匹はやはり難しい、そして、何より心配しているのは、ホラー映画のように、ゾンビにかじられたら同じくゾンビ化現象があれば、乱戦はやはり危険だ。
ロウは自分の言葉何となく理解できる気がするアンジェリナ、しゃがんで、
「ロウちゃん、あのゾンビたちを引き付けてくれる?でも、引きついたら逃げるのよ。戦っちゃダメ、わかる?」
ちょっとロウの頭を撫でて、アンジェリナはドアを叩いているゾンビを指し、そして下に向かう階段を指す。ロウは理解できたみたい。すぐ休憩室の前に吼えて、ゾンビたちの注意を引く。そして一二匹噛み飛ばしたら、またちょっとはなれて吼える。これで、残りのゾンビたちは、ターゲット変更して、ロウを追うことにした。
ゾンビたちが離れたことを確認して、アンジェリナはすぐ休憩室のドアを軽くノックする。しばらくすると、キムチェヨンはドアを開け、
「し、司馬さん、な、なぜここに?」
キムチェヨンは、喘ぎしながら、アンジェリナに聞く。
今日のキムチェヨンは、ちょっと変わった。いつもすっぴんの彼女も、ちょっと化粧した。そして普段よりきれいな服を着て、髪も染めた。必ずいい出来とは言えないが、結構頑張ったと見える。しかし、賛美するの時間はない、アンジェリナはすぐドアを閉める。
「チェヨンさんこそ、なぜここにいるの?」
「わ、わたしはライブに……」
「でも、参加者リストにチェヨンさんがいなかったよ」
「た、たぶん担当者がまちがったのかな」
話している間、アンジェリナはちょっと気づく、キムチェヨンのポケットに不自然な突起がある。彼女が懸命に話しているとき、アンジェリナは素早く、ポケットから、例のものを取り出した。
ビュレットだ
化学実験用のものではなく、運搬向けの容器というべきか、真ん中の部分を厳重に守っている。しかもガラスは恒温設計で、周りに液体が流れている。ちょっと触ったらすぐわかる。冷凍液だ。
「あ、これ、返してください!」
キムチェヨンはすぐ奪おうとするが、アンジェリナのほうははるかに素早いので、どうあがいても、触ることすらできない。数回やったら、キムチェヨンはまだ喘ぎはじめ、そして、
「は、早く返してください!こ、これが、こ、壊れたら、た、大変なことに、な、なります!」
大変なこと?
「あ、もしかして、この中に危険がウイルスが入ってるとか?例えば、人をゾンビに変わるウイルス、みたいな?」
「え?」
キムチェヨンは目が丸くしてアンジェリナを見る、ちょっと黙ったら、また一生懸命で頭を振り、全力で否定する。
「じゃあ、もしかして、ワクチン?これがあれば狂人とかは治れるとか?」
「な、な、なぜ知ってるのですか……」
「え?まさか、本当に当たったの?映画やゲームでよくある話だけど」
キムチェヨンはちょっと黙り込む。アンジェリナをずっと見ながら、何かを考えている。たぶん、アンジェリナに真相を語るべきかどうかを見定めたかっただろう。
美貌、金銭、地位、頭脳、そして身体能力まで完璧のアンジェリナは、何となくキムチェヨンの嫉妬対象で、数日前までは、一番関わりたくない人のナンバーワンだった。しかし、数日一緒に仕事をしたら、目の前の女の子は、自分の想像と全然違う。貴族令嬢の高飛車のところは一切なく、やさしくて素直、いつも微笑んで自分に話をかけてくる。
悩んだ末、キムチェヨンはとうとう口を開く、
「し、しば……アンジェリナ、わ、わたしを、信じてくれますか?」
これを聞いて、今度はアンジェリナが黙り込む。難しい質問だ。数秒間の躊躇い、一瞬微妙な表情、全部キムチェヨンにみられる。
「わ、わかりました」
二人ともちょっと沈黙したら、突然、キムチェヨンはアンジェリナに体当たりを繰り出す。不意打ちのためアンジェリナはキムチェヨンに吹き飛ばされる。そしてキムチェヨンは素早くアンジェリナからビュレットを奪い、ドアのところに走る。
外にゾンビがいないことを確認したら、キムチェヨンは振り返って、アンジェリナに向かい、
「あなたに真神のご加護を、わたしの友よ」
そして外に逃げた。
先の一撃は重く、アンジェリナの頭がぶつかれて、キムチェヨンの言葉を聞いたら、気を失う。
どれぐらい時間たったのか。焦げた匂いが、アンジェリナを覚ます。しかし、なぜか縛られている。
遠いところに、ジェイ、アイザック、見知らぬのアジア系の男が、部屋で何かを探している。開けっ放しのドアの外に、焼き焦げた死体が数体ある。そしてすぐ隣に、同じく縛られている竹内唯とウタレフがいる。
「目が覚めましたが、お姉ちゃん」
アンジェリナを見て、ウタレフは小さい声で話す。
「一体何があったの?」
アンジェリナは体を動かし、縄を解こうとするが、無理のようだ。
「あの人たちが、お姉ちゃんはウイルス治療のワクチンを持っているって言いました。しかし、僕たちが来た時、お姉ちゃんはすでに気を失って、ボディチェックしてもみつからなかったから……」
「ちょ、ちょ、ちょっと、ボディチック、だれが?」
「ゆい姉ちゃんでしたよ」
ちょっとほっとするアンジェリナは隣で昏睡している竹内唯を見て、
「ゆいちゃんはどうしたの?なぜ彼女も縛られたの?」
ウタレフはちょっと困った顔で考えたら、
「ゆい姉ちゃんはお姉ちゃんを助けるためで、あの人たちとトラブル起こりました。僕も同じですよ」
会話の声を聴いて、アンジェリナは目が覚ましたと判って、三人の男がやってくる。一番先に来るのはジェイだ。すぐアンジェリナの腹に全力の蹴りを入り、この一撃で危うくまだ気を失うところだった。
ジェイはさらにアンジェリナの髪を掴み、
「ワクチンはどこだ?早く出せ!」
そしてまた数回の蹴り。後に駆けつけてきたアイザックとパクヒュンキュンの止めがなければ、たぶん本当に昇天したのだろう。
ジェイの代わりに、パクヒュンキュンはしゃがんで、アンジェリナに話をかける。
「俺はパクヒュンキュンだ。よろしくな、お嬢さん。悪いことは言わない、俺たちはみんなウイルスに感染されたんだ。治療するのはワクチンが必要。一階で重傷の研究員と会って、金髪の女に奪われたって言ったので、君のことだよね。おとなしく渡せば、被害は加えない。これでめでたしめでたし。いいんじゃない?」
金髪?確かに、キムチェヨン今日の髪色は金色だ。やっぱりあの時のビュレットはワクチンに違いない。
「残念ながら本当に知らないよ。今の状況で、アンジェリナが嘘つくメリットはある?」
パクヒュンキュンはちょっと考えたら、ジェイとアイザックを再度探せて、
「だましたらひどい目にあうぞ」
と言って、一緒に探しに行った。この時間で、アンジェリナは体を動かし、竹内唯を覚ます。三人で逃げる方法を相談しているその時、歓声が聞こえてくる。ジェイは何かを見つけた。ビュレットだ。中に青い液体が入っている。しかも、注射用の道具もある。
ジェイはすぐ興奮して自分に注射しようとするが、すぐパクヒュンキュンに止められた。
「本当のワクチンかどうかはわからないだろう?まずはちょっと試すか?」
ジェイはちょっと考えて、確かにそうだ。なら、縛られている三人はちょうどいいモルモットだ。アンジェリナとウタレフは感染されていないのようで、竹内唯はターゲットだ。
この状況を見て、アンジェリナはまずいと思う。ワクチンなら間違いなくキムチェヨンが持っていかれた。ならこれは、厳密にいうと、これ“も”ワクチンの可能性は低い。たとえこれはゾンビウイルスじゃなくても、変なものが注射されるのは危険だ。
仕方がなく、アンジェリナはジェイを止め、ワクチンはほかの人に持っていかれたことを白状する。
パクヒュンキュンはちょっと笑い、
「最初から話せばいいじゃない?じゃあ、案内してもらおうか。本当かどうかはわからないからしね」
ナイフでアンジェリナ縄を切り、
「この前はずっと上に登っていれば、今はさらに上にいるかもしれないね」
アンジェリナは先蹴られたところを揉みながら、竹内唯とウタレフの縄も解こうとするが、ジェイに止められ、ウタレフは解くが、竹内唯なら足の縄だけ切られた。
アンジェリナはなぜ、と問い続けたら、ジェイはめんどくさそうに答える。
「こいつ、先は俺を齧ろうとしたんだ。たぶん、そのうちゾンビになるだろう」
竹内唯はゾンビに変異?では一刻も早くワクチンを手に入れなければ!
次回を待て!