第七十二話 『ロストチルドレン』
一方その頃
巨大な蜘蛛、背後に人の顔がついている。目の部分は黒い穴しかないが、それでも竹内唯とウタレフは睨まれているような気がする。
ウタレフはすぐ手で自分と竹内唯の口を塞ぐ。鼻だけでこっそり呼吸して、小さい音でも蜘蛛に攻撃されるかもしれない。
蜘蛛は何かを探しているのように、壁でゆっくりと動く、十本ナイフのような足が、壁に擦って金属の摩擦音がする。ちょっと動いたら、竹内唯の目の前に迫ってくる。
ウタレフが全力で彼女の口を塞げなければ、とっくに悲鳴を上げただろう。しかし、あと数センチの接触するところだ。うかつに動いたら攻撃される。そのままじっとしていればぶつかる。
突然、蜘蛛の動きが止まる。何かを発見したのように、足を縮んで、体を丸くする。そして次の瞬間、すぐロビーのほうに走る。
ロビーから、悲鳴が聞こえてくる。厳密にいうと、悲鳴ではなく、ただの鳴き声、痛さも怖さも感じずに、攻撃された時に、無意識に喉から音を出しているだけかもしれない。
もうちょっと経ったら、ロビーの騒ぎは鎮まった。急に異様に静かになって、遠いところ微かの金属足音や、捕食の音すらはっきりと聞こえる。
いわば蟷螂、蝉を窺い、黄雀、後ろに在り。ゾンビたちは狂人を襲い、そして今は蜘蛛のおかずになってしまった。
やっと、ウタレフは手を離し、前に来る階段を指し、今すぐドックビルから離れると、竹内唯に促す。しかし、蜘蛛の化け物を見た以上、さらにアンジェリナのことを心配する竹内唯、こっそりとロビーのショットガンを回収して、ウタレフに早く先に逃げろと、逆に指示する。
蜘蛛の化け物は音で獲物の場所を判断すると何となくわかった二人、言葉はできないが、ボディランゲージで、ダンスしているのように相手を説得しようとするが、どうやら無駄のようだ。
竹内唯にとって、アンジェリナといい、ウタレフといい、自分より年下の子供、危険に晒すわけには行けない。特にアンジェリナの場合、この前狂人に襲われた時、一生懸命自分を庇おうとした。このまま自分だけが逃げて、彼女の身に何があったら、たぶん一生後悔するだろう。
では、ウタレフをいったん下に送って、再度ここに戻るのか?
ウタレフはこの考えを見透かしたのように、竹内唯の服を掴み、自分の一緒に上に行くと、手で説明する。
仕方なく、竹内唯はウタレフの手を掴み、こっそりと、再び上に向かう。
元々それなりに綺麗なビルは、今は血と肉片の海と化した。あちこちに千切られた手足、壁は血で真っ赤に染まれた。上に登れば上るほど、無残な死体が多くなって、まるで地獄の旅のようだ。
ちょっと変な音を聞いたら、二人はすぐ身を隠す。ゾンビと狂人の戦いは何回も遭遇した。幸い獲物を見つかったらゾンビは必ず呻き声をするし、狂人たちも別に声を殺してゾンビから隠す気はないようだ。これで、敵の行動は結構把握しやすくなる。そして、上には蜘蛛の化け物もない。
4階、竹内唯は、ゾンビの死体辺りに、千切られた縄を発見した。これは確かにウタレフを救出したとき、アンジェリナと一緒に見つけた縄だった。二人それぞれ数本持っているから、つまりアンジェリナはここに来たことがある。
さらに上に登る。
7階の廊下。この前にウタレフを救出したところだ。囮作戦で倒した狂人たちは、いまだに縄で縛られている。しかし、とっくに目覚めたはずの狂人たちは、静かに倒れている。よく見ると、一部体のパーツは、すでに消えて、地面にも血がいっぱい。どうやらゾンビに襲われたようだ。
いくら自分たちを襲った狂った人達とはいえ、縛ったのは竹内唯自身だ。そのせいで、狂人たちは抵抗も逃走もできずに、ゾンビに食われた。なぜか複雑な心境になってしまう。
せめて、死体は縛られずに、と思って、竹内唯は狂人死体の縄を解けようとするが、近づいたら、狂人は急に眼を開け、叫び始める。
次の瞬間、肌も変色し始め、肌色から白、白から青に変化する。そして縄を千切れ、咆哮しながら、二人に襲い掛かる。
狂人は急にゾンビ化した。果たして竹内唯とウタレフの運命は?
次回を待て!