第六十九話 『バンパイアキャッスル 上巻』
一方その頃
「主の元に行かせん!」
「狼だと思ったら犬か」
「減らず口を!」
新元4年9月22日夜、巨人国の部屋で、空中から、衝突の音がする。諸葛夢は、狼男と戦っている。二人がぶつかるときに発生する衝撃波は、部屋中に拡散し、燃え焦げた家具は震え、一部は亀裂が入り、崩れていく。
郭小宝は巨大なベッドの下で、観戦しながら、諸葛夢に応援する。
狼男、体中に灰色の、鋼の針のような毛が生え、筋肉も異常に発達し、背は諸葛夢より若干高いだけなのに、体型は倍以上の差に見える。
今まで戦ってきた敵と比べ、かなり弱いほうだが、いかんせん諸葛夢もマナが金剛伏魔呪によって封印され、かなり弱体化されたため、結局苦戦の落ちいた。昔なら、狼男レベルの魔族は、ワンパンで倒せるぐらいだった。
身体能力は互角だが、相手のほうが有利だ。なぜなら、狼男は地の利を得ている。部屋の家具は操られたのように、大きさが頻繁に変化し、諸葛夢の行動に邪魔をする。
数十ターン戦ったら、諸葛夢はベッドの辺りに戻り、郭小宝を捕まって逃げようとする。
「何やってんのよ!もっと戦ってよ」
「ここは不利だ」
二人は部屋を出そうとするが、狼男はそれを悟り、周りの小物を飛び道具として、二人に投げる。カップ、湯呑、ブラシ、リモコン、写真立てなど、日常でよく見かけるものでも、巨大化して高速飛ぶと、殺人道具となる。特にガラスなどの破片は致命的だ。
仕方なく、諸葛夢は郭小宝をつれ、ベッドの下に戻る。投げれるものがなくなって、狼男は時計の数字を外し、二人に投げ始める。
「本当にこんな攻撃方法があるんだ」
だが、これでチャンスは生まれる。諸葛夢の読み通りというか、知っている通り、狼男は時計の針を投げ始める。針なら、軌道が読みやすいうえ、諸葛夢も取り扱える。
一躍して飛んでくる針を受け取り、逆に狼男に投げ返す。体に命中しなかったが、ズボンが針に引っかかって、しばらくは狼男は追撃できなくなった。
今のうちだ。諸葛夢は郭小宝を連れ、部屋から逃げ出した。外では別の意味で戦いにくいが、家具の邪魔はなくなって、挽回可能になる。
「なんでずっと逃げ腰なの?だらしないね」
郭小宝は諸葛夢の手を振りほどき、不満を漏らす。
「だから、そっちは戦いにくい」
「ただの犬人間でしょう?」
「いや、俺は挑発のために言っただけだ。本当に犬だと思っているのか」
「今の男子、本当に使えないわね。仕方ない、あたしについてきな」
郭小宝は、諸葛夢を連れ、骨空間に戻り、
「夢ちゃん、あそこの骨、取ってきて」
「俺は犬か?」
「犬対策だよ」
「は?」
「つべこべ言わずに早くいけ!」
仕方なく、諸葛夢は郭小宝の指示通り、ある大きな骨を、壁から抜きだした。子供向けカトゥーンでよく見れる、犬大好きな骨の形だ。
(まさか)
諸葛夢はまだ考えている途中、郭小宝は骨を奪う。ちょうど狼男は部屋から追ってきたころだ。しかし、郭小宝が抱いている骨を見たら、すぐ表情が変わった。元々殺気いっぱいの険しい表情から、笑っているのような、うれしそうな、バカっぽい表情に変わる。そして後ろの大きな尻尾も、激しく振り始める。
「よしよし、いい子だ。とっときな」
郭小宝は、骨を空間の真ん中、血の池の真上に投げる。狼男は、わんと吠え、飛んで骨をキャッチする。骨をキャッチしてから、やっと我に返って、しかしすでに遅い。そのまま、狼男は血の池に落ちる。
自分が結構苦戦した敵なのに、あっけなく撃破されるとは、諸葛夢は驚く。が、表情はあんまり変わらない。郭小宝は近くで必死に彼の顔を観察して、目がほんの少し大きく開けただけ、だそうだ。
「いや、まだ終わってない」
自分の顔をガン見している郭小宝を解き、諸葛夢は崖っぷちで下を覗くと、狼男は下から、こちらに登ってきた。
「大丈夫大丈夫、任せなさい」
郭小宝は諸葛夢の前に出て、
「はい、お手」
やっと上に登った狼男が、すぐ両手が郭小宝の両手の上に乗せ、おとなしくお手の芸を披露。これで、再度下に落ちる。
「これで、しばらくは上がらないわ」
ぼーっとしている諸葛夢を連れ、二人は巨人部屋向こうのドアに向かう。カトゥーンならではの対処法は現実世界で通用するとは、諸葛夢は思わず、空いている手で顔を抑える。
焼け焦げた部屋を通り抜け、ドアを開けると、上に向いている階段がある。しかし今までの雰囲気とまたガラリと変化し、まるで天国に向いているのように、上のほうは眩しくて、目が開けれないぐらいだ。
地獄のあとは天国か。確かにドックビルの最上階からB2まで数えると、18階※あったな。ここはまだドックビルだったらの話だが。と、諸葛夢はふと思う。
B2から計算したら、今二人のいる場所は大体10階ぐらいのはず。それなら、屋上まではあと8階ぐらいだ。普通の歩くスピードなら、二、三分ぐらいの距離だ。
しかし、二人は三十分も登ったのに、上はまだまだ階段が続く。本当に天国に行かせる気か。
郭小宝は、喘ぎながら、階段に座り、後ろの諸葛夢に、
「ねえ、夢ちゃん、またおんぶして」
「冗談じゃない」
「これでもジェントルマン?レディーに対してやさしくして」
「次はどんな敵が出てくるのかがわからない。俺は体力を温存する必要がある」
「さっきのワンチャンをやっつけたのはあたしだけど」
「じゃあ次の敵はまた骨を投げるつもりか?あの犬男の主も犬とは限らない」
「へいへい、口だけの達者ね。今度変な奴と出会ったら、言葉で相手を感化しなさいよ」
郭小宝は顎を抑えながら、諸葛夢を皮肉するが、急に、諸葛夢の後ろに何かあると気づく。よく見たら、すぐ興奮して、
「あ、夢ちゃん、後ろ後ろ、ドアある」
振り返ると、確かに自分の後ろにドアがある。たぶん眩しすぎて登る一方で、気づかなかっただろう。しかし、本当に運がいい、郭小宝が階段で座らなければ、たぶんこのままミスっただろう。
ドアはロックされているが、これぐらいなら、諸葛夢は一握りで破壊できる。出たら、また別のところ、というより、普通のところに戻った。頭を上げると、星空が見える。周りは一辺の廃墟から判断すると、たぶんここはドックビルの屋上、かつての17階のところだろう。
元々部屋だったところに、まだ壁や内装が少し残っている。そのため、本物の屋上と違って視野はかなり制限されている。しかし、遠いところから、ライトの光が見える。
後ろの眩しい階段はすでに消え、今は通常の階段だ。このまま階段を下りて、計画通りに警備員に事情聴取すれば、今日の仕事は終わる。しかし、こんなところで照明ライトがついていることは、ちょっと不思議と思って、諸葛夢はまずここを調べたいと思う。
「あ、蚊だ」
郭小宝は、急に諸葛夢の首に、掌で叩く。そして確認したら、確かに蚊だ。今空に飛べるものと言えば、雲や埃などを除けば、生き物は蚊みたいな虫ぐらいだ。天気はまだ暑い、蚊がいるのもおかしいことはない。しかし、よく17階まで飛び上がったな。
考えているとき、二人は照明の辺りに辿る。そこには高いタワーらしき物体があり、照明ライトはタワーの上にある、アームからぶら下がっている。かなりハイテクな形をしていて、下には白衣の研究員たちが忙しそうに働いている。
白衣の人たちが使っているパソコンの上に、大きな円筒型の容器があり、容器の真正面にドアがある。開けっ放しで、中には何もない。
「あ、あれ、昔テレビで見たことある。蚊を収納するための檻だよ」
「蚊を?」
「ええ、なんかDNA改造か薬品がつかわれたか、特殊のオスの蚊を放出して、メスの蚊と交尾するの。これで、卵は孵化しないって」
これなら諸葛夢も知っている。しかし、蚊対策にしては、大がかりすぎる。何かの実験でもやるつもりか。が、さすがに張三は蚊に血が吸われて死んだわけじゃないし、ここの白衣は吸血鬼に関係なさそうだから、何やろうとしても自分には関係ない。とりあえず元の階段に戻って、下に降りろうと、諸葛夢は思う。
その時、急にタワーの向こうから、何かマナの波動が発生し、急に眩暈になって、眠気が襲い掛かる。視線はどんどんぼやけていく中、微かに白衣たちもどんどん倒れていくことを目撃する。そして、目の前は真っ暗になって、気を失いそうだ。
「夢ちゃん夢ちゃん、どうしたの?」
郭小宝は後ろから諸葛夢の背後を叩いて、なぜか、急に眠気がなくなった。しかし、めまいはまだする。よく見ると、屋上は物理的に変化し始めた。白衣の人たちは謎の空間に飲み込まれ、そしてまたどっかわからないところから大きな石が飛んできて、組み立てはじめる。
しばらくすると、大きな建物が完成した。灰色で、中世ヨーロッパの城だ。もっとよく見ると、諸葛夢は思わず背筋が凍ってしまう。
吸血鬼の城だ
※中国の伝説では、地獄は18層がある。だから、昔口喧嘩で相手を呪うときは、18層の地獄に落ちろってよく使われた。18層の刑罰は一番重いらしい。
吸血鬼はとうとう登場するのか。諸葛夢は果たして吸血鬼退治できるのか。
次回を待て!