第六十七話 『狂人の宴』
一方その頃
ドックビル10階某所、かつてはバーとして使われ、災前なら、年齢上絶対入れない四人の若者が、中でビルから脱出方法を相談している。
男女二人ずつ、女子はアンジェリナと竹内唯、男子は背の高い、おしゃれな白人ジェイとぽっちゃりで、オタク系の黒人アイザック。二人ともアンデ・スミス高校の二年生だ。
時間ちょっとさかのぼり、アンジェリナは劉凡菲のことを聞いて、興奮しすぎて大声で叫んだせいで、二人を捜査している狂った人達に見つけられ、あっという間に追い詰められた。
二人を迫る三人の人間、血だらけ、目の交点は時々変な方向に行く。口からちょっと白い泡が噴き出している。
女子の二人はもう逃げ道がないと判断し、三人は手を上げ、二人を殴ろうとするが、拳はまだ二人に届ていないその時、ポンポンポンと、数回の打撲の音がする。必死に竹内唯を庇っているアンジェリナは頭を上げ、三人はすでに倒れ、後ろから二人の人影が見えてくる。
男子の二人は格好いいポーズを決め、女子の前にアピールしようと思ったが、倒された三人はすぐ、ふらふらと立ち上がる。さっきの攻撃は、箒が折れるぐらいの力だ。なぜまだ無事そうな立ち上がる?と、四人は同時に思う。
状況がまずいと思って、男子は女子を連れて、さらに下に降りる。階段辺りうろついている人がいるから、まず10階のところで、安全そうな場所を見つけ、とりあえず身を隠す。
お互いに簡単な紹介を済んだら、アンジェリナはまずこの前の状況を尋ねる。三人は大体一緒だ。ライブに参加しているとき、急に眠気が襲い、そしてそのまま眠ってしまった。目が覚めたら、周りの人が変になった。ぼーっとしている人もいれば、狂暴になった人もいる。ライブ会場で、あちこちで喧嘩の声が聞こえる。
ジェイとアイザックは先に危険を感じて、まずライブ会場から脱出した。竹内唯は目覚めたのが遅いから、結局襲われた。幸い彼女に攻撃仕掛けたのはかなり細くて、風吹くだけで倒れそうな弱い男で、何とか逃げ切れた。そして会場から出たとき、アンジェリナとぶつかった。
今回のライブ、スタッフ合わせて200人ぐらいいる。現在狂った人数、詳しい数字はわからないが、感覚的に半分ぐらいだ。
しかし、アンジェリナはちょっと疑問を思う。人気アイドルの劉凡菲は来るのに、なぜ参加者は200人しかいない。
劉凡菲、大災の時、みんなが地下で避難している時期、己の歌声で、人々の心を癒し、励まし、恐怖と不安から、老若男女を守ってくれた、たった一人の歌姫。災後も、唯一アイドルと呼ばれる存在。多くの人にとって、彼女は女神だといわれても過言ではない。
人々が地上に戻ったあと、彼女のアイドル活動は大分減ったが、それでもファンが多く、現に、その場にいる四人の中に、三人は彼女のファンだ。
特にアンジェリナとアイザックは、かなり強熱で、劉凡菲の名前が出るたびに、目がキラキラして、自分の推し活を語って、たまにハイタッチもする。
劉凡菲は今日のサプライズゲストのことは、まだ噂程度で、アイザックの話では、情報漏れを厳しくチェックして、ごく一部の人間しか知らないが、やはりおかしい。
彼女はどれぐらいの人気があるかというと、実は夏休みの時期に、一回ライブコンサートをやった。アンジェリナは研究プロジェクトでめちゃくちゃ忙しかったが、無理やり時間を作って参加した。当時の入場者すだけで10万人を超え、会場外で応援している人を含めれば、ネオシャンハイの総人口の1/10にも及んだ。
こんな人気アイドルが、1000人以上が入れる会場で、200人だけのライブでサプライズ出演自体は、おかしいと、アンジェリナは思う。
「いまはそんなことを気になってる場合じゃないだろう」
バーの入り口で見張りをやっているジェイは、アンジェリナの話を止め、
「まずはここから脱出方法を考えるべきだ」
「どうやって、外は狂人だらけよ。もしかして、一階のロビーであたしたちを待ち伏せしているかもしれないわ」
竹内唯は、バーを捜索しながら、ジェイに聞く。
狂人、表現しやすいため、現場の4人は、狂った人々をこう呼んでいる。安易だがわかりやすい。
「なら徹底的にやるしかない。どうせいずれ見つかれるからな、武器とか用意して、反撃するぜ」
ジェイはアイザックに合図を送る。交代の時間だ。アイザックは見張りをやって、ジェイはバーの中に、何か武器として使えるものはあるか、調査する。
バーの中に、まだ使えるものがたくさん残っている。竹内唯も手伝って、武器を探す。前にすでにちょっとした道具が見つけ、アンジェリナはこれらの道具を医療用品として加工する。
見張っているアイザックは、ぼーっとアンジェリナを見る。美しくてかわいい、なんて美人だ。それに、共通の趣味もある。外に人影がないと確認し、アイザックは深呼吸をして、アンジェリナの隣に行く。
「手伝うか?」
「いや。大丈夫」
「俺、アイザック」
「俺、アンジェリナ」
「ねえ、アンジェリナ、今度フェイ(劉凡菲のこと)がまたライブをやったら、一緒に行こうか?」
まだ布を千切って繃帯を作っているアンジェリナ、アイザックを見て、下種笑いしながら、アイザックの肩を掴み、
「アイザック君?アンジェリナは今年三年生だよ。あなたの先輩なの。ちゃんとさん付けか、先輩と呼びなさい。さもなくば、コンクリートに入れ、黄浦江※に沈んでやる。わかった?」
「ひ、ひいいいいいいいい」
小さく悲鳴しながら、アイザックは謝りながら、ドアのところに戻って、がたがた震えながら見張り続く。
一方、ジェイと竹内唯は、ちょっと争っている。アンジェリナはすぐ確認しに行くが、どうやら発見したショットガンを奪い合っている。
ショットガンを見つけたのは竹内唯だが、ジェイは銃器は男に渡すべきと主張し、二人は口喧嘩し始めた。パーッとみると、竹内唯は小柄で結構おとなしく見えるが、ショットガンを捕まって、どうしても手が離さない。ジェイも、暴発を恐れて、全力で奪えない。
アンジェリナはすぐ二人を止め、
「まずは、このショットガンにちゃんと弾が入ってるかどうかを確認すべきでは?」
アンジェリナはショットガンの弾倉と薬室を確認したら、空っぽだ。これで、争いは一旦終止符が打たれる。
「じゃあ、もしかして、このバーのどこかに弾薬があるかもしれないよ。誰が先に発見したら、ショットガンは誰が持つ」
ジェイはちょっと嫌がる。アンジェリナは続けて、
「では、多数決しよう」
アンジェリナはアイザックを見て、こっそり、手を刀の形をして、喉に当たる。アイザックが見たら、すぐ、
「お、俺はアンジェリナ先輩と同意見です」
「よし、三対一、では、よ~い、どん!」
仕方なく、ジェイは手を離し、バーの中でもう一度満遍なく探し始める。そしてなんと、本当に一箱のショットガンの弾を見つけた。しかし、振り返った瞬間、アンジェリナは竹内唯の手を上げ、
「勝者、竹内唯ちゃんだ!ゆいちゃんは先に弾薬を見つけたので、ショットガンは彼女のものだ」
「まじ?」
ジェイはすぐ確認するが、確かに竹内唯にも一箱の弾を持っている。仕方なく、負けを認めた。
「ところで、どこで見つけたんだ?」
「アンジェリナが見つけたんだよ。先ハサミを探すときに」
「これは不正じゃない?」
「どこが不正なんだよ?ゆいちゃんはちゃんとバーで弾見つけたじゃない?」
と言いながら、アンジェリナはジェイの見つけた弾を奪って、
「どうせ銃持ってないから、この弾も頂戴ね」
これで、バーの捜索は大体終わった。ビリヤードのキュー数本、二個電気のスタンド二個、酒と薬品少々、繃帯と縄数本、ライター数個、ショットガン一本と12発の弾。
キューとスタンドはガムテープで固定して、ハンマーとして使える。酒と繃帯と瓶で、火炎瓶数個作った。これらの武器はジェイとアイザックが所持して、アンジェリナは薬品と繃帯をもって、竹内唯はショットガンと縄を所持する。
これで、4人はバーから出て、一階のロビーに向かう。出発する前に、アンジェリナは三人を呼び止め、
「バーから出たら、一個約束して!人を殺さないで!」
「何バカなこと言ってる?あの狂人たちは俺たちを殺す気満々だぞ」
「それでもだめ!もし約束しないなら、別行動する!」
アンジェリナは竹内唯とアイザックを自分側に引っ張る。
なぜクラスメイトのアイザックは急にアンジェリナの言いなりになるのかはわからないが、今の状況で孤立されたらまずいと思って、仕方なく、ジェイは約束した。しかし、事故の場合、特に銃を使用して殺した場合は約束範疇外、これはアンジェリナも同意した。
バーから出て、廊下は静かだ。しかし階段のところから、まだ足音が聞こえる。狂人たちはたぶん別の階層で四人を探している。あるいはほかに獲物がいるかもしれない。
ちょっと相談して、比較的に足音の少ない階段を選んで、四人は下に降りてゆく。もちろんむやみに降りるのではなく、バーから出る前に、ちゃんと作戦を練った。
単純なものだ。一人だけの狂人を見つかったら、アンジェリナはまず先に出て囮になって、ジェイとアイザックはハンマーで不意打ちをする。倒れたらすぐ協力して縄で縛る。
三人以上の場合、階層に戻って、迂回して、ほかの階段で降りる。幸いドックビルには四つの階段があり、狂人は100人いても、個別撃破の戦術は対応できる。
こうやって、四人は三階まで降りた。しかし三階で階段を変更しようとするその時、またの騒ぎ。どうやら狂人は誰かを攻撃しているのようだ。つまり、ほかに生存者がいるってこと。アンジェリナと竹内唯は声を追って、ある部屋を見つけた。数人の狂人は子供を殴っている。人数は七、四人が相手するならなかなか勝てない。
ジェイは女子たちの肩を叩いて、これは救えないと、合図を送って、この場を去ろうとするが、竹内唯はジェイを掴む。
どうする?七人なら勝てるはずがない。
竹内唯は、今まで発射したことのないショットガンを三人に見せながら、アンジェリナを見る。部屋から子供の悲鳴が聞いて、アンジェリナはちょっと考えたら、頷く。
作戦自体は変わらない、アンジェリナは先に出して、狂人たちに注意を引いて、囮になる。その中の五人はアンジェリナを追って、残った二人は引き続き子供を殴ろうとするが、すぐジェイとアイザックの不意打ちで気絶。
アンジェリナを追う五人は、廊下の角を曲がったところ、見つけたのは、ショットガンを持っている竹内唯だ。彼女はすぐ狂人たちを照準して、アンジェリナの教え通りに、トリガーを引く。一発撃ったら、すぐレシーバーをスライド、再度発射、そしてすぐさまショットシェル装填。
二発で、目の前の四人は全部倒した。しかし、一人足りない。竹内唯はすぐ振り返って後ろを見る。なんともうひとりは別のルートを取って、アンジェリナを捕まった。
距離が遠すぎたうえ、アンジェリナも一緒、竹内唯は銃で照準したが、発射はできない。しかし、相手の状況を見て、話し合う余地はないようだ。竹内唯は途方に暮れる。
しかし、狂人に捕まれたアンジェリナは、緊張すぎたせいか、無我夢中で逆狂人の手を掴む。一本背負い投げで、狂人を投げ出した。頭が着地して、狂人はすぐ動きが止まった。どうやら、魔法少女に変身して、地底の戦いで学んだ動きが、体はまだ覚えているようだ。
これで、狂人たちは倒した。アンジェリナと竹内唯は子供の面倒を、そしてジェイとアイザックは縄で気を失った狂人たちを縛りに行く。行く前に、アンジェリナは二人に注意する。銃で倒した狂人もちゃんと縛るべき。
ジェイはちょっと不思議だと思っている。あんな距離でショットガンの直撃、死ななくても重傷、縛る必要はあるのか。しかし実際に見たら驚く、撃たれた四人の狂人、血すら出ていない。
まだおかしいと思っているその時、部屋から女子たちの悲鳴が聞こえてくる。ジェイはすぐアイザックと一緒に、武器をもって例の部屋にいく。そこのアンジェリナと竹内唯は、目を遮ながら、
「あの男の子、素っ裸だ!」
※黄浦江、シャンハイを東西に分割する川。夜景はかなり綺麗ので、シャンハイに遊びに来るなら、おすすめのスポットだ。
三階に降りたアンジェリナ達、素っ裸の男の子と出会う。では、このままドックビルから脱出できるのか。男の子はいったい誰なのか。
次回を待て!




