第六十五話 『竹内唯』
一方その頃
「早くそこから離れて、危ないよ」
見覚えのある見知らぬ少女が、警告している。黒い長い髪で、白いワンピース、巨大なぬいぐるみを抱いている。前と違って、今回はウサギ。そうだ、かつて養女にしたい幼い女の子だ。
「あきら、ちゃん?」
「まだ覚えてるのね」
「玲ちゃん!今までどこに行ったのよ!心配したよ!」
「あたしなら大丈夫。それより、ドックビルは危険、早く逃げて!」
「危険?どういう、こと?」
まだ聞きたいことがいっぱいあったけど、目の前の北条玲は眩しい光り出す。再度目を開けると、暗闇に倒れていることに気付く。
停電?
アンジェリナは起きて、ちょっとストレッチする。でもなぜか顔がいたい。ちょっと顔を揉んで、自分は地面で寝ていたと発覚する。なんかおかしい。
この前、眠いと思って、16階のライブ会場から出て、15階に降りた。ソファーのある部屋を見つけて、ちょっと眠たいと思ったが、まだ二、三メートルも離れている。たぶんまだソファーに届いてないところに、眠ってしまったんだろう。
あと、変な夢を見た。北条玲が、この建物は危険で、早く離れろって言われた。いま思えば、確かにあの子は夢を操る力があったはずだが、でもふつうの夢かもしれない。
引き続き自分の顔を揉みながら、アンジェリナは休憩室から出る。廊下のライトは、電圧のせいか古すぎて故障したのせいか、ずっずっずの音の鳴らしながら明滅する。
そして、この辺りは静かだ。このビルの防音はかなりいいものなので、上がライブがやっても、ここは何も聞こえない。が、それにしても静かすぎる。ほかに休憩したい人はいないのかな?
とりあえずライブ会場に戻りたい。先夢でみた北条玲の警告は確か気になるが、でもやっぱり重要のやることがあるので、無理やりでも上に行きたい。考えている途中、廊下の向こう、もう一個の階段部屋から、人の声が聞こえてくる。
よかった。これで、ほかの人と一緒に上に行ける。アンジェリナは、すぐあっちに向かう。しかし、近づくにつれ、しゃべる声はどんどん激しくなって、喧嘩し始めたみたい。
ライブ参加者は若者が中心で、自分の推しアイドルのために、ちょっと口喧嘩になるのもおかしくはない。ちゃんと止めれば問題はないはず。
ボン!
何かのぶつかった音が、アンジェリナの考えを否定した。喧嘩の声も同時に消えた。すぐ階段のところに駆けつけるが、若い男が倒れている。血がたくさん出て、頭にはっきりした凹みが見え、遠くないところに血の付いた鉄パイプがある。
男をちょっと確認したら、もう息がない。上から走っているのような足音が聞こえる。どうやら犯人は16階に行って、観客の中に逃げ込む気かもしれない。
どうする?今すぐビルから出て警察に通報する?それとも追う?一瞬考えて、アンジェリナは16階に登る。
16階の真ん中は大舞台で、1000人以上は入れる。周りにはたくさんの部屋はあるがスタッフの休憩室や道具の倉庫だらけで、普段はロックされている。これも、アンジェリナが15階に降りて休憩室を探した理由だ。
犯人はライブに入った可能性が高いが、どっかの部屋に隠す可能性もある。ライブ入り口の近くに、若い男女は集まっていることを見て、とりあえず情報取集だ。
「あ、あの~、こんばんわ。すみません、先、あっちの階段のドアから人が入ってきたんですけど。どこに行ったのか、ご存じですか?」
反応はなし
「あの、何か不審者、変な人を見ませんでしたか?」
アンジェリナは、若い女の袖を引っ張る。女はゆっくりアンジェリナに振り向いて、全く無表情で、虚ろな瞳、何もしゃべらず、アンジェリナも見ずに、また頭を戻す。
変な人たちだ。仕方なく、まずライブ現場に行ってみるしかない。
分厚いライブ会場のドアを開け、中から、出てきたのは、眩しいライトでも、轟く音楽でも、熱意の歓声でもなく、一人の女の子だ。アンジェリナと出合い頭をして、二人とも尻餅を食らう。そして女の子は慌ててすぐ逃げたのように去った。
アンジェリナよりちょっと年上の少女で、しかも知っている。新元学園の一年生だ。学生資料でチラッと写真を見たことがある。確かに竹内唯っていう、中国で育った日本人の女の子のはず。
あの慌て様は異常だと思って、アンジェリナはターゲットを変更して、竹内唯を追うことにした。エレベーターの近くで彼女を見つけ、一生懸命にボタンを連打している。追ってきたアンジェリナを見て、悲鳴しながら壁際まで後退した。
自分よりちょっと年上のかわい子はパニックしていることを見て、なぜか急にいたずらしたくなる。白目して、奇声を上げながら、ゾンビごっごするアンジェリナ。
これを見て、さらにキャーっと叫ぶ竹内唯、すぐ金属のごみ箱をもって殴りかかる。
「あ!ちょっ、ちょっと待てタイムタイム!」
ドカン!
目を開けると、殴られて倒れたのは、後ろの男だ。竹内唯は、すぐアンジェリナの手を掴み、猛ダッシュして近くの非常口ドアに逃げ込んで、すぐドアを塞げた。
二人は喘ぎしながら、
「い、一体何があったのゆいちゃん」
「わ、わからないわ。中の人は、急に発狂した……、」
竹内唯は、すぐ変だと思って、
「あれ、なんであたしの名前知ってるの」
アンジェリナはまだ答えてないその時、非常口のドアは強くぶつかれ、隙間から手が入り、竹内唯の首を絞める。まずいと思って、アンジェリナはすぐ木の棒をもって、手に重く叩く。これでやっと解放された。
「詳しいことはあとよ。とにかく逃げよう、ここは危ない」
今度は逆にアンジェリナが竹内唯を引っ張って、二人は階段から下に降りてゆく。ちょっと走ったら、16階のドアが開けられた音が聞こえ、その次はたくさんの足音だ。10人ぐらいが、追ってきた。
女子の二人の足が速い、このまま逃げれば、捕まることはない。と、アンジェリナと竹内唯は一時思ったが、すぐ自分の甘さに気付く。
追ってきた人たちは、このまま追い詰めないと判断したか。そのまま階段真ん中の隙間から飛び降りる。飛び降りる時、頭や肩は手すりにぶつかって若干変形するが、どうやら痛みが感じないように、すぐチャンスを狙って、手すりを掴み、下から上に登ってくる。掴むときは、関節脱臼の音すら聞こえて、頭に血がてて、手も変な方向に曲がっている人がいるが、お構いなしに、二人を追い続ける。
これで、挟み撃ちになる。仕方がなく、とりあえず一番近いにドアに逃げ込み、すぐロックして、手に届けるあらゆるものを持ってきて、ドアを塞ぐ。それでも、外の人たちは、狂ったように、体でドアをぶつかる。ドアの微かの隙間から、たまに血が飛んでくる。
「ほかにまだ三つの階段がある。他の階段に行ってみよう」
ドックビルには四つの階段があり、二つは裏門につなぐ非常用階段で、二つの正門につなぐ通常階段。
「そうね。せめて、安全な場所でも見付けば……、」
走りながら、竹内唯はアンジェリナに聞く、
「これで、もう教えて、なんであたしの名前を知ってるの?あたしたち、知り合い?」
「いいえいいえ、知り合いじゃないよ。でもアンジェリナはゆいちゃんのこと知ってる。アンジェリナは先輩よ」
得意気に、アンジェリナは走りながら語る。
「え?でも、あなた、どうみてもしょ……」
「ゆいちゃん!」
アンジェリナは急に止まって、竹内唯の肩を掴み、
「外見で人を判断してはいけないよ。アンジェリナは三年生、ゆいちゃんは一年生。だから、先輩と呼んで」
「せ、せんぱい」
「うっひゃあかわいい!って言ってる場合じゃないね!」
またのノリツッコミ
「ライブ会場で、一体何起ったの?」
再び歩き出す二人、竹内唯は頭を振って、
「実は、あたしもよくわからない、ただ、今回の主催者は劉凡菲を……」
歩いているアンジェリナは急に止まり、目がキラキラ光りながら、また竹内唯の肩を掴みながら、彼女を揺らす、そして、
「ええええええええ?!凡菲姉は、ここにいるの?????」
ドックビルには一体何が起こったの。アンジェリナと竹内唯は無事脱出できるのか。
次回を待て!