第六十四話 『ドックビル』
吸血退治とは一体?
新元4年9月22日木曜日、午前、警察局、遺体安置所、諸葛夢はまた授業をさぼって、古天仁のいう、吸血鬼の被害者遺体を確認しに行く。
男性のマミー状態死体だ。黒人、見た目は五、六十才もあるが、実際は二十代、原因は体内大量の血液が失い、のどにはっきりと牙のあとが見える。
本名は不詳だが、通報者、男の大家さんの話では、張三※っていう名前らしい。黒人の名前は張三、だれでも偽名だと判るが、大家にとって、家賃さえ払えば、名前はどうでもいいことだ。
しかし、この張三は、ちゃんと家賃は払わなかった。これは我慢できない。数日前の土曜日に、大家さんは家賃取りに来たが、ドアをノックしても反応がなかったから、スペアキーを使って部屋に入った。玄関のところはめちゃくちゃだった。そして中に入ると、死体が発見された。
検死の結果、死亡推定時刻は9月16日金曜日早朝。死者には多数の打撲傷があり、現場から見ると、誰かと争ったことは明白だ。死因は失血死、後頭部の動脈が切られ、死者体内60パーセント以上の血液は消えた。しかし、現場にはその量の血液どころか、血痕すらほとんどない。
死者はフリーター、バイトで稼業をやっていた。数か月前に、とある旧ビルで警備員の仕事を見つけ、死亡の時は、ちょうど帰宅の時間だった。家には漁った痕跡はあるが、貴重品、被害者のブランド腕時計、ダイヤのアクセサリなど、盗まれてない。
周辺の住人に事情聴取をしたが、15日の夜に特に変わった人物がいなかった。最近空き巣事件もなかったから、無差別の強盗犯行の可能性は低い。一番高い可能性としては、吸血鬼に尾行され、そして殺された。計画的な犯罪の可能性が高い。
被害者は厳密にいうと、ビルの警備員ではない。ドックビル、被害者の住所から5キロ離れて、戦争時かなり被害が受けた建物だ。しかし、内部の設備はまだ使えるものが多く、しかもそこそこいい舞台があって、ミュージシャンたちにとって、いい集会場になる。そのためか、新人のシンガー、アイドル、バンドたちは、よくそこでコンサート、ライブを開催する。
最初は愛好者だけでやっていたが、徐々に有名人もサプライズ出演するようになった。不動産屋が政府からあのビルを買い取ったあと、正式修復する前に、しばらくはまたそのまま使わせるつもりだが、やはり安全確保必要があり、ライブとかがやるときだけは、警備員たちはそこで働く。
張三は、そのライブ警備員の一人だ。
「どう思う?」
被害者の住所で、古天仁は諸葛夢に聞く。死体を確認したら、二人は現場に移動した。
「傷口から見ると、吸血鬼は間違いないだろう。しかし妙だ……」
「どういうこと?」
「ああいうライブなら、若い女性もいっぱいいるだろう。若い女性の血は、マナへの変換率が高い、吸血鬼にとってもってこいのものだ。なぜ男を襲う?それに……」
諸葛夢は、玄関の残骸を確認しながら、
「吸血鬼は確かに弱い魔族、いや、人間界にいる時間が長いからかなり弱体化された魔族だ。それでも弱すぎる。ふつうの人間男とここまで争うか……、ほかの手がかりは?」
「今のところはもうないよ。この張三ってやつ、毎週一日か二日ぐらい働いて、ほかの時間は基本的にどっかで遊んでるよ。知り合いが多く、人間関係はかなり複雑でね。調査するには結構時間かかる。それに、学校鬼路のところ、また新しい事件が起こって、だから、俺のところも人手不足なんだよ」
「新しい事件?」
「この前、テロリストと交戦したんだろう?たぶんその中の一人だ。鬼路で死んだ。死因は前の女子生徒と同じ、頭は斬られた。」
「わかった。吸血鬼のことは俺が調べる」
「え?」
古天仁は目を丸くして、すぐ手で諸葛夢の額に当て、体温を確認し始める。
「おまえ、熱でもあるのか?それともあの剣魔の攻撃で頭が壊れたの?昔なら絶対嫌がってるだろう?まず俺が魔族を見つけて、おまえは戦闘だけやるって」
ち、舌打ちをして、諸葛夢はドアから出た。
「そっか、女か」
現場を後にして、諸葛夢は自転車でドックビルに向かう。とりあえず、張三の同僚に事情聴取して、何か新しい手掛かりあるかもしれない。うっかりして、到着の時誰もいなかったが、あの夜はライブあると聞いて、諸葛夢は敵とな場所を探して、ゲームボ○イで時間をつぶす。画面が見えないぐらい暗くなったら、ちょっとずつ若い人たちがビルに入るようになる。
元々は25階建てのビルらしいが、今17階以上は全部吹き飛ばされ、16階、舞台のある階層は最上階になり、17階が屋上になる。
ドアは三つあり、正門の一つと裏門二つ、地下室も含めたら、出入り口は全部五つ。若者たちはほとんど正門から入るから、堂々と吸血鬼のこと聞いてはダメだし、正門辺りに警備員らしき人物もいない。
ビルを一回りして裏門に辿り着いたが、ちょうど一人の警備員も、中に入ろうとする。諸葛夢はすぐその警備員を止め、
「張三って人は知ってるのか」
突然の声で、警備員はびっくりして、すぐ振り返って諸葛夢を見る。そして、
「なに?失礼ね。人に聞きたいことがあれば、そういう態度はダメでしょう?」
よく見ると、女性だ。帽子をかぶって、暗さも相まってはっきりとは見えないが、かなりの美人であることは間違いない。
身長が高く、すらりとした体型で、ファッションモデルと言われても全く疑われることのない体つきだ。しかし、警備員にしては、いささか筋肉が足りない様子。
そして、何より、それなりのボイン、どっかの誰かさんと正反対だ。
「なにじろじろ見ってんのよ。挨拶は?」
「あ、すまん。その、すまんが、張三っていう人は知らないか?」
諸葛夢は後頭部を掻きながら、再度女警備員に聞く。
「張三、何それ?どんな人?」
「身長190センチ、30歳ぐらいの黒人だ」
女警備員は大笑いした。
「黒人の張三?あなた、ふざけてんの?」
「おまえ、ここの警備員じゃないな」
「え?な、なんでこんなこと言うのよ。あたしはれ、れっきとした警備員だよ」
「ならなぜ自分の同僚が知らない?」
「あ、あたしは新人だもん。いけないのか?」
疑わしい人物だが、どのみち、張三については知らないのようだ。仕方なく、諸葛夢はビルに入ろうとするが、女警備員は彼を止める。
「何する気?」
「お前が知らないなら、ほかの警備員に聞く」
「チケット持ってんの?」
「別にライブ観にきたわけじゃない」
「だめ、チケットないなら、入れないわよ」
男だったらワンパンで気絶させたが、さすがに女に手が出せない。なら催眠術で昏睡させてもいい。そう思ったら、諸葛夢は手を上げる。が、女警備員はすぐ彼の指を捕まって、
「なに指さしてんのよ。人に指ささない!」
諸葛夢の手を離し、
「でも、よく見るとイケメンじゃない?悪い人に見えないな。じゃ、入っていいわよ。でもあたしはあとについていく。変なことしたら、承知しないわよ」
目の前の女は、アンジェリナに負けないぐらい手ごわい、ポケットの金属かけらを確認したら、全く反応がない。つまり、このビルは安全だ。とにかく入って事情聴取をやったらさっさと帰ればいい。
後頭部を掻きながら、諸葛夢を承諾した。
中に入ると、ボロい外見と違って、かなり綺麗に掃除された。すぐ左手側に、エレベーターがある。かなり新しいもので、ボタンを押したら、ちゃんと使える。たぶん新しく付けたんだろう。
エレベーターに入ると、ボタンがいっぱいある。
「ライブや、ほかの警備員はどの階にいる?」
「さあ……、あたし新人だから、知らないわよ。とにかく全部押しちゃえ」
と言って、女警備員は、25から、上から順番で押し始める。仕方がなく、諸葛夢は壁を凭れて、待つしかない。しかし、エレベーターの壁に接触した瞬間、電流のような激痛が、背後から伝わってくる。
女警備員はすぐ振り返って、諸葛夢を見る。
「あなた、どうした?」
「悪い予感がする。すぐここから出ろ」
女警備員の手を捕まって、エレベーターから出ようとするが、次の瞬間、爆発音と金属の音が聞こえ、そしてエレベーターは下の落ちてゆく。
幸い一階から落ちて、しかも保護装置が作動したため、けがはない。すぐ外部のドアをこじ開け、諸葛夢は女警備員を外に連れ出す。どうやらB2に落ちたようだ。
「すぐここから出ろ」
「どうしたんだよ?」
女警備員は諸葛夢を振りほどき、腕を揉みながら聞く。
先エレベーターの壁から伝わってきた電撃みたいな痛覚は、たぶんある種の結界だ。誰が、何のために、具体的にどんな結界を張ったのかはわからない。が、マナが封印された今、強力な魔族と出会ったら、かなりまずいことになる。
しかし、女警備員にどう説明すればいいのか、諸葛夢はかなり悩む。逆に、女警備員は先にしゃべりだす。
「ボタンめちゃくちゃ押してエレベーター壊したのは確かにあたしが悪かったけどさ。でもまだ仕事があるの。階段で上に戻ろう」
まだうるさくてしゃべっているその時、諸葛夢は女警備員の後ろのエレベーターの異変を気づく。ぽたぽたと、赤い液体が落ち始める。しばらくすると、大量の赤い液体が、エレベーターから吹き出し、液体から、血の匂い漂ってくる。
※張三、李四は、人を例える時に使う適当な名前で、実際この名前の人はほとんどいないぐらい。日本でいうと山田太郎的な感覚の名前だ(実名は山田太郎の方はすみません)
結局、吸血鬼退治も楽じゃない。女警備員との冒険は、始める予感
次回を待て!