第六十三話 『それぞれの決意』
しばしの平穏
新元4年9月20日、せっかくの、ごく普通、ごく平凡の火曜日だ。地底の一戦後、諸葛夢とアンジェリナは、二日休憩して、今日はまた学校に戻った。カイはかなり重傷のため、ポーションの力で一命はとどめたが、やはりさらなる休養が必要だ。古天仁はカイを家に送った。
午前中の授業が半分すぎ、旧校舎の屋上、諸葛夢は、授業をさぼってつまらなさそうに、ふちに座りながら、あちこち眺めている。旧校舎は静かだが、その周辺は全然そうではない。
遠いところに、巨大な穴がある。あれはあの夜、諸葛元が怪物の巨大エネルギー弾を弾き飛ばしたときにできたものだ。一番下は、当時の激戦場と、魔界の穴が残っている。今はすでに防衛部の管理下で、高いフェンスで囲まれ、厳重に隔離されている。古天仁の話では、軍は二大猟魔人組織の一つ、ディバインセイバーに頼んで、穴を封印するつもりだ。
そして封鎖された学校鬼路も、なぜか新しいバリケードなどが設置され、若い警察がそこで出入りして、まだ何か調査している。屋上からも、あの緊張の雰囲気を感じるが、殺人事件はすでにほぼ三週間前のことだからか、学生たちはもうあんまり興味がないみたい。
土曜日深夜の激闘、諸葛元の闘気が放出したとき、地上もはっきりと振動が感じる。学生たちは、そっちのほうに興味津々のようだ。色んなバリエーションの噂が流され、地下に怪獣とか、古代の財宝とか、化学物質の大爆発など、あってるようなあってないようなものもあれば、異星人侵入や、吸血鬼復活など、全くのでたらめもある。
しかし、これらはしばらく、自分と関係ない話だ。またちょっとした休暇が取れると、諸葛夢は思う。
「ヤッホー、やっぱりここにいるのね」
アンジェリナの声だ。ぼーっとしていて、頭も動かず、諸葛夢は適当に返事した。
「一般人の世界へようこそ」
「一般人?3分でこの校舎を平らにして見せようか」
「はいはい、旧校舎再建の時は頼んだわよ。どぐろ、括弧むう、括弧閉じる」
と言って、アンジェリナはすぐ隣に座る。非常に近いから、諸葛夢は少し、右にずらす。いつも通りのセーラー服に戻ったが、あっちこっちに絆創膏が貼られ、足にも白いニーソではなく、包帯が巻かれている。
「ど、どこ見てんのよ。この変態!」
自分の太腿を見ている諸葛夢を見て、赤面のアンジェリナはスカートを引っ張りながら、叫ぶ。
「いや、ただあの夜の戦いで、よく軽傷ですんだな、と思っただけだ」
「あ、実はあの後、アメシストが回復魔法使ってくれたの」
「お前、いつあんなもの手に入れた?」
「あ、あれはちよちゃんからもらったの」
アンジェリナは、あの日の出来事を、簡単に諸葛夢に説明した。
9月17日午後、カイは学校に戻って諸葛夢を説得して、アンジェリナはテロリストたちに尾行しようとした。しかしなぜか、入り口付近にすでカイがいる。あれはカイに変身した妖狐知世だった。知世はアンジェリナを誘拐し、彼女の召喚主、ある見知らぬおじさんに渡した。
しかし結局、あれは変態おじさんだった。エヴァシリーズか何かを言って、アンジェリナを妻として受け入れようとした。その行為を納得できなかった知世は、変態おじさんに反旗を翻した。が、どうやら召喚された魔族は召喚主に被害が加えない様子だし、変態おじさんにも強い手下がいて、知世は苦戦に強いられた。
そこで、知世から魔法のステッキをもらって、契約して魔法少女になったわけだ。某アニメの影響で、いきなり魔法少女の契約を誘う相手は信用できないと思って、一日だけの契約になった。本当は、アメシストを疑っていたわけではない。
と言いながら、アンジェリナは、ポケットから、プラスチック製っぽいステッキを取り出す。女児玩具のような形で、すでに亀裂いっぱいのボロイ状態だった。
「でも、あの後、アメシストは何の反応もない。どうなったのかな?」
「ダメージを受けすぎて、機能停止したんだろう」
「これ、修理できないのかな?」
アンジェリナはおもちゃステッキのボタンを押して、ガチャ、展開した。完全におもちゃ状態だ。
「俺の知ってるところでは、できないな。それに、できたって、まさかまた魔法少女に変身して戦う気?」
アンジェリナは沈黙する。しばらくすると、頭を振って、
「う~ん、わっかんない。暗闇問題さえ解決できれば、みんなは幸せな生活は手に入れるって昔は思ったんだけど、どうやら、思った以上にまだまだ課題残ったのね。」
「お前はちゃんと研究して、あの暗闇とやらを解決すればいい、戦うのは俺たちの仕事だ」
アンジェリナはまた頭を振って、
「そうもいかないよ。ずっとピ○チ姫状態だと、みんなの迷惑になるし、アンジェリナだって、みんなのために、戦いたい」
ピ○チ姫に謝れっとツッコミしたいが、やめた。
「決意するのはいいんだが、険しい道だぞ」
再び沈黙に落ちるアンジェリナであった。
「ねえ、ムウ、天下泰平になったら、何がやりたい?」
「なんだ急に? 藪から棒」
「アンジェリナはね。その時、漫画読んだり、ゲームやったり、いっぱいいっぱいあそびたい。だから、夢があるんだ」
「夢?」
「誰でも、どこでも、安心で、幸せで、ぐーたらで生活できる世界を作りたい! だから、それまでは……」
ドクン!
心臓が激しく鼓動。諸葛夢は突然、アンジェリナを見つめる。なぜか、目の前の少女は、ほかのだれかの輪郭と重ねる。かつて、誰かが、似たようなことを、ウキウキして、諸葛夢に語っていた。
「……、ねえ、ムウ、聞いてる?」
ぼーっとしている諸葛夢を見て、アンジェリナは思わず手を伸ばす。顔に触ったら、やっと我に返って、諸葛夢はアンジェリナの手を解く。
「いや、何でもない。ところで、お前、何しに来た? こんな話のためじゃないだろう?」
「あ、そうそう、今日はね。アンジェリナはムウに謝りに来た、そして感謝もしたい」
「は?」
「異星探検の時、黒い猛獣たくさん殺したのは、ゲン君だったね。あの時、ムウにひどいこと言っちゃった。ごめんなさい!」
「いや、別に、たまたまあいつが出てきただけだ。あいつじゃなくても、俺もやつら全員殺すだろう」
ツンデレキタ!!と、アンジェリナの心の中、そう叫んでる。
「じゃあ、感謝させて!」
アンジェリナも、ちょっと右にずらして、諸葛夢にくっ付く。
「なんだよ……」
「だから、命がけでアンジェリナを庇ったんでしょう?」
迫ってくるアンジェリナから逃げるのように、諸葛夢は右どんどんずらすが、アンジェリナもまたどんどん近づいていく。
「なんだ? 俺を犯罪者にする気か?」
「大丈夫大丈夫、偽の身分証明ならいくらでも作れる。もう成年だって言い張ればいいのよ!」
「そっちの問題か? っていうかお前は絶対無理」
「だから……ムウ!」
「黙れ!って」
自分はすでにふちの突き当りにいることに気付かず、諸葛夢は五階の屋上から墜落した。
「あ~~、ムウ! 大丈夫? 注意しようと思ったのに!フヒヒ」
(こいつ、絶対わざとやったんだろう)
屋上から出たアンジェリナの笑っている頭を見て、諸葛夢は思う。その時、人の影が現れ、光の問題ではっきりは見えないが、古天仁だ。
「おい、またいちゃついてるのか?」
古天仁は屋上のアンジェリナとあいさつをし、
「俺たちはもうそろそろ失業だぞ」
「俺は学生だ。お前も警察だろう」
諸葛夢は起きて、
「何の用だ?」
「だ、か、ら、魔界の穴の仕事はDSに奪われたんだ。これからのことをちゃんと考えないと本当にヤバイ。お前の生活費はどこから来たと思う?」
古天仁は諸葛夢に手を貸して、
「マナが封印されて弱体化されるのはわかるがな。でも本当に休む気? 俺はさ、お前のために、簡単な仕事を見つけたんだ」
「簡単?」
周りに人がいないことを確認し、古天仁は諸葛夢に聞く。
「吸血鬼退治ぐらい、できるだろう?」
吸血鬼退治?新しい物語の始まりだ。
次回を待て!




